これの続き。 「カカシー?おーい?カーカーシー?」 いつものように職員室から飛び出して、カカシの気配を探した。 あの子を待たせるのが嫌で、最近残業も出来る限り断っている。 いじましいって言うかな。大人しく静かに気配を消して俺のこと待ってるんだ。だから急がなくちゃ。 こうやって呼ぶと慌てたように飛び出してくる事が多かったのに。 …おかしい。どこにも気配が感じ取れない。 あの子のことはどんなに隠れてたって分かったのに。 すうっと肝が冷えた。なにかあったのかもしれない。 そう思ったらいても立ってもいられなかった。 あの子はかわいいから変質者なんかに狙われやすそうだけど、警戒心も旺盛だから大丈夫だと思ったのが甘かったんだ。 里中を駆け回って、探しても探しても見つからなくて、ひょっとして連れ戻されたのかもしれないってことに頭が回るころにはとっくに真夜中になっていた。 「そ、っか。…そうだよなぁ…」 いつも待っていた木にも、良く立ち寄った公園にも、残されたものは何もなかった。 探して探して探し回って、どこにもあの子がいないってことを理解したとき。 …俺は嘆くより先に呆然とした。 嘘だと思った。いなくなるなんて。 家に帰って、朝洗った食器はちゃんと二人分で、パジャマ代わりに貸してたTシャツも残っていて、夢や幻じゃないと分かってからやっと、鼻水が出るほど泣いた。 もうとっくに成人した大人がみっともなくも手ぬぐいがびしょ濡れになるくらい溢れる涙が止まらなくて、恐怖や悲しみというよりは、もはや衝撃に近かった。 しばらく泣いて、落ち着いてみたらもしかして誘拐とかじゃないかって不安で不安で、やっぱりもう一度探そうかと立ち上がったときに、枕元においてあるものに気が付いた。 盲点だった。いつも一緒に家を出るから、こんな所に残ってるなんて思っても見なかった。 「手紙!」 いそいそと破かないように気をつけて封を切り、中身を見た。 「ありがとう。いかなきゃいけなくなったけど、帰ってこれたらラーメン食べに行きたいですって…そっか。帰った、のか。やっぱり」 そうか。あの子を待つ人のところへ帰れたのか。 筆跡に乱れはない。誘拐されたなら関わりの薄い俺なんかのところじゃなく、ホンモノの親のところに残すはずだ。 …もっと厳重に警備できるところに隠したのかもしれない。 それなら、きっともう会えない。あの子が育って大人になって、一人でも戦えるようになるまではきっと。 それは10年先かそれとももっと先かわからないけど、少なくとももうここに帰ってはこないんだってことは理解した。 胸にぽっかりと穴が空いたようだ。 カカシがいなくなった分の隙間が大きすぎて、なんだかスカスカする。 「ラーメン。いつか食わせてやるからな…」 駄目だ。また泣いちまいそうだ。 ジワリと目の奥が痛む。泣き過ぎだって分かっていても、止まらなかった。 「カカシー…飯食ってるかなぁ…一人じゃねぇよなぁ…」 一人なのは自分で、寂しいのも自分で、こんなの全部自分のための涙かもしれなかったけど、傍らにいないあの子がどうか幸せであって欲しいと願った。 握り締めたままの手紙通り、ラーメンを食いにいける日が来たのは自分が思っているよりはずっと早かったんだが…。 もう一度会えたときにまた盛大に泣いてしまったことに関しては、流石にちょっと反省している。 ******************************************************************************** 適当。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |