これの続き。 ホワイトデーというイベントは、飴玉を受付とアカデミーで配る日って認識だった。それにおこぼれにも預かれる中々貴重な日でもある。 俺が飴を渡す係りになることが多くて、渡すだけでみんな喜んではくれるんだ。 …なんでかしらないけど、本命に渡せるようにがんばれよって言われることも多かったんだけどな? まあ意味を知らない訳じゃない。ただ忘れちまうだけだ。嫁さんは欲しいなぁと常々思ってるんだが、どうも現実味がない。 一緒に暮らして、一緒に飯食って風呂入って笑って過ごせる相手。そんな人がいてくれたら俺の人生はもっと幸せに満ちたものになる。 想像できるのはそこまでで、それならナルトとかたまにはサスケとか、あとじいちゃん…っとと、ええと、三代目とか、あとはアスマ兄ちゃんとかとどう違うのかってのが良く分からない。 好きだって言ってくれる人はいっぱいいるし、でもそれは恋とかそういうのじゃないような気がする。 イルカちゃんはかわいーから大好きよとか、紅先生も言ってくれるけど、紅先生が好きな人はアスマ兄ちゃんで、アスマ兄ちゃんも紅先生が好きだ。 他にも食堂のおばちゃんとか同僚とか、あとは甘味屋の看板娘とか、近所の忍犬とかにも言われるからまあ社交辞令なんだろうな。 好き、それも特別な好きって言葉をもらえたら、どんな気持ちになるだろう。 そう考えるようになったきっかけは、そういえば随分前のことになるかもしれない。 ナルトの上忍師になったのは、高名な上忍で業師で写輪眼で千の技があるとか夜がすごいとか言う良く分からん噂つきの人だった。半分くらい意味がわからないが、とにかく凄腕なのはこれまでこなした任務を見ても分かる。 …こっそり忍者登録証見せてもらったのがバレたら怒るかもしれないよなぁなんて、今思えば暢気なことを考えつつ、初めて出会ったその人は、なんというかだな、ものすごく目を引く人だった。 覆面とっぱらったらすごく綺麗だとか、たらこ唇だとか、近所の忍犬情報によると黒子があるとか、そういう話もあったが、とにかく良く分からないが目が勝手に追いかけてしまう。それにドキドキする。 あれか。これがオーラってヤツなのか。そう思って周囲にあの上忍すげぇぞって話したら、みんなが青い顔して円陣組んで俺抜きでこそこそ話し出したんだよなー。そういえばアレなんでだったんだろ。 まあとにかく、そんなこんなで気になる上忍。銀髪を激しく逆立った状態で半目で歩くその人は、俺にとってちょっと特別な人になった。 その頃ちょうど背中に大穴開けたばっかりで、外の任務もないし、受付と授業だけで体力に少しばかり余裕があった。あの上忍のことばかりを気にかけてしまうのはそのせいもあったのかもしれない。 暇だと余計なことばっかり考えるもんだからな。 そんなことも言ってられなくなったのは、子どもたちを中忍試験に出すなんて無茶なことを言い出した日のことだった。 まだ下忍になったばっかりだぞ!?チャクラコントロールは飛躍的に伸びてたけど、感情的なのも基礎が抜けてるのも変わっちゃいない。特にサスケは自分ができるって過信が油断につながる傾向があった。サクラは…サクラだしな…。恋に生きる女性は強い。その思いを強さに変えられるならあるいはと思わなくもなかったが、とにかく全体的に不安しかなかった。 他の班だってもちろん不安だらけだ。下忍になったばっかりで引っ込み思案のヒナタは緊張しすぎる上に自己犠牲がすぎるし、チョウジは秋道一族の特性を生かしきれてないし、シカマルは…まあやればできる子だけど、イノも…まあ勢いでなんとかしちまうところがあるけど、シノはコミュニケーション能力が心配だし、キバは無鉄砲さがまだまだ落ち着いたとはいえないし…! だが、ベストオブ不安でしょうはナルトだ。確実にあいつはわけのわからんことをしでかすだろう。ちょっとうっかりが即刻死につながる中忍試験に今臨ませる意味がわからなかった。 せめてあと2年、いや1年後でもいい。それだけの時間があれば精神的にも肉体的にも成長すると分かっているのに。まあサスケに限っては復讐に囚われるあまり兄に届かない己の無力さに焦れてるから不安ではあるが、少なくとも今この何も分かっていない状態での無謀な挑戦よりずっと安全であることは確かだ。 そのときとばかりは上忍オーラも気にせず思いっきり意義を申し立てた。速攻却下されたうえに酷いこと言われたけどな!後でちょっと泣いた!ひでぇ!うちの子たちになんてこといいやがるんだ!アンタの部下だけどなぁ!俺のかわいい教え子でもあるんだぞ!ちくしょう! こうなったら放っておけない。ちょうど怪我も大分治ってきて、任務の量を増やしても咎められにくい状態だった。怪我が治るまで駄目ですとかいって、主任がはんこ押してくれなかったんだよなあ。