これの続き。 ぱっちりさんの名前はどうやらテンゾウさんというらしいことはわかった。 …そして、どうやらあの変質者が、想像した以上の相当な実力者であるということも。 「あの、アレ…というかその、あの暗部の方は、何の目的で…?」 いきなり股間握ってきたり、いきなり押し倒してきたり…確かに実力があるのはわかってはいたが、まさか三代目でも手を焼くほどとは思ってもみなかった。 冷静に考えてみれば確かに暗部の部隊長なら、ありうるか。 つまり、これまでも相当に厄介だと思っていた相手が、さらにとんでもない相手だということが分かってしまった。 なんだって自分などに目をつけたんだろうか。 一楽のらーめんと温泉を愛する平和な中忍などより、ずっと美しい女も男も、簡単に手に入れられる立場にあるはずだというのに。 「目的、か。…お主も厄介なモノに好かれやすいのう…」 しみじみと言われても、わざわざ寄せようと思っているわけでもなければ、当然ながら嬉しいわけでもない。 むしろアレを排除することは、自分が考えた以上に困難であることを知って、呆然としている位だ。 里長は偉大な方だ。術もさることながら、その知力を持って里を支えていることでも有名な、プロフェッサーと名乗るに相応しい方なんだ。 だからこそ、これで逃げ切ることができるはずだと信じていたのに。 「…里を離れるべきですか。俺…わたしは」 自分の身がかわいいのは勿論だ。 いきなり訳の分からない相手におもちゃにされるなんて真っ平ごめんだし、あの暗部に常識も情けも無さそうだから、自分の全てをさらけ出すような行為には恐怖しか感じない。 だがそれ以上に…あの男は里の戦力として、相当に評価されているようだ。 それが中忍の、それも子をなせるわけでもない男相手に現を抜かし、その副官でもあるぱっちりさん…テンゾウさんというらしいが、あの人の手も煩わせている現状は、決して望ましいものであるはずがない。 三代目はテンゾウではと言った。つまりは、押さえ込めることを期待できる程度には、あのぱっちりさんも実力があるということだ。 里の重要な戦力を、たかが中忍一人のために無駄に浪費するなど、この里にとっていいことではないのは確実だろう。 そもそもが人手不足にあえいでいる。 かつての化け狐の惨劇で、忍の数は激減した。 今は大分盛り返してきたとはいえ、年端の行かぬ忍の数は多くとも、上に立つものたちの絶対数は常に不足している。 この際、どちらを優先すべきかは歴然だ。 「…ならん」 「ですが!…里の戦力を二人も無駄には…!」 否定する理由も理解している。 …今担任となっている子ども達の中にいる一人。 自分が抜ければ、あの子どもの扱いがどうなるか、簡単に想像できた。 いっそあの子を連れて里を出ようか。 特別扱いが嫌いな子だが、負けず嫌いで…そういう意味では努力家だ。 使い方は下手だが、チャクラの量も申し分ない。いたずら小僧で手を焼いているが、曲がったことは嫌いだし、根気良く教えればきっと伸びるだろう。 少なくともあの子を放って里を出るつもりなどないことを、説明しようとした。 「…あやつには言い聞かせる。次の手も打とう。これからの里を背負って立つ者が、道理が分からぬでは許されぬからの」 「三代目…」 流石里長だ。自分などよりずっと先の未来を見据えている。 この口ぶりからすると、火影候補でもあるのかもしれない。 三代目が梃子摺ると明言したほどの実力者ならば、ありえない話ではないが、あの性格では不安が残る。 とはいえ、まさか実力だけで選びはすまい。何かきっと…きっと良い所があるはずだ。 平凡な中忍である自分などには、すぐ分からない何かが。 「すまんの…イルカ。もう少しでよい。耐えてみてくれ。アレは…癖はあるが強さも人の痛みも本来なら良く理解しているはずなんじゃが…」 「そうですか…」 それにしてはぱっちりさんには傍若無人な態度ばかりだし、俺にも問答無用で襲い掛かってきているのだが。 三代目の言葉なら信じてみる気になった。 どちらにしろ自力ではどうにもできないということがはっきりした以上、他になにができる。 半ば自棄になっていることを自覚しつつ、三代目の次の言葉を待った。 「随分と幼い頃からあやつを知っておるが…ちょうだいちょうだいとわめくのをみるのは初めてじゃ。下忍になったばかり時も…たしか三つか?祝いに欲しいものをと聞いても、なにもいらぬといいおった」 「そうですか…三つで…みっつ!?」 「そうじゃ。爺孝行せいと強請らせたら、ならば術を教えろとな…幼い頃から忍の業ばかりを磨かせたのが良くなかったか…アレの父親も忍馬鹿の不器用者で…」 「みっつ…」 下忍になるのがそれだけ早かったなら、それ以降も推して知るべしだ。 …もはや同じ人間と思わないほうがいいだろうということだけは、肝に銘じた。 いっそ機密といっていいはずの情報をここまで話してくれるのは、三代目がそれだけの信頼を自分に置いていてくれているのだということだろう。 …そしてそれだけ切羽詰っているということでもある。 「その後も身内の縁も薄く、師も友も早くになくし続けて…欲しがるのを見たときは幻術かと思うた程じゃ」 「は、はぁ…」 「適当に遊び方くらいは覚えたようじゃが、欲というものが基本的に薄い。…ワシも驚いているのじゃよ。イルカ」 そんなの俺の方がびっくり仰天ですという言葉は、とりあえず引っ込めておいた。 …三代目の眦に光るしずくに気がついたからだ。 「頼む…あやつを、少しでいい。見守ってやってくれ…」 「…できる範囲であれば」 しっかりと俺の両手を握り締め、涙ぐむ親代わりとも思っている人に、他に何が言える。 まあ自分の能力からしてあっという間に逃げることになりそうだが、やれるだけのことはしよう。俺も男だ。三代目との約束をそう簡単に違えるつもりもない。 …性別などお構いなしに襲ってくるアレには、そんな決意などどうでもいいことなのだとしても。 そうか、アレでも色々あったんだな。何も考えずに生きてきたからああなったのかと誤解していた。 歩み寄る努力は…ぱっちりさんにもご協力を願いながらしてみるしかないだろう。 想像もしなかった事態に、とりあえずため息をついておいた。 失望と決意と…それからほんの少しの興味を胸に。 ********************************************************************************* 適当。 つづくー ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |