これの続き。 「じゃ、コレに名前と血判押して」 「…あの。コレは一体?」 血判とは穏やかじゃない。術を使うのに必要とされることの多い行為ではあるが、ケーキを片付けた後のテーブルに広げられた巻物には、見たことの無い複雑な術式がびっしりと書き込まれていた。 「口寄せ」 「…ええと?」 どういうことだってばよ?なんて思わず教え子の口癖が零れそうになったが、カカシさんは真顔だ。 俺を口寄せしてどうするんだろう?はっきり言って強さは中忍としてはそこそこ出来る部類には入るが、上忍と、それもこの人と比較すれば比べるのがアホらしくなるほどに劣る。 ホワイトデーって口寄せ契約する日なのか?それとも何か別の事情で?まさか任務?あとこれくちよせにしちゃ術式が妙に複雑すぎるような気がするんだが? 困惑の中渦巻く思考に縛られて首をかしげている間に、カカシさんが墨をたっぷり染み込ませた筆を右手に持たせてきた。思わず自分の名前を黒々とでっかく書き記した巻物に、これまたすさまじい速さでクナイを抜いてホンの薄皮一枚切り裂かれた指先を押し付けられる。痛みすら感じなかった。流石カカシさんだ。いやでもこれなんなんだ? 疑問符で頭を満たしている間に、契約印と思しきすばらしく早い印が結ばれ、巻物から噴出した煙が部屋を満たした。 「…これでいいかな。とりあえずはだけど」 「…そうですか…?ええと、何が起こったんですかね?」 「いざというときに色々。ね?」 笑顔だ。癒されるなぁ。でもなんか怖いというかだな。 「…あの、いざというときって?」 「お茶飲むでしょ?」 お茶。お茶といえばカカシさんの特製のお茶は美味い。美味いけどときどきあったまりすぎておかしくなることがある。飲みすぎには注意が必要だ。でも美味いし、健康にいいらしいし、確かに色々大変なことにはなるが、肌つやがよくなったと周りに言われるしなぁ。 …ちょっとならいいよな?ちょっとなら。 「いただきます!」 「ん。どーぞ。お風呂も入るでしょ?」 「はい!」 なんだこれ。至れり尽くせりだなぁ!くっそう!俺もがんばらなきゃ男が廃る! とりあえず酒と、それからパジャマ…と、あと、なんだっけ…? 「眠い?」 「…い、え、そんな、はず」 昨日はたっぷり寝た。普段よりずっと長い時間眠れた。それはカカシさんがちょっと出てきますっていって、犬を置いて出かけてしまって、夜を徹しての運動をしなかったからな。 快感で訳が分からなくなってるうちに夜が明けてると、何かとんでもないことをした気分になるんだよな…。そういうことをされるのは大抵休みの前日で、今日はお休みでしょ?とかいいながら、なにくれとなく世話を焼いてくれるカカシさんに甘えている間に変な雰囲気になってそのまま…ってパターンが多い、か。もしかしなくても。 えーっと?つまりこの状況は…? 「寝ててもいいよ。ケーキも食べてもらったし、術の反動でしょ?」 「はんどう…?」 口寄せ契約には確かにチャクラを消耗するが、反動って、なんだ?そんな大掛かりな術じゃないよな。 それが本当に口寄せの術なら。 だめだ。眠い。 「おやすみ。起きたらお風呂とご飯と俺ね?」 「ふぁい、かた、づ、け…」 「イラナイ。お布団行くよ」 「んぅ」 眠い。布団があったかい。カカシさんが優しい。幸せだ。ああでもカカシさんの入れてくれたお茶のみたかったな。美味いんだ。 くすくす笑う声が耳をくすぐって、何か生暖かいものがそこら中に触れてくるのを感じながら、襲い来る眠気にさっさと白旗を揚げた。 ******************************************************************************** 適当。 上忍が色々とこじらせて一線どころか色々と超えすぎていたり周囲も色々と諦めていたりいなかったり。 明日までに終わる気がしねぇってばよ。 |