誕生日特権4(適当)


これの続き。




目覚めたら全部夢だったらいいのにと儚いことを願ったものの、現実はそう甘くはない。
隣にいる暖かい生き物はもしかしなくても昨日の男だ。
体の調子は昨日の丸薬の効果もあってか大分いい。震えるほどの寒気もだるさも今は鳴りを潜め、代わりに隣のイキモノを少し冷たく感じるほどだ。
元々丈夫なタチだから、恐らくすぐによくなるだろう。これならアカデミーを長いこと休まずにすみそうだ。幾分安堵することができた。
それにしても同僚の家に泊まることなんてしょっちゅうだが、この見知らぬ部屋はどこか余所余所しい。家具の少なさといい、雑多なものが転がっている自分の部屋と違いすぎるからだろうか。
だが男は愛の巣と呼んでいた。つまりここが傍らで眠る男の住処なのだろう。
状況は全くもって芳しくない。敵…というのはまずいかもしれないが、この男のテリトリーに閉じ込められたに等しい状況だというのに、満身創痍の上にほぼ丸腰だ。
逃げるか、説得か。
戦いぶりでイヤというほど思い知っている。本気で追って来られたら体調が万全でも敵うかどうかわからない相手だ。
三代目の様子からして、里はこの人の行動を予想していなかったに違いない。ここはコトを荒立てるよりも、何とかして外の協力を得るべきだろう。
「おはようございます」
身を起こしただけで隣のイキモノはパッチリと目を開け、微笑んだ。
朝から目の毒というかなんというか。顔がいいからなのか、妙に恥ずかしい気分にさせられる。
大体なんでこの人服着てないんだ。
「おはよう、ございます」
挨拶はきちんとはうみの家のモットーだ。というか人としてそこは守るべきだろう。
決して現実逃避なんかじゃない。…はずだ。
「ごはん食べられますか?体は拭いたんですが、包帯替えなきゃ」
「へ?」
体、拭いた、それはつまりこの人が俺の体を…。
思わず布団をめくって自分の身を改めてしまった。
腕にも足にも見る限りで変化はない。
…服を着ていないということの他は。
夕べ脱がされたのは上半身だけだったような気がするが、すっかり下着さえ残さず引っ剥がされている。身にまとっているのは腹や腕に巻かれている包帯だけだ。
おかげで驚きのあまり元気をなくした股間までもが視界に入り、なんとも情けない気分になった。
「あらら、やっぱり血が足りないんですかね?ちゃんと食べなきゃ」
隣から覗き込んだ男が唐突にそんなことを言うから、慌てて布団をかぶる羽目になった。
「なんてとこ見てるんですか!その!確かに今は元気はないですが!正常です!いやその!そうじゃなくて!」
恋人でもない人んちの、ましてや同性と同衾しながらおっ勃てる馬鹿がどこにいるんだ。そもそもいくら朝だからってこんな状況で盛るほど見境がないわけじゃない。血が足らないのも事実だし、普段どおり家にいたら多少は…。って、いやいやいやそうじゃなくて!
…この人に付き合ってると俺まで頭がおかしくなりそうだ。
「正常でしたねぇ。元気で安心しました。綺麗に拭いておきましたから」
穏やかな微笑を絶やさない男からの爆弾発言。
なんなんだその…如何にも確かめましたっていう口調は!
「おおおお、俺に!なにしたんですか…!?」
「風呂入るついでに体を拭いて、ちょっと。ね?…日焼けする方なんですね」
悪びれない笑顔が恐ろしい。本来なら怒鳴りつけてやりたい所だが、こういう人にはあれだ。
ナニ言っても無駄。
その言葉が脳内を駆け巡った。常識が違いすぎる。
…だが悪意は感じられない。恐らくは純然たる善意で、それとも限りなくそれに近いものでこの人は動いている。
それなら話のもって行きようでなんとかできるんじゃないだろうか。
こちとらアカデミー教師だ。何も知らない子どもたちに一から教えるのを仕事にしてるんだから、いくら相手が変人だからって挫けてはいられない。それに挫けると漏れなく己の貞操も危ない。
「あのですね。どうしてその、結婚なんてことになってるんですかね…?」
一緒にいた時間は短いが、わかったことがある。この人は自分が納得するのは速くても、こっちが分かるように説明するのは多分下手くそだ。それも致命的に。
自分なりの理屈は存在するようだが、世間からそれがずれているという自覚がない。
最初から細かく説明してもらって、その間を埋める必要がある。
「だって、守れって言われましたよ?不特定多数の敵から貴方を守るには、一番効率が良い」
「でもですね、その任務はもう三代目が終了と言った筈です。それに確かに今回は嵌められて危険な状態でしたが、今後はそうそうこんなことは…」
総合すると、この人は任務の達成効率だけ考えている。それから任務とプライベートの明確な区別がないようだ。
問題点としてはそんな所か。
とにかく相手が如何に変人でも、一応は忍。ゆっくり言って聞かせればわからないなんてことはないはずだ。
諦めず少しずつ伝えなければ。そもそも任務はもう終わっているんだし。
「だって貴方の無事をもって、なんでしょ?今は無事だけどこれからはわからないじゃない」
説得を始めた途端、不満げな口調になった。それも随分と子どもっぽい。
任務を達成できていないと思い込んでいるのか、それとも。
…この任務を終わらせたくない理由でもあるのか?
「また危なくなったらご厄介になることがあるかもしれません。ですが、俺も中忍です。そうそう簡単にやられやしませんよ」
詰め寄る顔は心配と不安に彩られている。だから、つい。
ふわふわした頭を乱暴に撫で回していた。
「でも、もう誕生日プレゼントでもらっちゃいましたから。駄目です」
ふいっと頭を逸らしふくれっつらをみせられると恐怖より微笑ましさを覚えてしまうから困り者だ。
なんだろう。この人。構いたくなるよなぁ。…変な人だけど。
「それに関してはまた話し合いましょう。その前に飯!飯です!」
「そうね。ご飯食べてからにしましょうか」
とりあえず見解の一致を見たようだ。
腹が減っては戦が出来ぬ。ある意味現状は本当に戦のようなものだ。
自分の一生がかかってるんだからな。
腹ごしらえをして、気合を入れなおして、それからきっちりこの人にわかってもらわなくては。
…多少捨て身にはなるが、切り札がないわけじゃない。この人の年齢からして…あの事件を知らないわけがないのだから。
立ち上がろうとした俺を制し、男がするりと布団から出て行った。
「朝ごはんできるまで寝ててください」
それはありがたい。正直眠気は未だにしつこく居座っているのだ。
でもだな。どうしてその!
「キスは余計だ…!」
涙目になりながら口元をぬぐって、そのおかげで自分が素っ裸であることを再認識させられた俺は、半泣きのまま布団にもぐりこむ羽目になったのだった。


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適当。
もうちょっと…!
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