はぴはぴめりーくりすます4(適当)



これの続き。

 あれから毎日毎日ウキウキとクリスマスを楽しみにしていることを主張し、もちろん当然の様に人を押し倒して来た人は、それはもう嫌って程クリスマスはちゃんと休んでね?と繰り返すことを忘れなかった。
 おかげで腰が痛い。何が不安なのか、それとも楽しみすぎて舞い上がっているせいなのか、行為の頻度だけじゃなく、激しさも増している。どうにかして自分の休みをもぎ取るために、高ランクだが短期のものばかり受けているらしいのも気にかかる。
 今朝だって、今日は迎えに行けないけどまっすぐ帰ってきてねと念押しされちまったからなあ。無茶を無茶と思わないのが上忍だと分かっていても、こっちとしては心配だ。
 明かりの消えた家に戻るのは正直言って寂しい。…寂しいなんて思わされちまうようになったのも、一緒に過ごしてくれる恋人のせいだ。
 まあすぐに帰ってきて風呂に入ってるところに乱入されたり、寝入りばなを襲われて朝までなんて目に遭うから、家を完全に開ける日はなかったんだけどな。
 ありもしない浮気…というか、俺がそういう意味で襲われる可能性を危惧しているらしいことは、面越しでもわかってしまう部下の人の涙の訴えで知りたくもないのに把握済みだ。おかげで、中途半端に遅く帰ると危険だってことを知ることができたのは行幸だったが。
 今日は多分、大丈夫のはずだ。このためだけに昼休みも潰して時間を作ったんだからな。殆ど普段と同じ時間に家にたどり着けそうだ。
「ただいまー…ッうお!」
 気配も何も感じなかったのに、案の定、玄関のドアを開けるなりぺたりと背中に張り付いた恋人は、どうやら既に随分と舞い上がっているらしい。
「ね、明日はお休みでしょ?」
「…そうですね」
 とびっきりの笑顔を隠そうともせずに、耳元に囁くその声は甘ったるく背筋を震わせる。
 明日も明後日も、そしていつの間にかその次の日まで、休暇申請を勝手にしたのはあんたでしょうがと言ってやたい気持ちをなんとか抑え込んだ。
 なぜって、手に持っているものに感づかれたら困るからな。
 元々何かっていうと俺について回るこの人の目を掻い潜ってこれを手に入れるのも一苦労だった。結局今日ギリギリ手に入れることができたのは殆ど奇跡だ。
 プレゼントの中身ってのはバレちまったらつまらないもんな。
 何が楽しいのかふんふんと項の匂いを夢中で嗅いでいるうちは、多分誤魔化せる。でも俺のことに関しては異常なほど敏感なこの人のことだから、朝出た時より荷物が膨らんでいることには早晩気づかれる可能性が高い。
 緊張感で滲みそうな汗を気合で抑え込み、肩口で揺れる良く跳ねるのに柔らかな髪を撫でた。相変わらずの毛並みの良さだ。一緒に暮らし始めてからこの人の髪がこんなにも手触りがイイんだと初めて知った。箒みたいに逆立っているから、勝手に硬いものだと思い込んでいた。やわらかすぎてボリュームがあるんだよな。この人の場合は。細くてしなやかな毛は洗うとぺしゃんこになってそれはそれで面白い。
 ああでも、一緒に風呂に入った時に感動して思わず見つめすぎて散々な目に合わされたっけなぁ…。
 まあそれはさておき、さっさと荷物を片づけてしまおう。
「ご飯の前にイルカ先生が食べたいな…?」
 怪しく瞳を揺らして滴るような色気を垂れ流しながら、恋人が耳元で囁く。この人が半ば無理やりに休みをもぎ取ったときからこうなるのは分かり切っていた。五代目にまでほどほどに無理をするなよなんて言われたくらいだ。忙しい年の瀬にこの人に…簡単にとは言わないが、こんな休暇を寄越したのも、多分相当に駄々をこねたからに違いない。そしてその報復か落ち着かせるためにか、それとも日々足元がおぼつかなくなっていく俺を見かねてか、たっぷり振り分けただろう任務もさっさとこなしちまってるからな…。短期のものばかりとは言え、凄いスタミナだ。
 いつもはどんな状況でも仲間を優先するこの人が、自分のためにそういう我儘を言ってくれるのが嬉しいなんて、絶対に調子に乗りすぎてとんでもないことになるから言えないけどな。
「おいしい匂いがしますけど」
「うん。イルカ先生の方がイイ匂いがする」
「作ってくれたんですよね。晩御」
「…ん。まぁね」
 間近で揺れる瞳には未だに欲が燻っているが、一応は俺のことを優先してくれる人だ。少しは迷ってくれているらしい。本気を出せばこっちの意思も何もかもを捻じ曲げてしまうことができる人なのに、叱られた犬みたいにしょぼくれちまうのが可愛くて仕方がない。
 腰も尻も足だっていまだに完全に復調しちゃいないが、ついついほだされてしまうのはこの人のこういうところがたまらなく愛おしいからだ。
「食べたいです。カカシさんの作ってくれた飯」
「うー…ね、後じゃダメ?」
 この上目遣い。普段ならうっかり落とされているところだ。でも今日は駄目だ。譲れない。並んでいる食事が美味そうだからってことだけじゃなくて、果たすべき使命があるからな。
「美味いもんは美味いうちに食うもんでしょうが。…俺は逃げませんよ?」
 途端に目を見開いて固まったのは予想外だったが、すぐに片づけてきますと言いおいて、鞄を持ったまま寝室に走り込んだ。手際よくプレゼントをベッドの下に隠し、ベストをハンガーにかける。後は手を洗って、それから。
 背筋が凍りそうなほどの鋭い視線を感じて振り返った先で、カカシさんが笑っていた。
「イルカせんせい」
 ゆらりと寝室のドア顔をのぞかせた恋人の目がおかしい。なにがってところまでは分からないが、感情が読めないというか…妙な気迫を感じる。どうしちまったんだ。この人。
「今すぐ行きます!あ、手、洗ってねぇからそっちが先ですけど!」
 待ちきれなくなったんだろうと思って慌ててドアに駆けよったのに、退けて貰えない上に、ガシッと肩を掴まれてしまった。
「ねえ。誘ってるの?」
「は?」
「逃げないって、あんな顔でさ」
「え?え?」
「おいしいものはおいしいうちに、だっけ?…もうダメ。無理。ちゃんと冷蔵庫に入れたから」
 一体何をだという前に、ベッドに投げ落とされていたのも驚きだが、そのまま空が白んでも離してもらえなかったってのは流石に予想外だった。
 突っ込まれたまま意識を手放しても、気が付いたらまた揺さぶられていて目が覚めるなんて経験を、誰がしたいと思うだろう。
 意識が戻る度に嬉しそうに笑う人は、声が枯れても動けなくなってもずっと、俺の体を離さなかった。

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クリスマスつづき。
間に合え。

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