隙を見て襲うつもりではあった。そうでもしなきゃこの中忍に理解させることなどできないだろうから。 ちょうど良く、もう少しでチョコレートの日だ。押し付けられる甘ったるい茶色いものの始末に困る面倒な一日として認識していたその日。 そのまさに当日に甘くないチョコレートとやらをわざわざ探し出して贈ってくれたのはお中元みたいな気持ちだったんだろう。一年たっても変わらない距離にそう悟らざるを得なかった。 こっちは大喜びしたんだけど。 初対面からして真っ当でまっすぐで純粋ですって看板貼り付けてあるような性格だって、疑う余地もなく思わされた。最初はこんな馬鹿で大丈夫かって心配で良く見てみれば満身創痍で、隠してはいるみたいだが背中の辺りのチャクラの流れがおかしい。 隠しているそぶりから本人から聞き出すことを早々に諦め、さっさと医療班の資料をあさってみれば、大穴開いたままラーメン食いに行ったとかとんでもないことが書いてあった。その場で厳重注意の上内勤でも運動厳禁って診断降りてるのに、さっきみた限りだと元気の有り余った生きのいいガキ共に囲まれて手裏剣投げたり火遁使ったりしてたんだけど。 馬鹿なの?っていうか、アレほっといたら死ぬよね。死ぬでしょ? うすうす感じていた予感が確信に変わったのは、俺相手に喧嘩腰でつっかかってきたときだった。 あからさまな上位者に喧嘩。それもそう強くもないのに。怪我の状態だってチェックしてたから知ってるけど、無茶ばっかりするから深々と痕を残している。動かし続けたおかげで腱が引連れたりはしていないが、薄くなった皮膚はまだ痛むだろう。 怒りに任せて一番傷つく言葉を選んでやったら、これ見よがしに伝令役まで買って出た。合格するかどうかは五分程度かと想定してはいたが、その態度は流石に酷すぎるでしょ。確実に。腹がたつというよりも呆れた。こいつは絶対に長生きできない。…俺が見てないときっと死ぬ。あっという間に。 その後素直に謝りに来たのはこの人らしいけど、それも悪手だ。俺がもっと分かりやすい悪人だったら、上忍に楯突いたことを口実に好き放題にされちゃうかもしれないのに。 それから放っておくと心配だって理由でこの人を側に置いた。接点はごく僅かで、階級さもある。そして喧嘩を吹っかけたのは格下の方とくれば、普通ならありえないことではある。 だがボケっとしてるというか、声をかければ嬉しそうにほこほこついてくるからさほど難しくはなかった。本人は気付いてなかったみたいだけど、手を回した連中が素直にその方がいいと後押ししてくれた辺り、この男の思い切りの良すぎる無鉄砲さに、周囲も手を焼いていたんだろうと予想はついた。何せ自ら勝ち目のない戦いに赴くだけに飽きたらず、そこで素っ裸で怒鳴りつけてくる並に無鉄砲だもんね。自分が間違ってないと確信したら最後、死ぬまでそれを曲げないのも問題だが、自分が間違っていると気付いたらさっさとそれを詫びにくる素直さなんて致命的だ。素直に俺についてくる男は何も考えちゃいないんだろうが。 こんなまだるっこしいことをしなくても、一番手っ取り早い方法はあった。この男を俺のモノにすればいい。里は一定以上強い者にはそれなりの便宜を図ってくれる。それはこの比較的人道的…言葉を帰れば甘いところのある木の葉でも、当たり前のことだ。他里のように無制限とはいかないが、中忍を一人好きにさせるくらいなら、おそらくそうたいして反対されはしなかっただろう。 欲をおぼえなかったというわけじゃない。見た目は男らしいがどこか危なっかしくて庇護欲をそそるところもだが、そのどこまでも歪みのない愚直とも言える性格は、自分とは違いすぎて逆に惹かれた。それにこの男は寂しがり屋だ。普段は礼節を保とうとでもいうつもりか、それなりに距離を測ってくるくせに、酔いに任せて触れてくることは多かった。いっそそのまま食ってしまおうと思ったのも一度や二度じゃすまない。 そうしなかったのはただ単純に、そんなことをしたら最後、自刃しそうなほどこの頑固者の思い切りが良すぎるからだ。守るつもりで死なれるなんて、本末転倒すぎる。 手を出しあぐねていた。それとなく他を排除しつつ、害意を持つものを処理し、囲い込むことに腐心しつつ、どうしたものかと悩む日々は長かった。 ふいに差し出されたそれを、チャンスと考えてしまった程度には。 「これ、カカシさんでも食べられると思いますよ!甘くないし酒きいてるし!」 笑顔でチョコの日にこんなもの渡されたら、期待しないって言う方が嘘だ。このままどこかに連れ込んで、食うのはもちろんチョコだけじゃなくて目の前でニコニコ笑っているイキモノの方もだろう。そう企んだというのに。 「さあ!食ってください!」 期待に満ち満ちた目で見つめられて、仕方なく包装紙を丁寧に剥いだ。