誕生日特権12(適当)


これの続き。




そういえば寝込む前にも勝手にキスをしてきたなと思ったものの後の祭りで、せっせと人の唇を啄む男はうっとりと目を細めている。
「あなたに触れたい」
挙句そんなことまで言い出した。
断固拒否だ。ごめんこうむる。第一俺は怪我人で病み上がりで、それに一回でもそんなことになったら勝手に嫁って事にされること受けあいだ。
任務で上から強いられたこともない。そんなに綺麗な顔をしているわけでもなければ、ガタイもデカイ俺に仕掛けようと考えるような連中がいなかったってだけのことなんだが…。
「や、め…っ!」
あの時勃ってたのは見間違いじゃなかったらしい。明らかにこの人は興奮している。
同性相手にここまでその気になれるってのはある意味特殊能力に近いんじゃないだろうか。
…任務だと思ってるくせに。好きでもなんでもないくせに!
中忍以上になると性欲くらい抑制できるのは理解していたが、無理やり勃たせることもできるらしいと初めて知った。知りたくもないのにな。
押し返してもピクリとも動かないのは、俺が弱っているだけだと信じたい。
力では敵わないのは理解していても、こうもあっさり好きにされるなんて涙が出てきそうだ。
「ん。ちょっとだけ。…怪我してるし、無茶はしません」
宥めるようにひたいに口づけ、うなじに顔を埋めた。
もうすでに無茶だ。普通に無理だ。ぺろりと何かが這った感触だけで、背筋がぞくぞくする。
なにすんだと叫べたらいいのに、急所を取られて思わず息を飲んでしまった。
頚動脈。ここを切り裂かれたら終わりだ。
「…ッ!」
だが、ちりっと走った痛みの正体が分からないほど物知らずじゃない。
…いや確かに自慢できるほどの経験はないけどな!この状況で何されてるかわからないほど鈍かったら流石に忍なんざやってられない。
刃物じゃない。…もっと原始的なイキモノとしてもつ武器。
噛み付かれたのだ。犬のように。
「きもちい」
はぁ…っと吐き出された吐息が首筋を撫でる。
別にいきなり突っ込まれたわけじゃない。そこまでどうこうされたって訳じゃないのに何故か酷く卑猥な事をされた気分になった。
「離せ」
「ん。駄目?」
「こんなの任務だからって駄目です。俺は…!」
何を言ったらいいのか分からず、止まった言葉の代わりに涙が零れ落ちた。
ああもう!どうしたらいいんだよ!
「駄目、なの?」
途端に体を離した男が、しょぼくれた顔で俺を見ていた。あからさまに落ち込んでいるのが分かる。眉は下がってるし、眉間に皺が寄ってるし、手も震えている。
好き勝手やってるのはあんただろうが。
「だめ、です」
頬を伝う涙に恐る恐るといった風に指を伸ばし、掬い取ったそれを悄然眺めている。
どうしたらいいのか分からない子どもみたいだ。
「でも、守らなきゃ。どこにも行かせない。怪我なんて」
言いたいことはなんとなくわかるような気がする。一生懸命なんだよなぁ。この人。
「あー…間違ってますが方法は。でも守ろうとしてくださったんですよね。ありがとうございます」
思わず頭を撫でた手に頬を摺り寄せて、褒められた犬みたいだ。
俺が触れた途端、とても嬉しそうに笑ってくれた。
「こりゃしょうがねぇよな」
この人が泣いているのは俺に拒絶されたからだ。
たとえそれが任務の遂行の妨げになるって理由だけだとしても、俺はこの人にこんな風に泣いて欲しくない。
「え?」
分かり辛いけどいい人だ。いろいろと間違っちゃいるが、止めたら一応我慢はしてくれた。
だからきっと、きっとなんとかできるはずだ。
…この人を悲しませることの方が俺には多分辛いしな。
気付きたくもないが、どうやらこのイキモノにいつの間にか惚れてしまっていたらしい。厄介にもほどがある。
が、逆にある意味好機といえなくもない。
全てを理解してもらった上で、改めて口説けばいいんだしな。
上下についても応相談だ。そうやすやすと乗っかられるつもりは…この幸せですって顔で迫ってこられたら自信が…いやその!
「俺は守られるほど弱くはないつもりですが、今は弱ってるのでしばらくご厄介になります!怪我が治るまで、今後のことについては相談しましょう?」
「はい」
ぱあっと顔を輝かせた人をもう一度椅子に座らせ、ケーキを一口だけ食べてもらった。
俺は食わなくてもいいといったんだが、お祝いだからと必死な顔で言うからつい…。
まあ残りは…空腹のおかげで何とか全部一人で平らげることが出来たから、もったいないってこともないだろう。食いすぎて腹がぱんぱんになったけどな。
「とりあえずこの部屋でもいいですけど、手狭ですもんねぇ?広いお風呂があるところがいいでしょうし」
分かってるんだか分かってないんだか怪しいが、とにかくこれからが勝負だ。
…早めに三代目の所にもいかなきゃいけないしな。
「明日、一緒に三代目にご挨拶しに行きましょうね!」
「そうですねぇ。一応仲人…んぐ!」
一方的なキスはちょっとした意趣返しのつもりだ。
目を白黒させながら、駄目と言われたせいか手をもだもだとうろつかせている。少しだけ溜飲が下がった。
少なくとも驚きすぎたせいか気持ち悪がられてはいないようだ。
後は俺の努力次第ってとこだろう。
「さあ!そうと決まったら今日はさっさと寝ますよ!」
「は、い」
まだもじもじしている人を洗面所に押し込んで、ほくそ笑んだ。
「早々やられっぱなしじゃいねーからな!」

…翌日、もう誓いのキスは済ませましたとのたまう男のおかげで三代目が卒倒したのは…俺のせいなんだろうな。やっぱり。どうして中途半端なことだけ知ってるんだ!
挙句未だに守らせてと五月蝿い男にクリスマスプレゼントというものの存在を知られてしまったので、今から戦々恐々としている。
プレゼントと言うものの意味をどうも理解していない節があるから、何をしでかすか分からない。またケーキでも買ってこられたらどうしたらいいんだ。
不本意ながら引っ越した家の居心地は良く、何かと言うと俺を見ては相好を崩す男のおかげで、未だに思いを告げていないと言うのに甘ったるい空気で満ちている。
ある意味末期だ。現状に甘えるだけじゃ進歩できないと分かっているのに、ずぶずぶとぬるま湯のような温かさに浸るのをやめられない。
撫でたり褒めたりして甘やかすと蕩けそうな顔で笑う。お帰りと言っただけで信じられないほど嬉しそうにしている。
そんなの間近で見せつけられたら無理ってもんだ。
俺の幸せへの道のりは険しそうだが…それはそれで楽しいと思えているのが何よりの問題なのかもしれない。
目下の目標は、「恋人がサンタクロースらしいですよ?」なんて真剣な顔で迫ってくる恋人に、怪我が完治していることを知られることだったりする。
治ったらしましょう。なんて、決定事項みたいに言いやがるからな。
そんなアカデミーの年中行事予定みたいな扱いを受け入れてやるものか。
それが愛がなくてはできない行為だと告げるには相当な勇気が必要だが、ここは絶対に譲れない。
「早く、好きになってくれないかな」
浴室でくつろぐ俺を、バスタオルを広げて待ち構えているだろう男を思って、俺は深い深いため息をついたのだった。


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適当。
無理栗感を残す結果となりました。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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