これの続き。 さわやかな朝に似つかわしくない怒号が今日も狭いアパートの一室に響き渡っている。 …壁が薄いことに困ったことなんかなかったんだけどな。 その前の住人は温和でちょっとおっちょこちょいな中忍で、玉におすそ分けを貰うことくらいはあったが、基本的には当たらず触らず適度な距離を置いて暮らしてきただけに、この状態は…なんというか対処に困る。 「だーかーらー!それは犯罪だと何度も言ってるじゃないですか!先輩!」 「えー?いいじゃん別に。誰も困らないでしょ?」 「お隣の方が困るでしょうが!普通に暮らしてる一般部隊の人間に我々が害を与えたら…どんな風に思われるかわかっているでしょう!規律ってものを考えてくださいよ…!」 今日も隣の馬鹿男をぱっちりさんが威勢よくしかりつけている。 そうだ!もっと言ってやってくれ! あの馬鹿男のせいで、平和な中忍生活が脅かされることこの上ない。 なんというか、常識をどこかに捨ててきてしまったんだと思う。あの男は。 共同ポストに新聞を取りに行ったら、ケツを撫でられた上に前まで揉みしだかれたのだ。 とっさに殴りつけようとした瞬間に、またもやぱっちりさんに回収されたから良かったようなものの、これではおちおち外出もできない。 俺はただ、平和に暮らしたいだけなのに。 しかも、だ。最近では家の中ですら安心できないでいる。 住んでいる人間の断りなく勝手に家に入り込むことにこの男は抵抗がないらしい。 確かに俺は忍で、恐らくあの男もそうなんだろう。 そんな状況は任務ならままあることだ。盗み出すべきものを奪うために、わざわざお邪魔しますなんていう馬鹿はいない。 …とはいえ、それはあくまで任務だからだ。 扉を開けるなり銀色のケダモノがのしかかってくるなんて、まるでホラー映画みたいじゃないか。 なんだってあの馬鹿は平常時にいきなり人の家に入り込んで、その上いきなり襲い掛かってくるんだろうか。実際ギラリと光る赤い目を見たときは、これで俺の人生は終わったと思ったくらいだ。 まあ、それが分かったら苦労はしない。 馬鹿に常識を求めても無駄だってのも分かってる。 馬鹿は馬鹿なんだ。それ以上でもそれ以下でもない。 いやむしろ、馬鹿というより変質者だな。アレは。 ぱっちりさんがいなかったら…そう思うとぞっとする。 昨日も勝手に風呂場に入り込んでいた馬鹿男に悲鳴を上げたら、速やかに回収しに来てくれたし、なんていい人なんだろう。 …なぜか頻繁に俺の股間を目撃する羽目になっていることには申し訳なさとともに情けなさも感じているが…。同時にお礼もしたいと思っている。 だがしかし、同居人はあの変質者だ。 多めに酒とすぐ食べられるおかずでも持っていこうと思っても、アレが勘違いでもしたら目も当てられない。 「いいですか!いきなり襲わない!傷つけない!ですよ!一般部隊に迷惑かけたら、部隊の存続にも関わります!」 「…今日のパンツなにかなぁ…?俺の予想では昨日三割引で買ってきてた縞パンだと思うんだけど。トランクスって意外と無防備でいいよね」 「僕の話を聞いてもくれないんですね…」 哀れだ。壁越しに聞いているだけでも、あの生き物に会話など通じないのだと分かる。 日替わり定食程度の関心レベルなんだろうか。俺がなんのパンツはいてるかってのは。 涙よりもため息がでる。なんだってあんなのに付けねらわれなきゃいけないんだろう。 「この値段の割には着心地いいんだよなぁって喜んでてかわいかったのよねー?早く脱がせたい」 「だーめーでーす!いい加減聞き分けてくださいよ…!」 涙ぐむ姿が目に見えるようだ。 憤りと同情を禁じえない。いっそ三代目にでも訴え出るべきだろうか。 そう思った時、男の至極不思議そうな声が俺の耳に届いた。 「なんで?」 「なんでって…当たり前でしょう!正規部隊じゃ強引な性交渉は禁止です!気まぐれで襲ったりなんかしたら、また誤解が深まるでしょう!それでなくてもうちは変な噂ばっかり立てられて任務やりにくいってのに、部隊長が率先して規律乱してどうするんですか…!」 正規部隊…まあそうだな。俺は特殊部隊配属じゃない。 …ってことは、暗部って無理やりとかアリなのか…!恐ろしい…! ぱっちりさんなんて、今でこそごついしちょっと怖いけど、目がぱっちりしてるから、子供の頃なんかに色々恐ろしい目にあってるんじゃないだろうか。 だからこそ、俺のことも気にかけてくれてるのかもしれない。 「じゃ、暗示?洗脳?幻術じゃつまんないよね?」 それを聞いたとき、俺の心臓は確かに一瞬止まった。 なんて恐ろしいことを言い出すんだコイツは…!しかもナチュラルに!一個もまともな手段がないってのはどういうことなんだろう。 告白するとか食事に誘うとか…なにかあるだろう普通。もっと自然且つ平和的方法が! 「全部ダメです」 「えー?」 「当然です!敵でもないのに術も禁止です!先輩だってわかってるでしょう!」 「ちぇー?ま、いいや」 「わかってくれたならいいんです。さ、出かけましょう!任務に出ていれば余計なことも考えないで済むでしょう?」 「んー?そうね」 …返答が不穏だ。不穏すぎる。絶対納得してないだろ。あの変質者。 人がよさそうだからな…ぱっちりさん…。騙されそうでかわいそうだ。 そしてその結果酷い目に遭いそうな俺はもっとかわいそうだと思うので、早急に手を打たねばなるまい。 春が終わる頃には飽きると思ったんだけどな…。毎日毎日不穏さを増していく発言を聞く限りじゃ、放っておく方が危ないだろう。 春が終わる頃には俺の貞操かぱっちりさんの精神か、どちらかが大変なことになっていること請け合いだ。 「…木の芽時なんてきらいだ」 美しい緑が萌える季節にこんなことを考えてしまうほど、自分は追い詰められているらしい。 少しだけ涙がでそうになったが、何とかこらえた。 里長の前で変な顔なんてできないからな。 「春って、いい季節だよねぇ?」 いそいそと身支度を整える俺の耳にイヤに大きく聞こえたその声が…俺に対する挑発に思えてならなかった。 ********************************************************************************* 適当。 つづいてみました/(^o^)\ ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |