春の陽気の11(適当)



これの続き。 


とりあえずラーメンを作った。
安売りのを箱買いしておいたのは、夜食や仕事で疲れて飯を作るのも面倒になったとき用だったが、今はどちらかというと緊急避難のためだ。
それにもしかするとあてつけでもあるかもしれない。
薄給の中忍の平穏な生活を乱し続ける傍若無人な暗部の隊長さまには、ある意味ぴったりといえるはずだ。
「今日はそれだけ?」
「ええ。これだけです。足らないようならどうぞお帰り下さい」
このカップラーメンは安売りとはいえ麺がしこしこしていて美味いのだ。
湯を注ぐだけでこんなにも美味いものが食えるなんて、最初に考えた人は本当にえらいと思う。こんなときに背後を警戒せずに食事ができるのもその人のお陰だ。
カップラーメンに思いを馳せながら、粛々と食事を続けた。…現実逃避したくなっただけとも言う。
男の方はというと、それでも当たり前のようにカップラーメンに手をつけている。
…忍の性か、口をつける前に匂いを、それから一口含んでから飲み下す前にも検分を怠ることはなかったが。
こっちも伸びる前に食べてしまおう。
こんな状況では味など分からないかもしれないが、どうせ食べるなら美味いものを食べたい。
すすりこんだ麺はいつも通り美味かった。おかげで少しだけ落ち着けた気がしないでもない。
自分の食い意地の張り具合に、今回ばかりは感謝しておこう。
「ふぅ。美味かった」
「んー?そうね。思ったほど悪くないかも」
「でしょう?里の中で携帯食染みたもの食べてるってのもなんですが、意外といろんな味があって楽しいんですよ?」
なぜか自慢してしまった。この男が常識と、それからこんなものさえ知らないことに密かに驚いたからかもしれない。
ずっと外にいすぎたんだろう。それだけこの男は強いに違いない。
…それに恐らくは頭の方もできはいいはずだ。
それがどうしてこんなことになったのかは知らないが、こんな場合できることといえば常識を覚えてもらうことなんだろうが、自分と同い年かもしかすると年上かもしれないこの男に、そんなことができるとも思えない。
大人が子どもに、ならば分かる。
上位にあるものに本能的に反発を覚える者もいるが、同時に従うことも自然にできるからだ。
そういう意味ではこの男は…全くもってその条件に当てはまらない。
教わる気もなければ、俺よりずっと強く、その上…他人に従うなんてことをしたことは、殆どと言っていいほどないんじゃないだろうか。
暗部の部隊長なんて、想像すらできないんだが…想像しろと言われても、とりあえずこんな生き物だとは思わなかっただろうしな…。
「好きなの?これ」
「はぁ。まあそれなりには。別に毎日コレというわけでもありませんし、玉に食べる分には美味しいですよ?」
にこやかに穏やかに、我ながら胡散臭い態度で男に教えてみたものの、この状況はなかなか異常だ。
自分を強姦しようとした暗部と、差し向かいでカップラーメン食べる中忍なんて、きっと他にはいないんだろうな…。
考えても見ろ。この男はその気になれば俺なんか一瞬で消せる。
抑制されているのが性欲だけなんだとしたら、殺意を向けられれば逸れこそひとたまりもない。
猛獣、いや狂犬、いや…犬なんてかわいいもんじゃないな。コイツは。
狂ったケダモノであることはたしかだが。
「ごちそうさま。…ま、こんなものがいいなら今度お土産に買ってきてあげる」
「は?」
「アンタが拒んでる間は、ちょこっとだけ我慢してあげてもいいよ?気が向いたから」
「そ、うです、か」
全くもって安心などできそうにないんだが。その口ぶりだと。
もしも今気が変わったら…いや、これは考えない方が幸せになれそうだ。
「じゃ、お礼しとくね?」
「へ?ああいえ。こんなものにお礼なんて…」
お礼。暗部の礼など恐ろしくて受け取れない。この男の常識のなさからすると、まともなものであるより、なにかとんでもないものである可能性の方がずっと高い。
だが逃げを打つ前に、ごく自然に手を握られた。この男のすばやさを、こんな場面でも思い知らされる。
