春の陽気の6(適当)



これの続き。 


そういう意味でヤらせてやる気はこれっぽっちもなかった。
それで興が削がれるなら試す価値はあるかもしれないと思いはしたが、そうでなかった場合の自分のダメージは計り知れない。
三代目もそれなりの対策を講じてもらった以上、ここは耐えるしかない。せめて、もうしばらくだけでも。
「なんで?」
唐突に男が現れたときも、俺は驚かなかった。
あの話の後だ。この男の実力なら本気を出せば、それこそ手もなく好きにされるであろうことは想像できていたからだ。
「なんでもなにもないですよ」
だから、手を打った。それだけの話だ。
男は一定の距離から近づいてこない。
どうやら三代目の術は十分に効果があったようだ。
「これって…ふぅん?」
不満そうではある。だが…想像したよりはあっさり引き下がった。
これを解術への諦めととるべきか、余裕ととるべきか。
いかんせんこの男の思考は読み取りがたい。
普段からこれなら、ぱっちりさんも相当手を焼いていることだろう。
とはいえ、息は合っているようだし、仲も悪そうにはみえなかった。
選ばれるのはぱっちりさんでもよかっただろうに。
今でも…気の毒にも散々弄ばれているようだし、この上自分までおもちゃにする理由がどこにあるというのだろう。
…どうして自分にここまで執着するのやら。
「…見るだけでおわかりのようですから説明もしませんが、無駄に怪我をなさりたくなければ、俺に近づかないことです」
どうやらそれなりに効果のある結界だと聞いている。
里にいる全ての忍を統べるだけあって、三代目の手はずはそれは見事なものだった。
勿論その術の冴えも。
触れれば男を拒むこの結界が、痛みとともに物理的にその身を弾き返してくれる。
これで当面の安全はある程度確保されたといっていいだろう。
後はこの男が諦めてくれれば一番だが、そうは行かないだろうということは流石の自分にも分かっていた。
「それ、壊したらどうなるの?」
「さあ。三代目に聞いてみないことにはわかりませんね」
これは嘘だ。結界を砕かれたらすぐに逃げろといわれている。暗部を差し向けるとも。
恐らくわかっていて聞いているのだろう。
どこか楽しげなその表情に苛立ちと、それからちょっとしたいたずら心が芽生えた。
どうせ相手も遊びのつもりなら、こちらからし掛けてなにが悪い。
「今日はせっかくこれから休みだから、いっぱいしようと思ったのに」
さも残念そうな口ぶりを、その表情が裏切っている。
…どうせ逃げられないのなら、せめて意趣返し位はしてやりたい。
「なにをしたいのかしりませんが、俺の家に来る分には構いませんよ」
今ならこの男にどうこうされる可能性は少ない。
ぱっちりさんの気配はなくとも、三代目の手の者がどこかに控えているはずだ。
それなら、いっそ一度きちんと対峙したいと思った。
事態の好転は期待できないが、ただただ怯えて過ごすよりよっぽどましだ。
「へぇ?いいの?」
「ええ。ただしきちんと俺の許可を取って、玄関から上がってください。ちなみに不埒なマネをしでかした場合は、二度と俺の家の敷居を跨がせませんからそのつもりで」
チャンスを与えるのはこれっきりだ。
どうでるかは、予想すらできなかったが、挑発的な言葉にも男は鷹揚に頷いてみせた。
「んー?ま、いいんじゃない。それで」
いちいち人の神経を逆なでするのが上手い男だ。
…だが妙に人間くさくもある。
これまではただひたすらケダモノじみた行動に恐怖していただけだったが、少しは変わるだろうか。
この男ではなく、俺が。
…三代目の望むような関係にはなれないとしても。
「では、行きましょう」
「りょーかい」
道行を照らす夕日はやけに赤く、それに染まった景色に飲み込まれてしまいそうな気がした。


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適当。
どんどんつづいてしまうのでした。いつ終わるんだコレ。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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