これの続き。 これは危険な綱渡りだ。それはよくわかっている。 …でもだな?かわいいよめさんの背中流して…つまりしっかりばっちりその肌を間近にして、尚且つ「きもちいいです」なんて言われてるんだぞ? そりゃもう気分は舞い上がるばかりで、当初の体力を残すって言う目標を忘れてせっせとよめさんを洗っちゃっても仕方がないはずだ!多分! つやっつやに磨き上げた背中は、普段もきれいだけどさらに肌つやが増しているように見えて、一人で達成感に浸った。 もうちょっとよめの側にいたい気もするけどここは我慢だ!なんてったってプレゼント渡さなきゃいけないんだし! 「うっし!きれいになったかな?さ、あったまってからでてきなさい!俺はその間に飯…」 「え…」 それはとても小さな声だったのに、俺は気づいてしまった。 よめがとてつもないショックを受けていることに。 うっかり視線を合わせたらおしまいだ。多分俺はよめのかわいさに負けていろんな意味でも負ける。 「ほ、ほら!ご飯の支度するから!」 だって…俺はプレゼントを渡したい。それからよめにもちゃんとご飯を食べて欲しい。 でも、嫁を無視することなんてできないのも本当で。 恐る恐る顔を上げた俺を待っていたのは、一番恐れていたものだった。 「…」 声もなく、今にも泣き出しそうなよめの顔。 一瞬自分の心臓が止まったかと思った。 「わー!待った待った!ほ、ほら!一緒に入るから泣かないで…!」 このままじゃ苦しくて俺が死んでしまう。 俺の大切な大切な唯一のよめを泣かせてしまうなんて、旦那様失格だ! 「はい…!」 慌てて抱き寄せたら抱きしめ返されて、縋る必死さに胸の痛みはさらに酷くなった。 不安がらせてしまった。…俺のせいで。 「ごめ…」 「俺、幸せです」 謝る言葉を遮って、よめがふわりと笑った。 俺の心臓を鷲掴みにする、それはそれはかわいくてきれいで優しそうで…うっとりした顔で。 「…俺も…!勿論俺も幸せだから…!」 ぎゅうっと力いっぱい抱きしめた体。密着する肌から伝わる鼓動が重なって…。 「好き。好きです。だから…俺の側にいてください…!どこにもいかないで」 もちろんだとも!よめのためなら万難を排して側にあるに決まってる! むしろ俺の方こそよめから離れたら生きていけないんだから。 「どこにも行かないに決まってるでしょうが!」 そう啖呵を切ってから…するりと腰に回された手に気が付いた。 あ、マズイ。これはもう確実に…!? 「確かめさせてください」 瞳を潤ませたよめに懇願されて…俺が断れるわけもなかった。 ***** 「うぅぅ…!」 だるい。そして情けないことに途中で意識を手放した結果、プレゼントもまだなら飯の用意さえできなかった。 「はい!たくさん食べてくださいね!あーん!」 そんな俺をかいがいしく世話してくれるよめ。 …やっぱり俺は幸せものだ…! 「んぐ!え?あれ…これ!?」 一口食べてすぐに気が付いた。これは今まで食べていたものと違う。 「あ、わかっちゃいました?今日は俺が作ったんです!」 「美味い…!やっぱりよめの料理が一番だ!」 今までのだって美味かったのに、久しぶりのよめの手料理を食べたらもう駄目だった。 この味を知ってしまったら、確実にあの料理に味気なさを感じてしまうだろう。 「ふふ…!イルカ先生ったら…!」 「あ、あの、それで、えーっと」 はにかむよめのかわいさにうっかり全てを忘れてしまいそうになったが、それではマズイ。 よめにはもっと休んで欲しいとか、俺が倒れたせいで色々やらせてしまったことを謝らなきゃとか色々あったんだが…何より!俺はこれを絶対に渡さなきゃいけないんだ! 「なんですか?」 すかさずプレゼントを取り出した。 …さっきよろよろした俺が作り出した、さらによろよろした影分身に取ってきてもらったのだ。 「これ!プレゼント」 「え!」 「気に入るかどうかわからないけど、いつも本を読んでるから…」 目をまんまるにして驚いているよめにそっとプレゼントを差し出した。 受け取った袋を、よめの繊細な手がするすると開き、中からイルカ柄のしおりが出てきた。ちなみに損傷に強い特殊な繊維で作られているうえに、実はちょっとした仕込済みだ。よめには秘密だけどな! 「かわいい…!ありがとうございます…!」 喜んでくれた…!それだけで嬉しくてたまらない。 「へへ!よかった!」 ベッドに体を沈めたままの情けない格好でも、よめが喜んでくれるならそれでいい。 大事そうにそっとしおりをその手の中に閉じ込めて、笑ってくれている。 初日に渡すつもりが随分と長いことかかってしまったから、心配してたんだけど、帰る前に渡せてよかった! 喜んでもらえたしな! 「これ、大切にします。絶対に!」 あまりの喜びように俺の頭は沸騰しそうだ。なんてかわいいんだ…!やっぱり仕込みして正解だな…! …ちなみにしおりに仕込まれたトラップは、不埒な連中が俺のよめに危害を加えようとしたら作動する、うみの家直伝のものだ。 これでかわいいよめを持つ宿命である間男だのなんだのを退けられるはず! よめにも喜ばれるしまさに一石二鳥だ! 嬉しさに脂下がっていた俺は、よめさんが喜びから色めいた視線へと変貌を遂げていることなど気付きもせず。 …結果的に腰はさらに大変になったってことだけは付け加えておく。 ********************************************************************************* よめ。 あとちょっとのはず…! ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |