誕生日特権5(適当)


これの続き。




「アンタ家事まで出来るんですね…」
「そうですねぇ。ま、基本ですし」
結局あれから打ちひしがれたまま寝くたれたくせにいうのもなんだが、ずらりと並んだ朝飯はとてつもなく美味そうだ。
炊き立ての飯だけでご馳走の部類に入る自分には、その上更に添えられている焼き魚に頬を緩め、更にがんもの含め煮やらおひたしやら漬物に味噌汁までついてきていることにはいっそ驚愕すらした。
朝っぱらから全部この人が作ったんだろうか。
美味そうな食べ物の匂いで目覚めたというのに、どうにも認めがたい。
顔もいい腕がたつ料理までできる。男として悔しいと思うことすら許されないんだろうか。
…でもその分ちょっと頭がアレだから帳尻はあってるのか。
とりあえず飯に罪はない。腹が減ってるとろくなコトを考えないしな。
最初はそれなりに気を遣ってゆっくりと、だが徐々に空腹とその美味さに負けて、気がつけばあっという間に平らげてしまっていた。
「ご馳走様でした」
腹がくちくなると眠くなる。
だが今眠気に負けようものならなし崩しにこの人の好きにされるのは目に見えている。
ちらりと視線をやると、うっとりと俺を見つめている。それも食後のお茶なんか淹れながら。
…お前は俺の母ちゃんか。
そう突っ込みたくもなるが、どうやら母ちゃんというか、嫁にされそうなのは自分だ。
庇護欲が強い人なんだろうか。俺だって人のことは言えないが、間違っても同じ成人男子捕まえて守るために結婚しますなんてことは言わないし、そもそも考えない。
どうしたらいいんだかなぁ…。この人、いい人そうなのに。
常識というものの重要性について、こんなにも考える羽目になるとは思いも寄らなかった。
「大分顔色良くなりましたね」
茶を差し出しながら男がにこりと笑った。
そりゃそうだろ。丸薬飲んだしあれだけ寝たし、そもそも俺は丈夫な方だ。
飯食って寝ればよっぽどの大怪我でも大抵そこそこ元気になる。
一楽のらーめんが理想だけど、今日の飯だって相当に美味いし、嫌味じゃなくさりげなく御代わりを用意してくれるもんだからついつい食いすぎてしまった。
今思えば敵の所へ誘導する意味もあったんだろうが、無駄としか思えない野営続きでろくなものを食ってなかったのも災いして、食欲は相当なものだったと思う。
これだけ食えば元気にもなるってもんだ。
「で、その。俺は結婚とかそういうんじゃなくてですね。お誕生日をお祝いしたいんですが」
「…だめ?」
ああまつげ長いなぁこの人。あっという間に色違いの瞳が潤んで…って!泣き落としか!
「あの、そのですね。…結婚というのは通常好きな人というか、愛し合った二人がするものです。政略結婚なんてのもありますが」
コレは譲れない。この人は上忍みたいだし、特殊な能力があればその一族の意向で結婚が制限されることもあるから一概に言えないが、木の葉では大抵自由恋愛の結果、結婚することが多い。
この人がそういう一族の出であるというのは…まあ可能性はなくはない。強いし。ならむしろ俺なんかじゃ駄目だろうに。同性同士での婚姻は珍しくもないが多くもない。血を残さないことに否定的な向きは年嵩の忍には決して少なくないのもあって、おおっぴらに出来るほど受け入れられてもいないのだ。
「父さん。俺の父もそうでしたよ?」
ああ、まただ。この人の言葉は色々と足りなすぎる。
「えーっとつまり政略結婚?」
それにしてはこの人俺と結婚しようとしてるけどな。…この人の父親はなにやらかしちゃったんだ…?
「護衛任務でくノ一と結婚しました。依頼人の情報を知りすぎたとかで。昼夜問わず隙を見せずに守れって言われたかららしいですが。それが母です。俺が中忍になる前だから、随分と早くに逝ってしまったので短い間でしたが、それはもう仲が良かったですよ?」
「そう、ですか…!?アンタの母親は良く納得しましたね…!?」
それは里の仕向けた見合いだったのか、それともこの人みたいに任務優先で考えすぎてひょうたんからこまがでちまったのか…。
この里は女性が偉く強いから、この人みたいに無理やりってことはないと信じたい。
それにしてもこの人、母ちゃんっぽいのに、そんなに早くに母親をなくしたのか…。この人の強さからして中忍になったのが昨日今日ってわけじゃなさそうだし、だから誕生日に関しても良く知らないのかもしれないな。男親ってのはそういうのが苦手なものらしいから。
「幸せそうでしたねぇ。父はなんていうか、ちょっと浮世離れした人でしたから、苦労したみたいですが」
…そうか、父方の遺伝か。
息子を矯正しようにも早世したのならそれもままならなかったんだろう。
「…お誕生日祝いには、ケーキを食べるんです。それから大好物ばっかり食卓に並べて、みんなで歌うたって…」
「先生がそれやってくれました。お誕生日のお祝いには何でも好きなものをもらえるって教えてくれたのも先生でしたから。…ま、そのとき欲しかったものは絶対に無理なものだったんですが」
悲しいというより、何かを諦めたように茶をすする男に、なぜか苛立った。
何でそんな顔してるんだよ。…変な顔だ。痛いのを誤魔化すときの。なんでもないなんていって、大ウソをつくときの顔だ。
最近身近な子どもがよくそんな顔をするから分かる。…俺の一番大嫌いな顔だ。そんな顔させる連中を許せなくて、うっかり大立ち周りをしでかしたほどに。
「何が欲しかったんです」
「…父さんを返して欲しかったんです」
ぽつりと零す顔から一切の表情が消えた。
…それで予想がついた。多分、この人はそのとき母だけでなく父も失っていたんだ。
「お祝い。しましょうね?とりあえずケーキ買ってきます。それと好物は?」
「ケーキですね。買って来ます。貴方の好物を知らないので、それも調べてきますね?」
「え?あの?」
「傷病届けも出ていますし、寝てばかりで退屈だったら本棚の本読んでもいいですから」
浮き足立つというか、舞い上がるというか、とにかく男はそれだけ言い捨ててあっという間に姿を消した。
「どうしてそうなるんだ!」
つまり俺のそんな叫びを聞くものも誰もいなかったというわけだ。


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適当。
後2回くらいでなんとかしたい。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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