それもけっこう随分長いこと。 だがしかし!流石に今回は俺の殺気だった態度と、漏れ聞こえてくる中忍試験推挙の報に、考えを改めてくれたらしかった。 気合を入れて試験監督に臨んだ俺を、むしろ周りも応援してくれていたと思う。無茶すんなよとか、落ち着けよとかも言われたけどな? …でも、間違ってたのは俺だった。 確かに色々無茶苦茶だったし怪我もしたが、あの子達はしっかり成長していたんだ。そして俺はそれに気付けなかった。 なら、俺は謝らなきゃいけない。 酔っ払ってこっそりばーかばーかクソ上忍って喚きながらラーメン食ったこととかまでは言えないが、少なくとも三代目の前でお前の目は節穴だと思います(意訳)って言っちまったことに関しては反省すべきだと思った。 で、速攻謝りに行った。こういうことは早い方がいいからな!後になってからだといい辛いし、気まずくなっちまったり、もやもやしたまま終わっちまうこともある。 俺の精一杯のちょっとした手土産。つまり気を使わせすぎない程度に、中忍の給料ではちょっと手が出にくいレベルの菓子折りを持って、直接謝罪に行った。 それはもう冷や汗が止まらないし、緊張で心臓がバクバクするしで、ちょっと俺はおかしくなっていたと思う。勢いがつきすぎて怒られるだけですまなかった場合の入院の手配と仕事の分担までしっかり整えてから臨んだ。 「ん。わかりました。じゃ。上がって?」 必死にシミュレーションした通り、怒涛のごとく頭を下げてから流れるように手土産を差し出し、そのまま雷が落ちるのを待ち受けていたのに、何故かそのまま上忍の家に引っ張り込まれた。 広いは広いけど、思ったより普通だ。ベッドカバーの柄が手裏剣柄って、ナルトと話が合いそうな人だよな。やっぱり相性がいいんだろうな。サスケとはあわなそうだけどな。 写真立てには教え子たちと一緒に笑っている上忍が収まっていて、その隣のちょっと古いヤツにはちびっこと四代目が混ざった写真が飾られている。へー?この時代のスリー万セルってこんな感じだったのか。四代目が師だっていうのは調べて知っていたが、やっぱり男前だなぁ。ナルトもいつかこんな感じになるんだろうか。楽しみだ! って違う違うそうじゃない。ここは上忍の家で、俺は謝りにきてるんだ。うっかりほほえましい写真に魂を抜かれていたが、やるべきことは他にある。 「あ、あの、本当に申しわ…」 「見解の相違ってヤツでしょ。心配すべきものが違う気がするけど、それはそれってことでよろしくね?」 「うっ、はい!」 間近に感じる視線が辛い。上忍オーラのせいか、妙に鼓動が早い。流石だ。その気迫に押されるままベッドに並んで腰掛けていたときは、幻術かなんかを食らったのかと思ったほどだ。 「で、怪我の調子どうなの?」 怪我?怪我ってなんだ?ナルトの擦り傷はすぐ治るし、サスケの怪我は病院で治してもらえたし、腱も内臓も大丈夫だった。それにサクラは…怪我っていうより恋の病だし、俺の背中は大分治ったもんな。どれだ?一体? 「え?どの怪我ですか?」 分からないから聞いただけなのに、なんだかすごい表情をされた。眉は下がってるのに目が怖い。な、なんだろう?俺なんかしたか?この人に? まあ最近思いっきり食って掛かったけどな?謝りにきてる…そうか!これから制裁だからか! 「アンタ背中に大穴開けといて…!」 「大丈夫です!ほら!俺怪我の治り早いんですよ!もう塞がりましたよ!」 さあ!拳でも蹴りでもドンと来い!と、上半身を脱いだらなんだかよくわからないけど更に微妙な表情になった。 …俺なんかしちまったのかなぁ…? 「ま、いいです。風邪引くから服着なさい。塞がっただけでしょそれじゃ。治ったっていわないの。後で薬上げ…いや。塗るから。飯食ったの?」 「え?いえ」 緊張してたし、謝罪に行くのにラーメンくさいのもな。殴られる覚悟できたから何か食って吐いて迷惑かけるのもアレだろうと思っただけなんだが。 「…作ります。食ってきなさい。あと背中に薬塗るから風呂入って」 「え?いえそんなご迷惑は!」 なんだその好待遇?俺は謝りにきてんだぞ?風呂に薬に飯って…なんていい人なんだ! お互いなしにしようってことなんだろうな…!なんてできた人なんだ! 感動にうっすら涙ぐむ俺に、上忍は深々とため息をついていたらしいのだが、残念ながら俺はさっぱり気付かなかったのだった。 直後に漂いはじめた美味そうな匂いとか包丁さばきとかに目を奪われていたせいで。 ******************************************************************************** 適当。 ホワイトデー中忍はじめました。 |