最終決戦 チョコの日10(適当)




これの続き。

 「何が起こったんでしょうか…?」
 深刻そうな顔とは裏腹に、その頬は未だ薄赤く染まり興奮の色をとどめている。両足をしどけなく投げ出したまま、目と表情ばかりやけにくるくると変わっていく。どうやら動けないらしい。
 ま、それくらいはやった。むしろやり倒した。途中で少しくらい思い知れって思ったのも事実だ。負担の少ないはずの俺でさえ、多少の気だるさを感じている。
 その何割がこの男から与えられた精神的ダメージの産物なのかについては考えないことにした。
 まだぎりぎり日付は変わっていない。というかだな、日付が変わる前に唐突に飛び起きたのはこの中忍の方だ。しかもチョコケーキとか叫びながらだぞ?いつものことすぎて驚きもしないし、いっそここまでの目に合わせたというのにココまで変わらないことに面白ささえ感じ始めている。
 どこまでヤったら変わるのかなー?なんてね。変わるまで閉じ込めて犯し倒してやろうかってちょっとこう…ね?
 とにかくあれだけヤったにもかかわらず説明を求めているらしい男には、何が起こったのかたっぷり教え込んでおくとしよう。何事も最初が肝心だ。
「イルカせんせがチョコ受け取ってくれたから、たっぷり俺の愛を味わってもらったんでしょ?足らなかった?」
「い、いえ!チョコ…チョコケーキ!もったいねぇ!」
 たっぷり運動した訳だし、この食い意地の張っている中忍のために用意したものだ。そもそも全部食べるだろうと思って用意してたし、この態度が素なのかそれとも現実逃避なのか微妙なところだけど、ケーキを食べさせたらまたヤればいいだけのことだ。
 明日ももちろん休みにしてあるし、足腰が立たなければ休暇を延長させるくらい簡単だろう。残業帝王だもんね。元々。
 理解するまでここから出す気などない。
「はいはい。ちゃんと冷蔵庫しまっといたの覚えてる?今もって来るから待ってて」
「そ、そうだった!ありがとうございます!へへ!」
 食い物があるって理解した途端これだ。さっきまであんあんイイ声で鳴いてたのに、大口あけてケーキ頬張ってへらへらするって予想通り過ぎて空しい。
 無防備に相当口に合ったらしいケーキの感想をつぶやいているがその半開きの口が卑猥だ。どうせなら突っ込んで飲ませてやればよかったか?でも意識が吹っ飛んだこの中忍にそんなことしたら、食いちぎられそうだし、ま、防ごうと思えば防げるけど、そんなことのためにわざわざチャクラ使うのもねぇ…?
「はいどーぞ」
「あ、お茶!うお!…な、なんでだ?」
 あーあ。見事にすっころんで…っていうよりベッドからずり落ちたといった方が正しいか。下手にバランスを取ろうとしたもんだから、つんのめって布団ごと転がっている。引っ張り上げて布団に寝かせたら素直に収まってくれたが、青ざめた顔でやっぱり俺どっか悪いのかとかぶつぶつ言ってるんだけど。
 …残念ながら素だろう。
「なんでもなにも、そりゃたっぷりヤったしねぇ?立てないでしょ。はいケーキ」
 チョコケーキで記憶がリセットされたのかと思ったら、ケーキを受け取りつつも真っ赤になったから多少は覚えてはいるらしい。
 だが、理解しているかは怪しいと踏んだ。腰が立たないのにケーキを欲しがる時点でそれは覚悟していた。
 ヤってる最中も何が起こってるんだか分かってないみたいだったしね…。
「このクリームが美味いんです!」
 力説しつつケーキを頬張るところをみると、目が覚めたのはやりっぱなしで腹が減ったからだろう。決して俺の思いに気付いたとかそういうんじゃなさそうだ。
 これ見よがしに体中に残した痕にも恐らく気付いていないか、虫食われかなにかだとでも思っているに違いない。
 …上手くいきすぎると思った。ま、想定の範囲内だ。媚薬が抜けても染み込ませた快感を体は覚えているはずだから、そこを利用しょう。
 事後の手当てもしておいたが、そっちは失敗だったか?見せ付けてやった方が良かっただろうか?治療済みの方がすぐ突っ込める状態になってるわけだから正解だと思いたいが。それにしても素っ裸だってのに無防備なこと。
「あーおいしそう」
 心の底から滲み出した欲望まみれの本音を、男はどうやら勘違いしたらしかった。
「はいどうぞ!」
 フォークにケーキさして突き出す辺り、この人らしいっていうか。決して他意はない。そういう意味での感情を込めたものじゃなく、ただ単に美味いから食わせたいと思ってくれているだけだ。
「うん。それ食べ終わったら食べさせて?」
「へ?え?」
 泣きそうな顔なんてしないでよ。どっちかっていうと泣きたいのはこっちなのに。
 だからといって、諦めてなどやらないが。
「俺が食べたいのはこっち」
かぷりと耳を食んで、ついでに耳の穴まで舐めてやった。少しは思い知れ。
「っ…!」
 …効果は中々だ。力が入らないのか真っ赤になってふにゃふにゃとベッドの上で溶けたみたいにくずおれた。ケーキは無事キャッチしたけどね。こんなことで気を逸らされちゃ困る。
「おっと。はいどーぞ」
「え。あ。はい」
 再びもごもごとケーキを食い始めたのは、恐らく驚きすぎて思考停止してるせいだろう。
 前ならくすぐったいとかきゃっきゃっしだしてくすぐりあいとかに発展するところだ。少なくとも開発は成功したと考えていいだろう。
「おいしい?」
「…あ、あの!一口!その!ぜひ!」
 あーあ。欲しいわけじゃないんだけどね。いたたまれないって顔してるのに受け取らなかったらこの男は泣くかも知れない。
 諦めてフォークに刺さった塊を口の中に入れた。甘ったるいが確かに美味い。この男ほどじゃないが、多少腹が減っていたのもあって余計に。
「おいしーよ。ありがと」
 一口で十分だから、あとは気兼ねなく全部食えといってやるつもりが、そのあとの男の態度で全てが吹っ飛んだ。
「お、俺の愛が、その!こも…い、いえねぇ…!」
 元はといえば俺が用意したものだが、この男から差し出されたチョコを確かに食った。それから愛とかなんとか照れながらそのくせきっちりケーキを食いきった男がもだえ転がっている。
 ぷつりと何かが切れる音がした気がした。
 


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適当。
バレンタインその10。かめのあゆみでもうちょっと。

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