これの続き。 「終わった?」 「はい!」 ま、危機感なんて今更期待してないけど、この期待に満ち満ちたイキモノをどうしてくれようか?バレンタインのことだって、おそらく食い物か、酒か珍しい書物か、その辺を期待しているに違いない。 一緒に過ごし始めてすぐ、内勤の忍が思った以上に薄給であることには気付いていた。 昼飯時にこそこそ食べている弁当らしきものの中身が目に見えて貧相になっていったからだ。奢りだっていうと断るくせにね。飯を用意してやると大喜びで食っちゃうし、それが俺の懐から出たって辺りまでは考えが及ばないらしい。 奢りだって一緒だと思うんだけど。見栄なのか迷惑だとか勝手に気を回しているのか…ま、おそらくこの人の単純ぶりは筋金入りだから、後者だろう。美味いものを食わせればそれだけでこの世の春とばかりに喜んでくれるのは有難いが、それだけじゃ足らない。 そもそもそうやって気を回せるくらいならもうちょっと俺の振る舞いの意味に気付いてくれたっていいようなものなのに、無駄な気遣いに満ちているこの中忍は、俺がどんなに色めいた言葉を投げかけようが、さりげなさを装って肩を抱き、うなじに吐息を吹き込もうが、もっというならあからさまに泊まって行けと唆そうが、さっぱり警戒もしてもらえない。 むしろ大喜びで風呂を沸かしだすからな。お泊りの準備は任せてくださいとか言って。しかも揃いのパジャマまでそろえやがった。その意味がわかってんのか。天然中忍め…! …ま、それが分かってたらやらないよねぇ…。 あまりの鈍さにため息をついたら、寂しいときはいつでも呼んでくださいとか胸張って言うとかね。もう万策尽きたというか。俺をココまで梃子摺らせるなんて、敵にもいなかった気がするんだけど。普通に考えて、単純に気に入った中忍をかまってるってだけで、同性の尻触ったりしないでしょうが。 そこからなぜ尻相撲に発展したのかについて思い出したくはないので、落ち込むのはここらで切り上げて、次の作戦に移ることにする。決行まで後数日しかないんだしね? 「いこ?」 「へへ!はい!」 楽しいことが待ってるぞーとばかりにキラキラと瞳を輝かせる中忍は、これでもとっくに成人した男のはずなんだが、どうしてこんな育ち方しちゃったのかねぇ…? 経歴を見ればそれなりに戦歴を重ねてきている。頭が悪いわけじゃないはずだ。実際、術を教えれば飲み込みが早く、手際もいい。チャクラの量は上忍としてはやや心もとないが、少ないって訳でもないし、強さでいうならそこそこ使える部類に入るだろう。ただし、俺と比較しなければだけど。 教師らしく型に嵌った動きは得意だが、絡め手には弱いと踏んでいる。ま、元々チャクラ抜きでも俺が力負けすることはないだろうけどね。しかも相手はすっかり油断している。こっちが頭からバリバリ食って、ひとかけらも残さず俺のモノにする気だなんて思いもせずに。 「どうしようかっなー?」 今ココで最後に念押しをしておくべきだろうか。結局あの後、家に一式揃えてある物にはこの人の耐性なんかも加味して選んだものであったことを踏まえて、避妊具の類を買いなおすのは止めておいた。 代わりといっては何だが、用意したものとは別の酒と、それからこの人が好む洋菓子…チョコレートケーキを注文してある。結構な健啖家だから、食わせてからだとヤり辛いかと思って迷ってはいたが、吐いても吐かなくてもヤることヤるのはもう決めてたんだし、ある種意趣返しの意味も込めて飛びっきりのヤツを用意した。 俺のは義理なんてかわいい代物じゃないってことを、身をもって思い知ってもらおう。 「買えましたよー!なめろうじゃなくて焼きますか?」 俺の言葉の意味をさっぱり理解していないらしい中忍をみていると、いっそ今すぐむちゃくちゃにしてやろうかという苛立ちと共にムラムラするんだが、ここで焦っては折角の計画が無駄になる。今回は任務も入らないように厳重に手を回したんだ。押し付ける予定の後輩は、素直な方だが文句も多い。それが俺の気迫に負けて素直に頷いてくれたんだ。こんなチャンスはおそらく二度とない。 「おどりぐいかな」 「へ?それは…無理なんじゃないかと。もう生け締めしてありますよ?」 「ん。そーね」 魚の入った袋を覗き込んで律儀に返事をしてきた男の手を取った。 今日のつまみはなめろうで、ついでに酒には薬が盛ってある。首尾よく行けば当日血まみれなんてことにならない程度には、下ごしらえができるだろう。 長かった忍耐の日々はもうすぐ終わりを迎えるはずだ。…俺の理性には多大なる負荷がかかるが。 「味噌汁のみてぇなぁ。後はとんかつかコロッケでも買ってきますか?」 「野菜も食べなさいね。俺が作るから。煮浸しでいいでしょ?」 「おお!カカシさんの煮浸し…!」 もう頭の中はすっかり食い気になったようだ。うん。そうやって油断してなさいね?今日からの俺は容赦しないよ? 獲物は手元で幸せそうに煮浸しの美味さを語っている。非常においしそうだ。何がって一生懸命に語っている本人が。 「楽しみにしててね?」 「はい!」 さてと、これで準備は整った。今夜は眠れないだろう。…ヤることがいっぱいあるからな。 煮浸しだコロッケだメンチカツだとはしゃぐイキモノのためにも、俺の理性があと少しだけ保つ事を、淡く輝く月に祈っておいた。 ******************************************************************************** 適当。 バレンタインその2。バレンタインに間に合えばいいな! |