春の陽気の12(適当)



これの続き。 


「本当に本当に申し訳ありません…!うちの先輩が大変なことを…!」
額をたたみにこすり付けるようにして土下座しているぱっちりさんは…なんというか相当に痛ましい。
心なしかやつれた顔もそうだが、さめざめと嗚咽交じりに詫びる姿に何より胸が痛んだ。
「任務についてきていたのが影分身だとは…!」
「え!?そんなことまでしてやがったんですかアレは!?」
思わず言葉遣いが乱れたのは許して欲しい。
アレは腐っても暗部であるはずだ。
つまりそれはとんでもなく過酷な任務をこなす部隊にあるということでもある。
…それを影分身でこなすだけの能力があるというのは、相当恐ろしい相手だということなんじゃないだろうか。
「そうなんですよ…!今までだったら見破れたんですが…手を抜かれてたってことなんでしょうね…これまでは…」
がっくりと肩を落とし、地を這うような低い声で呻くぱっちりさんがかわいそうでならない。
あんなのが上司だなんて…!自分も大分被害にあっているとはいえ、どう考えてもそっちの方が辛いだろう。
考えても見ろ。自分の先輩…上司が、男のケツを追い掛け回し、さらにそのために任務放棄とも取れる行動まで起こした。
その上、自分はその尻拭いのために四六時中見張っていなければならないのだ。その馬鹿上司を。見たくないものを頻繁に目にする羽目になろうとも。
…倒れちゃったりしないだろうか。心配になってきた。
思えば見せたくもないのにそれはもう情けない姿を幾度となくご開帳してしまっている。
標準だの使ってないだのという評価を下した男ほどではないにしろ、あんなモノをしっかり見せられてしまうなんて、どれだけ辛かったか。
申し訳なさにお茶だけで済ませていることすら気まずく思ったほどだが、あいにく自分の家には茶菓子などという洒落たものはない。
アカデミー有志の購入しているおやつを食べ損ねて持ち帰ることは玉にあるが、残念ながら今回はそれすらも底をついていた。
それもこれも、あの厄介なケダモノが終始人にちょっかいをかけ、平和な中忍生活を脅かしてくれたおかげだ。
菓子をのんきに食っている間にも襲ってくるアレのおかげで、アカデミーの平穏なおやつの時間さえ奪われていた。
貰ったものをさっさと口に放り込み、気配を殺すことに専念せざるを得ない休み時間なんて…ろくに疲れも取れなかったじゃないか。
家に帰るときもどこかに隠れているかもしれないアレから見つからないように、十分気配を殺して動かざるをえなかったのだ。
それは…まああの男がには無駄だったようだが。
「イルカさん?」
「あ、ああ!すみません!…今後とも何かとご迷惑をおかけするかと思いますが、宜しくお願いいたします」
「はい!及ばずながら!我々の威信をかけて!」
我々ってなんだ?不吉な予感がした。
…常識人に見えてもこの人は暗部。そしてもっと言うなら追い詰められている。
そして。
「我々がついている。大船に乗った気持ちでいろとは言わないが、ある程度の安全は担保されると考えてもらえれば差し支えない」
「外出する時は我々が常に交代で警備につく」
「一人では決して出歩かぬように…まあ我々が常に気配を消して警護に当たるからな。普段どおりに過ごしてもらえばいいが」
「わー!?わー!?わー!?なんで俺の部屋に暗部詰め合わせ!?」
涙目になって騒ぐ自分を他所に、ぱっちりさんが笑った。
「はい!先輩を抑えるために、精鋭たちを里に戻らせました!」
なんてことしてくれてるんだ!
そう叫ぶこともできなかった。
「では俺は」
「うむ。わたしは」
「そうか。では俺は」
なんで途中会話を途中で切るんですか。なんでそれで分かり合ったように頷くんですか。なんでちょっと楽しそうなんですか。
言葉にできずに口をパクパクと開閉していたら、背後から舌打ちまで降ってきたのだ。
「なーあに?遊んで欲しいの?」
「先輩!」
「覚悟!」
「いきますよ!」
「わー!?ここであばれんじゃねぇ!?」
自分の怒声にシンクロするように結界らしきものが張られ、それと同時に凄まじい勢いでその中が大騒ぎになった。ろくに切っ先も見えないが、クナイらしきものが飛び交い、それはもう散々な有様だ。
「落ち着いたら外に放り出すので、安心してください」
呆然とする自分に、自信満々に微笑むぱっちりさんを正座させ、なんとか上忍暗部をこれ以上増やしてくれるなという悲鳴染みたお願いを理解させるまで数刻を要した。
戦力がもったいないとか、あの人たち明らかに楽しそうだったし、アレと遊びに来てますよねとか、本音と建前が交じり合ってめちゃくちゃになってはいたが、なんとか引っ込んでもらうことには同意してくれた。
…そして残念なことにそれでも結界の内部が静まる様子を見せず、結局その日はろくに眠ることもできなかったのだった。
大丈夫ですよなんていわれても、間近で乱闘起こされてて眠れるもんか!中忍の平和を返してくれ…!俺が何したって言うんだ!
その悲鳴を聞いてくれる人は誰もおらず、結局はベッドの上でひざを抱えて涙ぐむ羽目になったのだった。


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例の続き。
ちょこっとだけすすむ。
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