誕生日特権3(適当)


これの続き。




「さてと。じゃ、ちゃんと手当てしましょうか?」
「え、あの。はい。そのそれはありがたいんですが…!?」
すとんと降ろされた先はふかふかのベッドで、手裏剣柄のぱっと見趣味の悪いカバーがかかっている。
入ってすぐベッドってのは普通の家としては違和感があるが、この部屋は綺麗に片付けられている中にも生活観がある。
写真たてに今やたらと流行っているエロ本も転がっていて、どう見ても連れ込み宿ってわけじゃ無さそうだ。
「じゃ、脱ぎましょうか」
「え!ああああの!?」
躊躇う俺に男は何の興味も無さそうにあっさりと服を引っ剥いだ。
血と泥でどろどろに汚れて重ったるいそれが、フローリングの床にどさりと落ちる。
なんだこれもしかして…貞操の危機ってヤツなのか!?
「よかった。膿んでない。…しばらく無茶をしなければ治るでしょう。二週間ってとこかな?」
傷口を検める手つきに色は見えない。
なんだこの人。…一体何がしたいんだ。
「無茶はしません。ありがとうございました。もう自分の家に帰ります」
とにかく関わらないに限る。
そう決め込んでさっさと立ち上がろうとしたのだが、それは長い腕に阻まれて果たせなかった。
「駄目でしょ?大人しくしてなきゃ。第一どこに帰るんですか?」
真剣に聞いているのがわかるだけに、静かに俺の背を冷や汗が伝った。
もしかしなくても、この男は静かに常軌を逸しているのかもしれない。
「俺の、家にです。家というかまあ、アパートですが」
「ああそうですか。では近い内に解約しましょうね。今月もまだ半ばだし、荷物を運び出すにも丁度いい」
うんうんと一人納得している。…それはつまり、勝手に引越しさせられるということを意味している。
冗談じゃない!
「なんで!」
「え?でもほら、一生を共にするなら一緒に暮らした方がいいと思うんです」
真顔だ。真顔だよこの人。あの口ぶりからして多分相当腕は立つんだろうに、頭の中身は大分残念に違いない。
現に今全く会話が成立してないし!
「い、一生って!任務でしょうが!そんなに長くないでしょうし、そんなことで俺を家に上げたら…!大体貴方の彼女が困るでしょう!」
そうだ。こんなに見てくれがいいならまちがいなく相手がいるはずだ。
そう信じて畳み掛けるつもりだったのに。
「彼女…ねぇ?適当に寝る相手は何人かいますが、結婚したらいらないでしょ?」
「ちょっ!ちょっとまて!まてまてまて!アンタ今なんて言った!?」
結婚…結婚だと!?何で俺がこの…いやもしかしてこの人女性…!?なわけないだろ!
こんなにごつくて俺より背がでかくて股間が盛り上がった…え?あれ?おいおいおい!どうした!?何でこの人…勃ってるんだ…!?
「さっきプロポーズして了承してもらいましたし。幾久しく」
「あの、間に合ってます。お祝いはしますがそっち方面でのプレゼントは無理です。ノーマルです。女の人が好きです」
大体さっき無理をするなっていったじゃないかと詰りたい。
とりあえず具体的なことは想像もできないが、痛いだのなんだの恐ろしい話は良く聞いている。この状態でそんなことやったら俺が死ぬかもしれない。
「そうですか。どんなタイプが?」
「そりゃ優しくてかわいくて守ってあげたくなるような…」
顔は気にしない。ある程度はするけど、一番大事なのはあったかい家庭を築くことだ。
そりゃある程度好みってもんがあるにしろ、人間中身が大事だよな!
第一自分だってさほど容姿に恵まれているとはいえない。平々凡々だ。多分。
優しそうとか和むとか癒し系とかイルカセラピーとか褒められてるんだかなんだか分からないことは言われているけどな。
つまりどうせ選り好みするなら性格でしたい。
思わず幸せな妄想に耽ってしまったのは、この異常な状況のせいだろうか。
なんだかさっきから頭がぐらぐらする。
「巨乳派ですか?」
…その全部をぶち壊してくれるんだけどな。この人は。
「アンタなんてこと聞くんですか…!」
「大事でしょ?」
「なんでですか…」
「大胸筋には結構自信があるんですが」
「そう、ですか…」
自慢のようでいて、男の顔はなぜか少し不安そうだ。
…もう駄目だ。時間も体力も精神力も使い果たして、この人を理解する余力などもう欠片も残っていない。
とりあえず休みたい。無体な真似をされそうになったら自爆覚悟で特攻かけてやる…!
「脱ぎましょうか?」
「いえ、その。…休みたい、で…」
ぐるぐると世界が回っている。そういえばたっぷり失血してたのを忘れていた。
視界は霞み、四肢からは急激に力が抜けていく。
倒れこんだ先には男の腕があり、しっかりと抱きとめられた後、ふわりとしたものの上に運ばれていた。
「そうですね。コレだけ飲んだら後は眠った方がいい」
丸薬らしきものを口の中に放り込まれ、すっかり力の抜け切った体でそれを飲み下そうとした。
だが口内はからからに乾きっている。いっそ噛み砕いて吸収を待とうか。動きの鈍い己を叱咤してみたが、思うように動いてはくれない。
だが放り込まれた丸薬のその後を追うように何か柔らかいものが唇に触れて、液体が流れ込んできた。
「ん…」
おかげで何とか飲み下せた。舌さえもままならない状態だということも思い知らせてくれたが。
…ぬるりと口内を這ったものの正体については考えないことにした。
「おやすみなさい。イルカ先生」
ふわりとかけられた布団は心地良く、隣に滑り込んできたぬくもりは冷え切った身体を温めてくれた。
もういい。全部明日。明日だ。
意識が沈んでいくのを受け入れ、素肌に触れる他人の熱をぼんやりと感じながら眠りに落ちていった。


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適当。
あとちょっとだといいな。
一生かけて守るつもりの上忍と、なにがなんだか分からないうちにプレゼントになった中忍。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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