これの続き。 「らーめんも丁度出来た所だったんです」 そう言われて尚一般的な誕生祝いというものを語ることは流石にできなかった。 まあこの人が楽しそうにしてるんだから、今日は野暮なことは止めよう。 段々流されているような気がして少しばかり不安ではあるが、要は如何わしい真似をしてこなければ問題ないのだ。 「あー…まあその、色々ありますが、とにかくお祝いしましょうか」 「はい!」 きらきらした外見のイキモノが、キラキラした笑顔で俺を見ている。 …変な人なんだけどなぁ。 なんとなく無碍に出来ないのはこの素直さのせいだろうか。 それにラーメン伸びちゃったらもったいないもんな。 食卓につくと美味そうな匂いが漂っていて、思わず腹がなった。 任務中は炊き出しも警戒せざるを得なかったから、兵糧丸で誤魔化していた上に、結構長いこと寝込んでしまったのもあるだろうか。 恥ずかしさに顔を赤らめる俺を、男はなぜか酷く嬉しそうな顔で見ている。 見るなと叫ぶ代わりにラーメンに手をつけることにした。 食ってれば気にならない…だろう。 「頂きます」 「はいどうぞ。俺も頂きます」 一口食べて驚いた。美味い。 どこかで食べたのとそっくりな味だ。 そういえば持ち込まれていた麺は、透明なビニール袋に入っていた。市販のものにしちゃ包装が変わっているとは思ったが、まさかこれは。 「美味い、んですが、これ」 「一楽のおやじさんに譲ってもらってきたんです。茹で加減も教わりました。貴方が怪我をしたからと伝えたらそれは丁寧に教えてくれましたよ?」 「スープまで…!」 「あ、それは流石に教えられないからって、出来たのをもらってきました」 やはりか。親父さんお人よしすぎるだろ…! いやおかげで美味いものが食えたんだけどな…。 それにしてもなんでこの人いきなり不満そうな顔してるんだ? 「…もてるんですね」 「は?」 なんだ?何の話だ? もてるって…それはない。断じてない。悲しいほどありえない。 特に今の状況じゃ余計に。 「貴方に関わっている人間は全員知る必要がありますから」 そういってふいっとそっぽを向いてしまった。 へそを曲げた子どもそっくりなんだが、何がこの人のツボに入ったんだろう? 全員って…受付もやってるのにそんなことしたら大変なことになるんだけどな。任務に忠実にもほどがある。 というか、これはなにか他に理由がありそうだ。それがなにかはわからないのが問題なんだが。 そんな状況でもラーメンは美味くて、気付けば全部平らげていた。 「おいしかったですか?」 いつの間にかご機嫌な表情を取り戻している。 …考えるのは止めよう。多分理解できないだろうから。 「あの、ラーメンまで作って頂いて間抜けな話なんですが、これを。お誕生日おめでとうございます!」 しかも取ってきてもらったモノでもあるんだが、酒瓶を差し出した。 ラッピングなんて気の利いたことをする余裕はないが、同じ男だ。気にしないでいてくれるだろう。 「ありがとうございます」 男が嬉しそうに笑ってくれた。 差し出したものを受け取らずに。 …うーん?この人の中で誕生日ってどうなってるんだろうな。 「これあの、酒が嫌いじゃないならプレゼントといいますか!どうですか?」 他に今のところ碌な物がない。 それこそ身一つで引っさらわれてきてるからなぁ…。 受け取ってくれることを期待して、もう一度差し出したら、今度こそやっと手にとって貰うことができた。 「もらっていいんですか?」 「はい。もちろん!」 「ありがとう、ございます」 なんでそこで酒瓶を抱きしめるんだろうなー…? まあ、いい。多分喜んでもらえたみたいだし。 「後はケーキ…」 「引越し祝いですね。長いものラーメンで済ませたし、契約解除は今月末ですが、荷物は順次忍犬たちにも手伝ってもらって運びますから」 「へ?」 「お酒、怪我が良くなったら一緒に飲みましょう」 「え?え?」 契約解除?…ってなんだ?なんのことだ?引越し…ってまさか!? 「俺の部屋!?まさか勝手に!」 「ああ、大丈夫ですよ?家賃は勿論俺が持ちますから」 怒鳴りつければいいのか説教すればいいのか…。 とりあえず呆然としている間に酒瓶はどこかにしまいこまれ、代わりのように白い箱が食卓にやってきていた。 「家!俺の!」 「こういうのって、紅茶でしたっけ?」 かみ合わない会話に涙しながら、男がその白い箱を開けるのを見ていた。 …更なる追い討ちがあるなんて考えもせずに。 ********************************************************************************* 適当。 イベント負け犬です。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |