前のお話はこれ⇒いただきましたの続き。 窓から見える景色は驚くほど青く澄んでいて、それはつまりとっくに陽が昇りきっている事を意味している。 「あ?」 「おはようございます」 蕩けそうというか輝かんばかりというか、とにかく無駄に笑顔の男は当然のように全裸で、それは不本意ながら俺も同じだ。 元々ひっかけているだけみたいなものだった服を、いつどこで完全に脱がされたのか記憶にないが、気づいたときには素肌が触れる生々しい感触に感じすぎていたから、男がひんむいたんだろう。 それとも自分から脱いだか。 情けないことにそれすら定かじゃない。熱に浮かされてひきつけるように全身を震わせて、ただこの長い長い責め苦から解放されることだけを考えていた気がする。 快楽は確かにあった。むしろ触れられるだけで肌が粟立つほどに過敏になった体は、雄としての矜持を粉々にした男相手にもっとと続きを強請るほどに狂わされ、与えられるモノにただひたすら溺れた。 頭の片隅には言い訳が常にあって、動けないからだとか、訳のわからない薬を使われたからだとか…だがそんな理由でこんなにも簡単にいいようにされることにも、それを許す己の意思の弱さにも吐き気がしていた。 終わった。何もかもが。 いや、違うな。終わりに、するんだ。これから。 この男と俺とのかかわりを全て。 「出て行け」 「なぁに?まだシたい?」 この馬鹿で馬鹿でどうしようもない男は、色香を振りまく相手を間違っている。 もっと見目麗しい相手はいくらでもいるだろうに。それにわざわざ何で俺を、同じモノをぶら下げた硬い体に薬まで使ったんだか。 呆れる余地もない。もう関係ない。これから一切、なにがあろうとこのイキモノとは関わらない。 もうそう決めた。 「出て行け」 睨まない。睨むほど、これに対する興味も怒りもない。 ただ淡々と要求だけを伝えた。これでまた喚くようなら叩きだすだけだ。 一度相手の手の内を知ってしまえば、二度目はないとまでは言わないが、そう簡単には引っかからないはずだ。 そしてそれをこの男も理解している。 「なんで?」 なんでもいい。 不思議そうで、それから深く淀んだ不安を宿したその瞳に、もう何も感じない。 何もかもが滅茶苦茶にされてしまって、だからこの男が何を欲しがろうとひとかけらだって与えてやる気はなくなった。 情も怒りもなにもかもを、ぶち壊したのはこの男自身だ。今更どう取り繕われようと、俺には関係ない。 「出て行け」 「…ん、わかりました」 一瞬、瞳が暗く煙った気がしたが、出て行くと決めたら何事も素早い男だ。適当に脱ぎ散らかした服を身にまとって、さっさとドアを開けてそのまま姿を消した。音も気配ももう感じない。…もう、ここには俺を散々好き勝手しやがった元凶は消えた。 珍しくも窓を使わなかった訳だが、そんなことすらどうでもいい。 なんであんなことをしたのか、その意味も理由、知りたくもない。 「ざまーみやがれ」 泣くことも出来なかった。 アレが同じように傷ついた瞳をして、それでも涙を流したりしなかったように。 あんなに長く繋がっていたから、変なところまで混じってしまったのかもしれない。アレと、どこまでも深く深く繋がって、だから俺まで狂っちまったんだ。きっと。 そんなありえない事を夢想した。 「もう、しらねぇ」 息が詰まる。嗚咽にも似た掠れた声が喉から勝手に這い出して、床に、天上にあふれ出す。 震えてかさついたそれを、苦痛でしかないモノを、やっと手にいれた自由の代償だとは思いたくなかった。 何もかもが面倒で億劫で、体も心も痺れが残ったように重ったるくて。 それから静かに瞳を閉じた。何もかもをなかったことにするために。 ******************************************************************************** 適当。 第5段階。…大幅後退。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |