最終決戦 チョコの日11(適当)




これの続き。

 理性という名の軛から開放されたのは初めてだった。どんなときでも、それこそ初めて女を宛がわれたときも、殺されかけたときでさえ冷静でいられたというのに、俺はこの男にどれだけ振り回されれば済むのか。
 ま、しっかり楽しませてもらったけどね?
 何事か言い訳めいたものをもがもが口にしつつ、抵抗にもならない抵抗めいたなにかをする男を組み敷いて、散々好きにした。
 道具なんて使う余裕なんて無い。ただめちゃくちゃにしてやりたくて、思い知らせてやりたくて、かわいらしく喘いでくれるのも、泣いて縋ってくるのも、もう無理だとわめくのも全てがすっ飛んだ頭にはむしろ睦言にしか聞こえなかった。
 結果、なんだかぐったりしつつ、うにょうにょと奇妙な動きをするイキモノがベッドの中でうなり声をあげている。
「えーっと?動きたいの?無理だと思うけど」
「うぅぅ…面目しだいもございません…」
 ヤり倒したのは俺だから、この男には原因である俺を怒鳴りつけるなり殴りつけるなりする権利がある。そうされてもなお逃がさない自信も覚悟もあるけどね。
 で、なんでかしらないけど、当の本人は己の不調を不甲斐ないとでも思っているらしい。おまけに様子がおかしい。ま、いつもちょっと変わった行動というか、予想もつかないことをしでかしてくれるんだけど、今日は普段以上におかしい。
 赤くなったり青くなったり急にへらへら笑い出したと思ったら、いきなり暗い顔してほっぺたつねって首ひねってまたへらへら笑ったりしたかと思ったら、枕抱きしめて何事か叫びだしたりね。
 何考えてるかはなんとなくわかるようなわからないような。少なくとも恥ずかしがってるらしいことと、後は混乱しているらしいことくらいは見て取れた。多分だけどね。
 いや…むしろこの男は理解しようとしたら負けなのかもしれない。
 大切なのはいつだって結果だ。
 この中忍を俺のモノにするという作戦を遂行できたのか。それだけが重要であって、他のことは追々なんとかしていけばいい。余計なことを考えずに速攻でしたいようにするのがこの男の最適な攻略法だと身をもって学んだ。
 そしてその目的はほぼ達成されたと言っていいだろう。頬に手を伸ばすと一瞬体をこわばらせたが、その後は素直に擦り寄ってきてうっとりと目を細めている。唇を重ねても素直に喘いで真っ赤になりはするが嫌がる様子はない。自覚しているかどうかは別として、俺という存在を体に思い知らせることはできたはずだ。
 少なからぬ精神的ダメージと多大な時間的コストをかけて実行した作戦だった。それに見合うだけの結果が得られたとなれば本当なら高笑いでもしたい気分になるのも当然だろう。
 ま、しないけどね。この中忍を下手に刺激するよりは、この幸福感に静かに浸っておく方がいい。
 それでも抑え切れない喜びほくそ笑みつつコーヒーを淹れて、ついでに用意しておいた軽食も与えてやった。さっきケーキのせいであんな目にあったというのに、性懲りもなく食い気に支配されたらしい。
 男が珍しがって食べたがっていたパンケーキとかいう代物だ。たっぷりというリクエストどおりシロップを皿にたまるほどかけてやると、大喜びで食いついた。もちろん自力じゃ食べられないから一口大に切って食わせてるんだけど、あんなことをした後だってのに、少しもそういう雰囲気にならない。むしろこれは餌付けだ。だが後ろ向きになったところで良い結果は得られない。嘆くより結果だ。必死になって己にそう言い聞かせた。
 甘ったるいそれを苦もなく食い尽くそうとしている男にコーヒーを差し出す。自分の分ももちろん持ってきた。
「夜明けのコーヒーってヤツですねー」
 軽口を叩いても、食うのに夢中で気付かないと思ったんだけど、どうやらちゃんと俺の話を聞いていたらしい。
「うお!な、なんてこと言うんですか!恥ずかしい!いやでも!そ、そうですね…!へへ!」
 …学習してないよねぇ。そんなこと言ったらまた食われちゃうのに。追加の休暇申請もおめでとうございますのメッセージつきで受理されたし。
 ま、もう我慢する必要もないか。
「おいしい?」
「は、はい!もちろん!」
 なんでこんなに嬉しそうなのかはしっかり後で聞きだすとして、朝ごはん食べさせたらもうちょっとだけ寝かせて、それからまたヤろう。これはもう決定事項だ。
 これが当たり前なんだとこの男に体で教え込むために、努力を惜しんでなどいられない。
 努力って言うか欲望だけど。
 鼻歌交じりに交わした口付けは、たっぷり注いだシロップと同じ甘ったるい香りがした。

 朝飯食わせてそれから中忍を食って、昼飯食わせてそれから中忍を食って、それから…ま、とにかくたっぷりこれまでの分を取り返すくらいヤった。流されやすい中忍は本当にたやすかった。これまでの苦戦が嘘のようだ。初めてだからたくさんヤって早く慣れないといけないんですよという言葉にあっさり騙されて、無駄な努力までしてくれた。その結果俺の性器には今、うっすらと歯型がついているが、それはそれだ。機能を損なうものじゃなし、今後の課題にすればいい。
 この蜜月をいつまでも続けていたかったのは山々だが、休みが2日目を過ぎたあたりから激励のメッセージが安否確認のメッセージになったからな。そろそろ切り上げるべきだろう。混乱しているのか、心中のデメリットとか、痴情のもつれの末路がどうのーみたいなものまで送ってこられてもねぇ?
 そんなこんなで普通なら入院モノなくらい体力使わせたつもりなんだけど、ぐったりしてはいるが、未だに恋人は元気だ。少なくとも下半身は。
 体力がある恋人で本当によかった。
「うぅぅう…!」
「はいなぁに?」
「ヤりすぎだと思います…なんか、尻が、変…入ってないのに…!」
 そういう無防備で何も考えてない言動が原因の一端を担ってると思うんだけどね。第一そんなこと言うけど、さっきかけられたこの人の精液はまだ生暖かいままだ。仕掛けたのは俺だけど、ノリノリで腰使っといてその言い草ってどうなのよ。
 感じやすい上に、絶倫って、抱く方としては嬉しいんだけどね。やればやるほど良くなるなんて、嬉しい誤算だ。本人は分かってないだろうが、体は正直だし?
 そう、体は正直。イイ言葉だ。これで少なくとも俺が恋人だということをこの中忍は認識しただろう。したと信じたい。
「そりゃ、積年の思いが実ったんだから当たり前でしょ?」
 青筋が浮かびそうになるのを堪えて言ってやった言葉に、中忍はこっちが驚くくらい驚いて見せた。
「え?いつからだったんですか?」
 素で言いやがった。この中忍め…!昨日今日だと思ってんのか。むしろそれを疑ってるからこその挙動不審じゃないだろうな?
 いっそそんなことを考える余裕もないくらいやり倒してやろうか。いやむしろそうすべきだ。
 そうして、思い知らせることを決意した俺の猛攻により、結果的に男は五日ほど欠勤を余儀なくされたのだが、出勤した先で驚くほどの歓待を受け、受付所で赤飯が振舞われるという椿事まで引き起こした原因は、一楽のラーメンを5日間も食えなかったことで非常に落ち込んでいたので、引き続き俺の苦難の道は続くのかもしれない。
 


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適当。
バレンタインその11。ホワイトデーに続くかどうか迷い中。

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