寄越した方は気にしないだろうが、こういうものを乱暴に扱うのは性に合わない。それにこれをどこで調達したのかも気になるところだ。甘いもの好きだがさほど味にこだわりのある方でもない贈り主は、どこでこれを知ったのか。これだけ俺が張り付いていて、他の女にかっ浚われるなんて冗談じゃない。 「いただきます」 嫉妬にさいなまれながら口にしたそれは確かに美味かった。それを素直に顔や言葉にするべきかどうか迷えたのは一瞬で、期待と不安を隠そうともしない相手を待たせることはどうしてもできなかった。 俺も甘いよねぇ。 「どうですか?俺これ選ぶのに随分洋菓子やめぐりしたんですよ!やっぱり男一人だと不審がられるんで大変だったんですから!」 だから褒めろとばかりに胸を張る。不審がられた理由など考えてもみずに。 ああくそ!わかってなさすぎるじゃない! 「おいしいよ。ほらイルカ先生も口あけて」 「え?え?」 「ほら。早く。溶けちゃう!ほら、あーん!」 「え!もったいねぇ!あーん!…うめぇ…!」 貰ったばかりのチョコを口に放り込んでやったら、至福とばかりに顔を蕩けさせている。…色々と不安がこみ上げてくるのは、俺が不甲斐ないせいだろうか。 そのくせその顔がもっと見たくて結局チョコのほとんどは贈り主の胃に納まったわけだが。 これじゃ駄目だ。このままただのオトモダチで終わるつもりはないのだから。 そう奮起してホワイトデーとやらに用意した吟味に吟味を重ねた洋菓子は、お礼の酒とやらと交換されて、結局はそのままそれをつまみに酒盛りという面白くもない展開が繰り広げられた。 そうやって、似たようなことを繰り返したままもうすぐ1年が経つ。 これはもう堪忍袋の緒を切っても許されるだろう。むしろ俺の我慢強さを褒め称えて欲しいくらいだ。 今年はもう、我慢するつもりはない。…いや、もうできないというべきか。 「イルカ先生」 「へへ!今日は魚屋のおっちゃんにいい鯵が入ったって言われて朝とりおきしてもらってるんですよ!なめろうとかどうです?」 家に上がりこむのも当たり前になってるのにねぇ…。やっぱり同性同士ってのがネックなのか。結構きわどいこと仕掛けてるし、言葉でも言ってるつもりなんだけど。直球じゃないと駄目なのか。忍とは思えないくらい真っ当だもんねぇ。この人。 「ん。じゃ、いい酒持ってくけど、それだけじゃなくて。ねぇ。14日ってヒマ?」 「え?ああえーっと。日曜日?休みですね。どこいきましょうか?」 …休みの日に俺と一緒に過ごす前提で話してるくせに、どうしてこう上手くいかないんだろう。結構距離は縮まってるはずなのに。ま、だから勝負にでるんだけど。これから。 「秘密。でも明けといて?」 「秘密…なんですか?なんかあるんですか?」 あからさまにわくわくしだした。もちろんあんたを食うんですよと言う気はないが、隣の同僚らしき男も、受付所に居合わせた連中も、一斉にこっちに注目してるのがわかる。 何度もこの手の状況になっては結局変わらない関係を、見透かされているからな。それでも諦めない俺に対する驚きと賞賛というか…あからさますぎる応援の言葉をつぶやいているヤツまでいる。 そういえば去年のクリスマスはここで過ごした。同じような流れで出勤なんですよ!となぜか八つ当たり気味に叫ばれて、ケーキと肉とつぶやきながらしょんぼりするからしょうがないでしょ? そう、あの時もこんな状態になった気がする。応援されるのはいつも俺で、肉を食って喜ぶこの人は、どっちかっていうと呆れられていたというか、ちょっと哀れまれているというか。 失敗する気はないんだけど、居心地は悪い。 「なんかあるっていうか、するんだけど。いーい?」 「サプライズってヤツですね…!楽しみにしてます!あ、俺もなんか用意しますか?」 「しなくていい。ま、当日のお楽しみってことで。…あ、でも絶対他の予定いれないでね?入れたら…」 「はは!わかってますって!」 ああもう。これだけ殺気ぶつけても物ともしない。鈍いっていうか、懐に入れた相手への無防備さがたまらなく不安だ。 だが約束は取り付けた。それに実のところシフトにも口を挟ませてもらっている。いい加減アイツも気付けばいいのにとか同情までされたがそれはそれだ。味方は多いほうがいい。 「じゃ、今日はイルカ先生んちね?迎えにいくんで」 「はい!」 笑顔を全開で振りまくターゲットを背に、受付所を後にした。 いっそ痛々しげな視線を向ける周囲の連中に見せ付けるように、これ見よがしにこの足でゴムとローションでも買っていこうか頭を悩ませながら。 ******************************************************************************** 適当。 バレンタインその1。つづくかも? |