これの続き。 「イルカ先生も大変だね」 恋人はカラカラと笑いながら許可をくれた主任に目もくれず、せっせと絶対他の予定入れないでね?などと念を押して去っていった。 残された方がどれほどいたたまれないかなんてことは考えてもみないんだろう。目的達成と同時に文字通り煙のように消えてしまった。謝罪は、当然俺がするしかない。 「忙しい時期に本当にご迷惑をおかけします…!あ、あのですね。せめて半休でも頂けたら嬉しいんですが、その!」 絶対に文句を言えないからって自分が出張ってくるなんて、職権濫用以外の何物でもない。こうやって強引なことをするのはいつものことだが、俺に対してだけなら許せても、他の人を巻き込むのは流石に見過ごせない。帰ったら一言言ってやらなきゃならないだろう。 その前にこの周囲から注がれる生暖かい視線に耐えきれるかという問題があるんだが。 「がんばれよ!イルカ!休暇は二日で大丈夫か?」 「三箇日もよね?」 「はたけ上忍があんなに嬉しそうにしてるの初めてみたな。お前凄いよな」 忙しい時期にと罵られる方がマシかもしれない。労わりと優しさに溢れた言葉は、俺の心をサクサクと切り刻む。申し訳ないのもあるが、何をするから休みなのかってのも見透かされている気がして、いっそ今すぐ穴を掘って埋まりたいくらいだ。 頼みの綱の主任さえも例外じゃない。穏やかだがやるときはやる人なのに、今日は慈しみに満ちた笑顔で、さらっととんでもない宣言までしてくれた。 「はたけ上忍が休暇を満喫できるようにがんばりましょう」 誰かみんなを止めてくれ…! なぜあの人はこんなにもアカデミー職員からの全幅の信頼を寄せられてるんだろう。俺がよろよろしてるといつの間にか湧いて出るとか、どっちかっていうと迷惑ばっかりかけてるはずなのに。残業してると拗ねながら机に齧りついてきたりもするしな…。職場に迷惑かけるなって言ったら、わざわざ五代目の許可まで取ってきたこともあった。その必死さをどこか他のところに活かして欲しい。 「あの!仕事は早めに片づけるつもりですので!」 せめて迷惑を最小限にとどめるつもりで言ったのに、音がしそうなほどすさまじい速さでこっちに顔を向けた同僚たちに、一斉に切り返されてしまった。 「お前いつも残業引き受けてくれてるじゃないか。こういう時くらい気にすんなって!」 「そうですよ!イルカ先生!はたけ上忍の任務遂行件数うなぎのぼりなんですよ!労わって差し上げてください!」 「そうそう!あのくらーいっつーか、無表情だった上忍がさ、お前と付き合い始めてからよく笑うようになったもんな!大事にしてやってくれよな!」 …ああ、ちょっとわかった気がする。アカデミー教師はみんな子供に弱いんだ。あの人の子供っぽいところがツボにはまったんじゃないだろうか。 斯く言う俺もそれが惚れた理由の一つでもあることは否定できない。子どもっぽくて危なっかしいというか、最強の忍のはずなのに守ってあげたくなるんだよな。不思議なことに。 何かを諦めたみたいに笑うのを止めたくて、一緒に飯を食うだけで喜んで、邪気のない笑みをくれるから、つい。 ずっとその笑顔を見たいと思っちまったんだよなぁ。まさかその日のうちにペロッといかれるとは思いもせずに。 それにしても、とてつもなく女性にもてるのは知っていたが、こんなところにも伏兵がいたのか。というか、あの人が魅力的過ぎるんだろうな。 「がんばります!」 受けて立つとも。カカシさんの計画にも、それから他の並み居るライバルにも。誰にもあの人のことを譲るつもりなんて毛頭ないんだ。 「おう!頑張れよ!」 「応援します!」 「ほどほどにな!無理すんなよ!」 温かい声援をありがたく受け取って、ややへっぴり腰のまま机に向かった。 見てろよカカシさん!俺だって祝いたいのは一緒なんだからな! ******************************************************************************** クリスマスつづき。 上忍の思う壺なのでありました。 |