これの続き。 「お誕生日。おめでとうございます」 へたくそながらも歌を歌い、ろうそくも吹き消してもらった。 一応本人も嬉しそうにしている…らしい。 出会ってからこっち、俺を見てにこにこ笑ってばっかりだからよくわからないんだけどな。 「ありがとうございます」 結局、俺の好物食べて、ケーキも買ってきてもらって、お祝いらしきものといえば酒くらいだが、それすらもこの人に運んでもらってしまった。 ちゃんとしたお祝いには程遠い気がしているが、この人にその辺をわかってもらうのは至難の業だろう。 そもそも常識ってモノがほぼないみたいだしな。 家…家はなんとかして解約が誤解だと伝えるしかないから、三代目にちゃんと相談しなくちゃいけないし、この人にもちゃんと色々理解させなきゃいけないんだ。 それを思うと気が重い。 純粋な人だ。それから多分とてつもなくまじめではあるんだろう。 任務のために男と結婚しようなんて考えてしまうほどに。 …まじめさが間違った方向に行くとこんなにも被害が大きいものなんだなぁ…。 なんとかしたい。それはもう本当に何とかしたいんだが。 アカデミー生にすら手を焼いているというのに、この人は随分前にそんな時代を通り越してしまった成人男子だ。 ふとした瞬間に見せる表情がどんなにあどけなく見えても、恐らく少なくとも俺と同じ位の年齢にはなっているだろう。 結婚は同性って所にも引っかかるが、それよりなにより愛し合う二人がするものだ。 …他にも引越しは勝手にさせるものじゃないとか、任務優先といっても、相手の尊厳も己の幸せも犠牲にするような方法は、可能な限り避けるべきだとか、色々言いたいことが山ほどある。 それから、誕生日はきちんと祝うものだってことも、だな。 ケーキを切り分けながら、どうしたらいいものか悩んだ。 「誕生日プレゼントは本当はもっとちゃんと選びたかったんですが…」 今更ながらついついいい訳染みた言葉が口をついた。 いやそもそもこの人が勝手に人を浚ったのが問題なんだが、そこら辺は三代目あたりにしっかり言い聞かせてもらうしかないだろうし。 この人の喜ぶかどうか分からないものを贈ってしまったことを、どうやら自分で思った以上に気にしていたらしい。 まあ結果的には明後日な誤解はするわ、勝手に引越しさせられるわ…いやそれは断固拒否するけど! 何が気に入らないって、この人が何も欲しがりそうにないところなのかもしれない。 「プレゼント…ああさっきの酒ですね。おいしそうでしたよ?」 案の定、本人はさっぱり理解していなかったらしい。 なんだかなぁ。この人にはもっと一杯知らなきゃいけないことがありそうな気がする。 それを一個一個どうにかしていくなんてことは、気が遠くなりそうなほど大変だろうけどな。 「…ケーキ、食べましょうか?」 「はい」 頷いたときの様子に、少しだけ違和感があった。 なんだ?今更この恥ずかしいケーキに違和感を感じるなんてことはないだろうに。 「誕生日の人が一番大きいのにしますね?プレートと…」 「あー…はい」 なんだろう。嬉しそうじゃない。さっきまであんなに幸せそうに笑っていたのに。 「食べたいのどこですか?全部一人の方が?」 独り占めしたいっていうなら、それはそれでいい気がした。 節度も大事だが、祝う側としてはプレゼントは欲しいものってのが大事なんだ。誕生日は。 「いえ、その」 なんだろう。なんでそんなに言いよどむんだ? ケーキを見つめて眉を下げる姿は、お預けを食らった犬のようだ。 …でもなぁ?嬉しそうじゃない。でっかいケーキなのに。 もしかして、この人は。 「…ケーキ、嫌いなんですか?」 「いえその。甘いものがあまり好きではなくて。食べられないわけじゃないので大丈夫ですよ?」 困ったようにはにかむ姿に、俺の中の何かが物理と切れる音がした気がした。 「…誕生日にそんなことで苦しんでどうすんだあんたは…!」 「えーっとその」 「いいから言いなさい!なんでもいいから、欲しいものはありませんか?」 この人を祝ってあげられない自分が情けなくて、我慢するばっかりでわけの分からない方法で任務遂行しようとするこの人に腹も立って、ついつい詰問口調になっていた。 途端、真剣な顔で俺を見つめるこの人と目が合った。 綺麗な瞳。今更だがどうやら左右で色が違う。…どこかでみた高そうな猫がこんな目をしていたっけ。 思わず見つめてしまいたくなるほど美しい。 例えその表情が戸惑いに満ちていても。 「貴方が、一緒にいてくれたのでそれで十分です。あったかいし、おもしろいし、ああでも」 ゆらりと立ち上がった男の顔が、いつの間にか驚くほど間近にあった。 「なん、ですか?」 この震えは、近いからだけじゃない。…向けられているのは獲物を狩る獣の目。 「キス、したいです」 初めて欲求らしきものを口にした男の唇が重なってから、その意味を理解する羽目になった。 ********************************************************************************* 適当。 おわらぬ_Σ(:|3 」∠ )_ ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |