これの続き。 もさもさしたものが顔に当たる。やわらかくてさわり心地がいいけど、鼻に毛が入ってちょっとくすぐったい。 「ふが?うー?」 押しのけようとしても腕が重くて、結果的にそれを撫で回すというか、乱暴にかき回してしまった。手触りが良いので和む。…いやちょっとまて、なんでこんなにだるいんだっけ…?飯、飯は、さっき食ったような…? 触れる何かをたどっていくとあったかいものに変わった。なんとなく楽しくなってきてぺたぺた触ってたら、今度は俺の尻の辺りにそのあったかいものがくっついてきた。 「誘ってるの?」 かすれ気味の甘い声が耳元で聞こえて、一気に眠気が引いた。 「おわ!カカシさん!おはようございま…なんで服が?」 大分着崩れていたとはいえ一応は身にまとっていたはずの服がどこかに行ってしまっている。慌ててあたりを見渡すと、床に放り投げられているのが目に飛び込んできた。 それを取りにいくはずが、そのままひょいっとベッドに押し付けられていて、事態を把握できたのは、カカシさんが覗き込んできてからだった。 カカシさんも服を着ていない。そしてこの状況。 流石に俺が自分から脱ぐってことはまずないだろう。どっちかっていうと、布団に入ったら三秒ぐらいで爆睡する方だ。悩み事があったら美味いモノしっかり食って、温泉か妥協して温泉の元を入れた風呂につかって、それからしっかり寝ればたいていは治る。 脱ぐなんて…酒でも入ってるなら別だが、カカシさんが脱がせたって考えた方が自然だろう。ってことはだ、つまり、その。 「…素ボケもかわいいけどね。脱がせたの。ま、突っ込む前に目が覚めちゃったみたいだけど」 「そうです、か。ええと、その」 どうしたらいい?ここは男らしくドンと来いというべきか、それともさりげなく俺の方から誘うべきか、とりあえずキスからか? 「イラナイ。とりあえずは気持ちよくなってなさいよ」 「ええ!?いやずっと気持ちいいんですが!そ、そうじゃなくて!」 何かを言う前に拒否されたけど、せめてちょっとでも格好つけたいじゃないか。好きな人の前なんだから。 あれ?なんでカカシさんが固まってるんだ?裸でくっついてるのは俺としても色々ともよおすものがあって大変なんだけど、隠すものがどこにもない。両手が開いているとはいえ、これで前を隠せば他の部分ががら空きになるわけで、それにカカシさんの眉間のしわをなんとかしたい。 困った挙句、ここは一発がんばるべきだという結論に至った俺は、カカシさんの頭に手を回した。 「え?」 「そ、その!失礼します!…うぐ!」 キスってものへの憧れや気構えなんかは吹き飛んでいたから、勢いに任せてどっちかっていうとただぶつかっただけみたいになったんだが、あとはカカシさんがなんとかしてくれた。 というかだな。いきなりし、舌とか!頭抱え込まれて逃げられないし、それにその!反応した下半身が!うぅ…! とにかく、開放されたときにはふにゃふにゃのくにゃくにゃで、当初の予定ではここからきちんと段取りを考えるはずだったのに到底そんなことが出来る状況じゃなくなっていた。 「なんていうの?こういうの?小悪魔?」 「え?こあくま?」 「自覚ないとこが更に凶悪だよね?」 「は?え?」 「ま、いーや。体は素直だしね?」 「え?え?うお!いやそのちょっとそこ!そんなとこ舐めない!」 「ん。ま、いーから。ね、気持ちよかったんでしょ?」 「は、はい、そのですね!?」 「あーヤバイ。クる」 「へ?」 カカシさんの目がきらきらしてて綺麗だなぁと、そう思ったのは覚えてるんだが、そのあとは舐められたりもまれたりかけられたり盛大に色々された後、それこそ足腰立たなくなるまで揺さぶられていたということしか記憶にない。その間は何か考える余裕なんてまるでなくて、ただひたすら自分のじゃないみたいな声を上げていた。 そうやってて俺のホワイトデー大作戦は、俺の意識がないうちに終わっていた訳だ。 「はいお薬」 見覚えのある丸薬が差し出されて、貰ったからには飲まなきゃとは思うものの、身動きさえままならないわが身が恨めしい。なによりもこの敗北感。 このホワイトデーに何をしていたかって、飯食って寝ていただけという体たらくだ。しかもカカシさんに上げ膳据え膳で、気持ちよかったもののとんでもないことをしでかしてしまったという思いが拭えない。 「あ、ありがとうございます…んぐ!」 せめて少しでもこの人に失望されたくない。こうなればたとえ倒れようとも受け取らなければと足掻くまでもなく、薬が水と一緒に喉の奥に入ってきた。…カカシさんの舌と一緒に。 介抱のはずのその行為に、だらしなくも服も着ないで転がっている体が性懲りもなく熱を持ち始めている。 どうしたんだ俺!しっかりしろ!明日から仕事なんだぞ!…なにもしないうちに仕事になっちまったんだよな…そうだよな…。 なんだか無性に悲しくなって、薬が効き始めるのを待って、せめて洗濯くらいはと気合を入れたというのに、カカシさんが何故か満足そうに笑っている。 いつもならイラナイとか怒られる所だ。なにせカカシさんは気遣いのできる大人だから遠慮深いんだよなぁ。俺ができることならなんだってするのに。 「ね。効いて来た?」 「え?…そ、そうですね?ちょっと体が軽いような?」 同僚には本当に礼を言わないとな。カカシさんと一緒に、ちゃんとした酒とかつまみとかそういうものでもいいから良い物を探して贈ろう。 痛みが遠のくその速さに驚きつつも、手足を軽く動かしてみた。ダルさが消えて、これならなんとか仕事にいけそうだ。 それだけでホンの少し気分が上向く。帰り道で何かこの人のためのものを用立てよう。それからお礼の品も。 「そ、よかった。処方弄ってみたけど効きもいいみたいだし、これからも多少なら無茶できるね」 「え?」 ひょいっと抱え上げられて風呂場に連れ込まれるのと同時に呟かれたその台詞は気になったんだが、風呂場で色々と恥ずかしい目にあったせいで詳細を聞き損ねた。 …何やってるんだ俺…! 落ち込む俺に入れたてのコーヒーを振舞いながら、カカシさんはにこやかに「やっと勝てたって感じ?」って呟いていた。 というわけで、俺の作戦は徹底的に失敗に終わった。 だがしかし!これで諦めてたまるか! 目下の目標は、花見を成功させることだ。不甲斐なくも惨敗を期した感があるが、まだ諦めるには早いはず。 「帰りましょ?」 「はい!」 今日も今日とて迎えに来てくれたカカシさんの隣を歩く。次なる作戦の成功させるという決意を胸に秘めて。 ******************************************************************************** 適当。 一端オチたってことで。今月いっぱい本体の機能が停止しぎみになりそうです。 |