これの続き。 「メリークリスマス。おはよ。イルカ先生」 「あー…うぅ…おはようございます…」 ベッドの上で何も身を隠すものを纏わぬまま、恋人が嫣然と微笑んでいる。ぼんやりしている間に出したものと出されたものとで酷い状態になったシーツごと包まれて運ばれて、運ばれた先の風呂には既に湯が張ってあって、湿度の高い暖かい空気が頬を撫でたと思ったら、もうすでに湯船につけられている。 いつもながらこの手際の良さに嘆息するしかない。 それにしても妙にギラギラしてるのはどうしちまったんだろうな。まあ元からイベント好きというか、アカデミーでの行事にさえ羨ましいと騒ぐような人だが、今回は特に酷い気がする。 日付が変わってもう今日はクリスマス…ええと、イブ、だったか。ケーキと鳥と酒を飲む日ってことと、あとはそうだ。プレゼントを贈る日でもあるか。 「今日は家から出さないよ」 その小さな低い声のつぶやきがわざと聞かせるための物に感じられたのは気のせいだろうか。不穏な気配を隠そうともせず張り付かれると、恐怖よりも心配が先に立つ。 「あ、の?何かあったんですか?あんたまた無茶したんじゃないだろうな!」 辛いことや苦しいことがあっても、決して口にしない。それは上忍らしさというよりも、この人の置かれた環境のせいだろう。まだアカデミー生をやってたっておかしくない年の頃から過酷な任務をこなし、挙句二親を早くに、それも最悪の理由で亡くしている。親友という人も亡くして、庇護してくれた上忍師も里を守って散って、そこからずっと一人だったと言っていた。 この人は野生の獣みたいに怪我を隠す。里にいるのに血止めや匂い消しまで使うんだから何を無駄なことをと何度叱ったことか。 それだけじゃない。この人が一番厄介なのは心の痛みを隠すことだ。 自覚が薄いってのも原因の一つである気がしているが、何かを失ったり傷ついたりした後も、何でもないふりをして笑ってみせるんだ。それを見ているのが辛くて、この人を傷つける全てのものから守りたかった。 だから、玉砕覚悟で告白したんだ。 当然、こんな関係になるまでは、強請ることすらしてもらえなかったから、これが八つ当たりかもしれなくても本音で言えば少し嬉しい。 「何でもない」 笑顔が嘘くさい。何を隠してやがるんだ。 ああくそ。この人が寝入った隙をつくなんてことは確実に不可能だから、プレゼントは晩飯の…この人曰くご馳走ってやつを食べながらでも渡すつもりだったのに、それどころじゃないじゃないか。 「飯、ちゃんと食ってますか?」 手始めにと質問攻めにするつもりが、ここが風呂場で背後を取られた状態だってことを忘れていた。 「食べましたよ?おいしかった。…でも、もっと食べたいな…?」 「ひぅッ!あ、あ、こら…!どこ触って…ん!」 尻をこんな用途で使うことなんて、想像したこともなかった。のぼせないようにか普段よりぬるめの湯が、今朝まで蹂躙され続けたところに入り込み、広げられたそこからどろりと濃度の濃いモノが湯に溶けだしていくのが分かる。 その指が明らかに不埒な意図を持っていることも。 「ね、いれたい」 「飯、は…!」 「イルカ先生お腹空いちゃったよね?…でも、無理」 無理はこっちだと言う隙さえ寄越さなかった。ろくに足腰の立たない体を軽々と持ち上げて己の楔で貫いた男は、フッと息を吐いて項に舌を這わせている。朝っぱらから受け入れさせられたこっちは、その衝撃に耐えるのが精いっぱいだっていうのに。 「ァッ!ッんで、でかくしてんですか…!」 体力差は悲しいかな今までの経験から埋めようがないことを理解していたつもりだった。だが昨日もさんざっぱら励んだってのにこの元気さはどうなってるんだろう。同じ男として賞賛を送るべきなんだろうが、それを受け入れているのも俺だから、とてもじゃないがそんなことをする余裕はない。 「ねぇ。どこにも行かないよね?」 「ッ、行かねぇよ。あんたが心配で!こんなんじゃどこにも行ける訳ないだろうが!」 それ以前に突っ込まれた状態で外に出るのは不可能だ。淫行に励んで足腰が立たない情けなさよりも、どこかタガが外れたような様子の恋人の方が気にかかる。 「うん。…ね、絶対どこにも行かないでね?」 立派な雄を小刻みに動かしながら、子どもみたいな目で子どもみたいなことを言う。…焦らされてあれだけやった後なのに足らないと思わされてしまう。 ああもう。なんてタチの悪い。…なんてかわいい人なんだ。 「ん、はやく、よこせ」 強請るというには乱暴な言葉に、しっぽを振った犬のように瞳を輝かせた男が俺を開放するまでどれくらいかかったかっていうのは…俺も覚えちゃいない。 目を覚ましたら薄暗い部屋の中で山ほどの美味そうな料理とケーキとに囲まれていて、おまけに元凶の腕の中にしっかり閉じ込められていたからな。 ******************************************************************************** クリスマスつづき。 明日更新で最後になるといいな。 |