最終決戦 チョコの日6(適当)




これの続き。

満を持して当日。寝ぼけ眼の男に朝食をすすめると、いつものように飛び起きてきた。最近ずっとこの家に泊まりこんでいたから、男の機嫌はすこぶる良い。
「塩鮭!美味そうですね!ちょうど食いたかったんですよ!」
 たいてい寝言で食べたいものを呟くからなんだけどね…。その尊敬のまなざしはもっと別のところで受けたいものだ。今更期待してないけど。
「そ?よかった。顔洗ってきてね?」
「はーい!」
 素直だ。しかしこっちをチラチラ伺ってくることも忘れない。一応俺との約束を気にしているようだ。ま、気にしてるっていうより、遠足が楽しみで仕方がないアカデミー生みたいなものなんだろうけどね。
「あ、そーだ。朝ごはん食べたらちょっとここで待っててね?俺はいったん帰るから」
「え…?」
 元気良く洗面所に向かおうとしていたのに、俺が帰ると分かった途端眉を下げて瞳を潤ませ始めた。帰っちゃうのって顔で見られると、図体のでかい同性の中忍だっていうのに胸が甘く締め付けられる。かわいいっていうか、今すぐどうこうしたいっていうか。
 今がっついてことを仕損じるつもりはないから、子犬のようにしょぼくれた顔で今にもへたり込みそうな男を洗面所に連れて行った。
「後で迎えにくるから、それまでちゃんと待ってられるでしょ?」
「迎え…はい!もちろん!」
 なにこの現金さ。尻尾があったら振りすぎて見えなくなってるんじゃないのって喜びよう。
 俺が迎えに来るっていうのがそんなに嬉しいの?
「楽しみにしててね?」
「はい!ちゃんと待ってます!後準備するものとかがあったら…」
「いらない。俺が迎えにくるまで絶対家から出ないでね?」
 一応出るときに家に結界を張っていくつもりだけど、油断できないからな…。しっかり言い聞かせたら、ぶんぶん首を激しく縦に振った後、そわそわしだした。いいから顔洗いなさいよ全く。歯ブラシもってたら洗えないでしょうが。まだ飯も食ってないのに。
「ほら、顔洗って?味噌汁沸騰しちゃうから戻るよ」
「味噌汁!顔!洗います!」
 味噌汁で顔洗い出しそうな勢いだけど、歯ブラシを手から奪い取って片付けてやったら一応は顔を洗えていたらしかった。水が飛び散ってたけど後でなんとかすればいいだろう。この家に戻ってくるのは…三日後くらいかなぁ?それまでに乾いちゃいそうだけど。
 飯をよそい、男がご執心していた焼き鮭も並べる。他にもちょっとしたおかずを並べているうちにやっと顔を洗い終えたらしい中忍が戻ってきた。おかずが並んでいくのが嬉しいのか、口を半開きにして見つめている。そこに突っ込みたいものがややその存在を主張し始めたが、実のところいつものことなので気合で押さえつけた。
 何度か気付かれるんじゃないかとひやひやしたこともあったんだけど、食い物が目の前にあるとそっちに集中しちゃうから大丈夫みたいなのよね…。俺が一人暮らしの長さもあって料理ができるから良かったけど、そうじゃなかったら相当苦戦してたんじゃないだろうか。
「はい。どーぞ」
「いただきます!」
「ん。いただきます」
 俺が箸を手に取るまで絶対に待つんだよねぇ。そういうイラナイ気遣いはできるくせに食い始めると話しかけても反応が鈍い。食い終わってからもう一度しっかり待っているように伝えなくては。外で子どもに呼ばれでもしたら、恐らく俺の命令など忘れてほこほこ飛び出していくだろう。そのために結界張るんだけど。
この中忍のことを、俺は少しも信用していない。無鉄砲で人がいいといえばいいんだろうが、悪気がなきゃいいってもんじゃないんだ。戦場に味方を庇って一人で躍り出て明らかに勝てない敵に突っ込んでいきそうなその性格…長生きさせたいんだからこっちが管理するしかないだろう。だってあの無鉄砲さは治りそうもないんだから。
「うめぇ…!」
「そ?よかった。ほら野菜もちゃんと食べなさいね?」
「んぐ!ふぁい!」
 美味そうに飯を平らげる男を見ていると不安で仕方がない。アホでアホで鈍くて間抜けで無鉄砲で…そのまっすぐさはもはや凶器だ。少なくとも俺にとっては。
「いーい?ちゃんと待っててね?」
「まかせてください!で、準備は?」
「イラナイ。約束。守ってね?俺が迎えにくるまで絶対外でちゃ駄目だからね?」
「はい!」
 男の期待値が上がっているのが分かる。普段から男がふらふらしているせいで繰り返し言うことが多いが、念の押し方の違いを鈍いこの男でも気付けたものらしい。
 我ながら美味くできた飯はともかくとして、影分身がケーキを取りにいけるまでこの家で監視してた方がいいんじゃないだろうか?わざわざ俺の家に連れ込むまで時間差をつけることで、期待と油断をさせようという策が揺らぎ始めている。
「…大人しくしててね?」
「もちろんです!」
 一切信用がならない返事はさておき、ここまでお留守番に自信を見せる男にやっぱり心配だから側にいるといえば流石に傷つけるかもしれない。傷つけること自体よりも、それが原因で逃げられると困る。今は大人しく計画を遂行すべきだろう。
「食器洗うから流しに…」
「洗っときます!だから、その、…準備、早く終わるといいですね!」
 手伝いたいんだろうなー。これは。流石に頼めないけど。いい子で待ってるから早く着てねってことなんだろうから、こっちも急ぐか。
「ん。じゃ、いったん帰るけどすぐ戻ってくるから待っててね?」
「はい!」
 きりっとした顔で返事をしてみせたくせに、その目は何があるんだろうって期待でいっぱいだ。
 朗らかな男を台所に押し込んで、それから玄関を出てすぐ厳重に結界を張り、やはりそれだけでは不安だったから忍犬も呼び出した。念には念を押してトラップもしかけてある。これでこの部屋に近づくものは全てそれらの餌食になるだろう。
 影分身を放ってケーキ屋に向かわせると同時に俺の部屋にももう一体を向かわせた。暖房を入れさせて、それから茶の用意とちょっとしたつまむものの仕上げをやらせる。縄とか薬とかローションとかはもうずっと前から用意できてるしね。
 俺自身は扉の前から一歩も動くつもりはない。というか無くなった。気配を遮断する結界だから、男も気付かないだろう。
「カカシさんちで…秘密の…なんだろうな?飯かな?本かな?わんこかな?」
 ぶつぶつ言いながら皿を洗っている。秘密って響きが気に入ったらしい。
 …秘密、秘密ね。秘密って言うより…ま、いいや。家に閉じ込めるまでは油断できないんだから、そこまでは集中しなければ。
 思わずこぼした吐息は我ながらうっすらと桃色めいていて、自分こそ期待しすぎた子どものようだ。
 あと、少し。暢気な中忍の足腰が立たなくなるまでやり倒してやる。
 決意を新たに見上げる空は、驚くほど澄んで青く高く…俺の邪な欲望を後押ししてくれそうに思えた。

 


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適当。
バレンタインその6。にがついっぱいばれんたいんでおねがいします…。

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