これの続き。 あたたかい何かに包まれて、まだこの温もりの中でまどろんで居たいのに腹の虫が騒ぐ音で目が覚めた。 「んあ…うぅ…?」 「起きた?ご飯できたよ」 視界一杯に広がるのは満面の笑みで、どうやらミノムシよろしく毛布に包まれて、甘ったるい声の主に抱き込まれているらしい。元々重怠い体が余計に動かない訳だ。おまけにやたらと美味そうな匂いがする。 「あー…腹減った。…うお!なんですかこれ!」 ニコニコと人の顔を覗き込む人の背後から漂う匂いにつられて視線を向けると、やたらと豪勢な料理がテーブルの上を占拠していた。元々料理上手の料理好きだが、こんなに張り切ってるのは久しぶりだ。テレビでみるような鳥の丸焼きと、よくわからないがエビだのホタテだのが乗っている美味そうなサラダに、スープらしきもの、それからしゅわしゅわと泡立つ酒まで並んでいる。他にもつまみにちょうど良さそうな凝った料理も目に飛び込んできて、空きっ腹に酷く響く。鶏肉を食うってことくらいは知っていたつもりだが、この人のことだ。文献や、下手をすると本場まで行ってレシピを目と舌で盗んでくるくらいのことは平気でやるだろう。 何があったんだか知らないが、あの痛そうな顔を今はしていないってだけで少し安心した。 「クリスマスだから張り切っちゃった。食べよう?」 「食べますけど!あ、ちょっと待った!」 「ご飯が先、でしょ?」 あんたさっきそういった俺に何したよ。…なんて言えないんだけどな。プレゼントはいつ渡そう。理由は分からないが何かあったらしいこの人の次の行動なんて、多分察知できない。 「あのですね」 「あのね。今日は絶対にガキ共にも分けてやりたくないの。…ね、何を買って来てたの?」 笑顔なのに目が少しも笑っていない。バレてる。なんで。 思わず固まったが、耳元に吹き込むようにトロリトロリと甘いのに苦みを孕んだ声が落ちてくる。 「あれは」 「買い物してたって聞いたから…てっきりナルトにでも私に行くのかと思ってた。でも、もう間に合わないよね?ふふ」 なるほど。それが理由か。悪戯というには性質が悪いが、嬉しそうに笑ってるところを見ると怒る気も失せてくる。そんなことであんなに必死になってたのか。大人げないのにかわいいと思う辺り、自分にも否がありそうだ。 「あー…それはもう頼んであるんです。任務依頼だしましたから」 「うそ」 「うそって、しょうがないでしょうが。俺は一人しかいないんですから」 週明けのクリスマス会もこの人のおかげで欠席確定だからな。こっそり同僚に依頼を出しに行ったら笑われるし揶揄われるし心配されるしで酷い目にあったんだ。 あの子に対して面白く思わないヤツも多いけど、ちゃんと見ていてくれる人もいて、依頼はきちんと引き受けてもらえた。どうやらこの人抜きで上忍師たちが元々プレゼントを配る計画をしていたらしくて、それに乗っからせてもらう形にはなったが、ガイ先生なら絶対に任務を遂行してくれるだろう。 「…俺と一緒にいてくれるの?」 「へ?なに言ってんですか当たり前でしょうが」 「うん」 急に毛布を剥いできたかと思えばピトっとくっついてきて顔も見せてくれない。なんなんだ。少しは悪いと思ってたんだろうけど、白状した途端にこれって、そんなに後悔するならやらなきゃいいのに。 ぐぅうううっと盛大に腹が鳴ったのは、溜息と同時だった。 「くくく!」 「ぅう!誰のせいだと…!」 「俺のせいでしょ?ね。ご飯食べよ」 「勿論です!」 食べきれないかもしれない量のご馳走だが、今なら皿まで全部食えそうな空腹感を感じている。それに何しろこの人の手料理だもんな。ひとかけらだって残すつもりはない。 「…好き」 「な、なんですか!急に!照れるだろうが!」 「うん。好き」 霞めるようなキスを受け取って、その口に一口大に整えられたゼリーで固められた肉っぽいものを一緒に放りこまれて、その美味さに目を見開いた。 「なんだこれ。うめぇ!口ん中で溶ける!」 「ん。良かった」 この顔、幸せですって書いてあるみたいなこれが見たくて、俺だって必死なんだ。この人にはイマイチ伝わっていないのが困りものだが。 プレゼントは後にしよう。腹を鳴らしながら渡すなんてしまらないもんな。 諦めと食欲とに支配されつつ、俺も手に取ったかわいらしい星型の楊枝が突き刺さった小さいつまみのようなものを手に取って、ニコニコしている人の口に放り込んでやった。 「んん!あ、りがと」 なんでここで真っ赤になるんだろう。いや!かわいいからいいんだけどな? 「さあ!しっかり食べましょう!」 「ん。そうね」 たっぷりのご馳走を競い合うように食べさせ合って、腹がくちくなるころにはテーブルの上のごちそうは洗ったみたいに綺麗になくなっていた。 動けないくらい腹がいっぱいの体を残して。 ******************************************************************************** クリスマスつづき。 お わ り ま せ ん。あの、しょうがつまでくりすますだったらごめんなさい。 |