「ありがと。…はい、お礼」
「んぐっ!?ふぇ?わっ!?」
キスされて、触れるだけだったそれに目をむいた瞬間、男が壁際まですっ飛んでいた。
大して広くない部屋だ。すぐに物にぶつかるのは当然だが、一瞬壁に穴でもあくんじゃないかと思うくらい、その勢いはすごかった。
「ってー…。あーあ。ホコリすごい」
「あああああんた!なにすんだ!なにすんだ!」
「何って…んー?無防備なくせに妙に警戒してるからかわいいなーって」
「それのどこがお礼なんだ!」
叫ぶことくらい許して欲しい。
ある程度の被害は覚悟していたとはいえ、ここまでされるなんて思わないだろう。
家のダメージも心配だ。賃貸なのに。
「そうね?どっちかっていうと御褒美?早く俺になれて欲しいしねぇ?アンタが拒んでるうちは触れない」
「近寄るな!」
距離を詰めてきた男はそれすら諦める気は無さそうだ。
「ヤダね。…キスもなれてないの?下も随分使って無さそうだったけど」
「わー!?わー!?だまれ!何てこと言いやがる!そりゃアンタほどじゃないだろうけどな!普通だ普通!」
「そ?じゃ、くらべっこする?」
にこりと笑って男は、あろうことか己の股間に手をかけた。
そんなモノ見たいわけがないというのに、どこまでも人を馬鹿にしているというか常識がないというか…いっそこの茶番が全部お遊びだといわれる方がずっと精神衛生上ましな気がする。
「止めろ。そんなモノみたくありません!」
「えー?でもどれくらいか気になるでしょ?突っ込まれて気持ちイイかとか」
「ならねぇよ!ビタ一文!」
気になるとしたら、家へのダメージの方だ。股間は服越しにも盛り上がっているのが分かる。ろくでもないことに。
あの状態で触れようとしたら、今度も跳ね飛ばされるだろう。下手すると家が壊れるかもしれない。
「何してるんですか!?先輩!」
「ぱっちりさん…!」
唐突に現れた侵入者に、俺は思わず腰を抜かした。…安堵で。
その不在はほんの少しの間だけだったのに、押さえ込んでくれる人が戻ってくれたことが嬉しくてたまらない。
もう、俺は一人じゃないんだ。
ぱっちりさんがあせるのも頷ける。今にも逃げようとしている自分と、股間に手をかけた男をみれば、これから強姦しますと言っている様な物だ。
男は勿論あっという間に謎の術で縛り上げられ、問答無用でつれて帰ってもらえそうだ。
とにかく、助かったってことだ。
「ご無事でしたか…!本当に重ね重ねうちの先輩がご迷惑を…!」
「うるさいよテンゾウ。コレ解かないと後で酷い目にあわせるよ?」
「さ、帰りますよ!うちに帰ったら解きますが、その前に報告してください。なにがあったかを」
「えー?めんどくさい」
「はぁ…まあ、その。すみませんでした。遅くなって。僕はちょっとこの人を連れて帰って色々しなければならないんですが、またなにかあったら教えてください」
「は、はい!ありがとうございます!」
自分にとって、この人はまさに救世主に他ならない。
なんていい人なんだろう。やっぱり今度御礼をしなくては。
「じゃ、ね?」
「それでは失礼します」
いそいそと姿を消した二人を見送って、だがしかし腰が抜けていることに気がついてしまった。
正直歩く気力もない。それだけ緊張したってことだが。
「あー…まあ、うん。いいやもうこのままねちまうか」
前途は明るいのか暗いのか。…とにかくぱっちりさんと今後も綿密な連携をとらなくては。
そんなことを考えながら、疲労しきったからだが眠りに逃げ込むに任せ、俺は意識を手放したのだった。


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例の続き。
おわらないー頭痛で死んでて結局殆どすすまなかったという(ヽ'ω`)
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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