これの続き。 「イルカ、せんせい」 「…ちょっとだけ、待ってて、ください」 乱れた息を整えるように息を深く吐いて、おぼつかない指の上にチューブの中身を乱暴に絞り出したのを見ても、まだ信じられなかった。 うそ。ホントに? 「…ね、いいの?」 「少し、黙って」 睨まれたけどそれが照れ隠しなのはすぐわかった。それからすぐにうつむいて、視線をはずしたから。 くちゅりと濡れた音がして、後ろに回した指どこを弄っているのかを教えてくれる。自分でシテくれるつもりなんだ。本気で。 やらせたことも、多分だけどやったこともない。男相手は正真正銘俺が初めてで、女相手もそれほどの経験があるわけじゃなさそうだった。何度も何度も抱いた体で、傷つけたくはないけどいつだって欲しくてたまらないからついついいっぱい弄っちゃって泣かせちゃったこともある。訳がわからなくなるとか言われちゃうと余計に、ね。 だからこそ碌に記憶なんかないはずで、雄としての矜持をそれでなくとも踏みにじってしまっている自覚はある。それでもこの人以外欲しくなかったし、奪われないためにも俺だけのモノにしてしまいたくて必死だった。葛藤なんて死ぬほどしてくれたらしいことも知っている。口説き落とすまで何度もこっちの恋情を仄めかしても気づいてさえくれなかったのに、後で聞いたら勘違いしちまわないように必死でしたとか言われちゃったもんねぇ。 いろんなものを俺のために犠牲にして、慣れない行為だっていうのにそれを押してでもがんばってくれちゃうなんてそれはもう愛でしょ。俺への。 「…ね、俺も触りたい」 「だめ、で…ッ!いいから、アンタはじっとしてろ。そうじゃないと、できな、い」 おねだりも今回ばかりは速攻で却下された。腹を決めると絶対に揺らがないその頑固さも好きだけど、無茶して痛い思いでもされたらって、考えただけでもぞっとする。どんなに痛くたって耐えてみせちゃう人だ。拷問されたら死ぬまで絶対にしゃべらないような、敵にいたら厄介なタイプの。 折角恋人とシてるのに、そんなのつまんないでしょうよ。 「じゃ、キスして?」 「ん、くち、あけろ」 乱暴な言葉遣いに限界が近いことを察した。前は萎えたままだし、後ろだって気持ちいいって表情じゃない。ただひたすら作業のように解そうとしているだけだ。あれだけ敏感な人なのに、どうやら思った以上に感情に体が引きずられる人だったらしい。 それはそれで嬉しいけど、ちょっと複雑。上手くても下手でも、多分この人は相手が俺なら悦んでくれるってことだもんねぇ? ぶつかるように降ってきた唇を受け止めついでに、頭を抱え込んでたっぷり舌を味合わせて貰った。さりげなく後ろに指を回したら、途端に不規則に引くつかせていた体が面白いように跳ね上がった。離れてしまった唇が名残惜しくて、未練たらしく自分の唇を舐めた。 「あっ!だ、め、だって…!」 「やーですよ。なんで?俺にももっと触らせて?」 最後まで自分でっていう本人の矜持もあるだろうから、できるだけ犬のように許しを請うた。哀れな俺に折れてやるって理由があれば、こんな苦しい上に生殺しな行為を続けなくてもいいはずだから。 っていっても、思い通りになるならイルカ先生じゃないんだけどね。 「…いい、から、じっとしてろ…!」 言われたとおりにしてしまったのは、その顔があまりにも必死で凛々しかったからかもしれない。 ******************************************************************************** 適当。 みじかい。 |