「なんでこうなるんだ」 俺は善良な中忍だ。 忍である時点で善良ってあたりに疑問符がつくかもしれないが、とにかく、どこにでもいるような中忍だ。 今日も残業して疲れたからラーメン食いに行って、オヤジの好意で大盛りにしてもらえたのをしっかり全部綺麗に平らげて、ちょっと元気が出た自分の現金さを笑いながら家路についた。 それを捕まえてこんな目にあわせるってのはどういう了見なんだ。 「なんでって…うーん?なんでだろう」 挙句に人をふんどかまえといて、当の本人が不思議そうに俺を検分しているわけだ。 …命の危険を感じていなかったらわめき散らしているだろう。 「拘束した理由はいいですから、開放してください。あなたは木の葉の暗部でしょう」 服装で分かる。面がなんだってはずされてるのかはわからないが、俺をとっつかまえるのが任務って訳でも無さそうだ。 「えー?ヤダ」 不満げな顔であっさり却下しやがった。なんだこいつ。 「ヤダじゃありませんよ…俺がなにしたってんですか!ただ歩いてただけで、あなたの気配にも気づきませんでしたよ!」 夜道にうかつだといわれればそれまでだが、気配消した上忍…だよな。多分コイツ。その気配に気づけるくらいなら中忍やってないんだよ。 いきなり羽交い絞めにされたと思ったら、腕に食い込むように細い縄で手足が戒められていて、今もそれははずされていない。 「だって。俺が見てるのにきづいてくれないんだもん」 「はぁ?」 見てる…いつからだ?そもそもこの言動からすると…こいつまさか頭がおかしいんじゃないだろうか。 一気に下がった己の生存確率に戦慄を覚えざるを得なかった。 「かわいいなーって。あんたよくこの道通るでしょ?たまによっぱらってることもあるよね」 「は、はぁ。まあ」 何でそんなことまで知ってるんだ。もしかして本当にずっとみられてたのか。それはつまりコイツが変質者だってことじゃないのか。 「ずっと、見てた。報告書出して帰るとあんたが歩いてることが多かったから。今日も見てたんだけど、あんたいつまで経っても俺に気づかないんだもん。そしたらなんでだろう。ものすごーく腹が立って」 「無茶言わないでくださいよ…。上忍が気配消してるのが察知できたら中忍なんてやってません!」 無駄に力いっぱい主張したのは、そこを言っておかないと制裁を加えられそうだと思っただけなんだが、男は俺の予想をはるかに超えていた。 「視線の意味が違うでしょ?気づいてよ」 「だからなににですか…」 「だって、欲しい。…そっか。欲しいのにこっちみてくれないからだ。なんだそうか」 一人でしきりに頷いている。何だコイツホントに。 「えーっと?自己完結されても困るんですけど!」 事情が飲み込めないからせめてもの抗議を口にしただけだったのに、男は容赦なく俺を地面に引き倒した。 「好き。だから頂戴?」 「ぎゃー!?なにどこさわってんだ!?変態!」 ぎゅっと握られた股間に恐怖よりも羞恥が先立った。 なにしてんだこいつは!そんなににぎりたかったら、自分のがあるだろうが! 「変態でもいいけど。足邪魔。コレ切るよ」 「へ?あ!」 足を戒めていたどうやっても抜けられなかった縄が切り捨てられていた。 …自分が着ているズボンごと。 「んー?標準?あ、元気ないね」 「あああったりまえだろうがー!なにしやがる!」 標準だ!標準の何が悪い!男はサイズじゃなくて愛情だ!技術だ!…後者に自信はないけどな。 「いっただきまーす」 「てやぁ!」 俺の一撃が男の股間を狙ったのと男が覆いかぶさってきたのはほぼ同時で、ついでに男が引っさらわれたのもほぼ同時だった。 「先輩なにやってんですか!任務だって…うわぁ!?」 「ぎゃー!ぎゃー!こっちみんでください!つかそれもってはやくどっかいってくれ…!」 「ちょっと!なにすんのテンゾウ!今いいところなのに!」 「えーっとえーっと!?と、とりあえず…合意じゃ無さそうだし…。えい!」 縄が切れた。上半身の服は無事だ。つまりこの人はまともな人だ。 同じ格好してるけど、面してるし! 「ああああありがとうございましたさようならー!」 フルチンであることに構ってなどいられない。 全速力で駆け出したその背後で、それはもう激しい罵詈雑言と鳥が鳴くような音がしたんだが、それに構ってやれる余裕など当然なかった。 そして翌日。なぜか顔を腫らした目がやたらぱっちりした見知らぬ男と、木でぐるぐる巻きに固定された夕べの男が土下座しにきたり、終始謝る目がパッチリの方とうらはらに、ここが家かなんて不穏な言葉を口にした男に悲鳴を上げてみたり、翌日からなぜか二人とも隣に越してきたりしたわけだが。 …コレも全部春の陽気のせいなんだろうか。 隣はいつも騒がしい。大いに迷惑だ。…だが貞操を守ってくれているらしいぱっちりさんには好感を抱いている。 今後の生活に不安を感じながら、とりあえず春が終わるまでは耐えてみようと思っているのだった。 ********************************************************************************* 適当。 続けるか迷い中。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |