とある上忍のけいかく5(適当)


これの続き。


「え、えっと。…ただいま」
「お!帰ったか!おかえり!飯食ってくだろ?」
「…!うん!」
かーわーいーいーなー!
いつも遠慮するんだけど、こうやって構ってやるとにこーって笑うんだよ!それがまたまさに天使っつーかなんつーか。
子どもの頃かわいいと将来でっかく育ってからはそう大した顔にならないとかっていうけどなぁ。きっとこの子は育っても天使だと思うんだ。それくらい可愛い。
完全に親馬鹿だと自分でも思う。親でもないのに。
あれから飯食わせて、色々話を聞いて、まあ上手く言えないこともあるみたいだったんだが、子ども心に親が病気で傷ついてるんだろうしと思って、そこはまあ敢えて聞かずに、かといって家に帰っても一人だと聞けばほっとける訳がないから、風呂にも入れて布団はねぇから俺のベッドだったけど一緒に寝て、そしたら夜中にぎゅーってしがみついてきたんだ。ぎゅーって。
たまらん!元々子ども好きだって自覚はあったが、この子はなんつーか別格にかわいい。どうしたもんだろうと思うほどに。
アカデミー生なら差別になるかとか色々考えちまうけど、幸いこの子はまだチビすけだし、まあその、生徒じゃないからえこひいきってことにもならないだろう。…多少の罪悪感はあったけど。
構い倒しても嫌そうにしないし、どっちかっていうといつも遠慮してる所も、俺の庇護欲をガンガン刺激してくれた。
かっわいー顔でもじもじこっちみてたら、構い倒したくなるだろ?絶対。
で、まあ。いつでも来いって声かけて家に帰るというのを止められなくて寂しいなーなんて思いながら見送って、授業を終えて胸の中に居座る空虚さを持て余しながら歩いてたんだ。
…すぐに気付いた。気配は完璧に近いけど、俺のことを見てる視線に気付かないわけがない。
これでもアカデミー教師だからな!子どもの視線には敏感なんだ!
見てるだけで我慢してるんだろうなーとか、思っちまったらもう。
もう我慢できなかった。
「お!カカシ!なんだ?かくれんぼか?」
「え!あ、う、うん…」
あーあー。見つかると思ってなかったんだろうな。きっと。
驚いて泣きそうな顔で、それから嘘をついた。バレバレの。
迷惑になるーなんて考えてる顔だ。これは。
なんでかわかるんだ。こいつの考えてることは手に取るように。
…だから感情に素直な手は、俺のベストの裾を離せない。
「まあもう日も暮れるし、飯食わないか?一緒に!」
「え!」
「今日はな。サンマにしようと思ってんだけど、どうだ?」
「サンマ。好き」
思わずと言った風に口にしてしまってから、慌てたようにうつむく子どもを、早く安心させてやりたかった。
「そうかそうか!じゃ、行くぞ?」
「うん…!」
そうして飛び込んできた体は温かくてやわらかくて、遠い昔に失った暖かな二人分の手を思い出させてくれた。
この子にはまだ親がいる。でも側にはいない。
だったら、俺が側にいたっていいじゃないか。
そんな身勝手な言い訳を、この子の親が知ったら怒るだろう。でもな。任務だからって子どもほっとくなよ。だって生きてんだろ。母ちゃんが病気で不安で一杯の子をさ、こんな風に遠慮ばっかりさせてるなんて駄目だ。生きてるなら側にいてやれよ…頼むから。
頭に血が上ってついついそんなことまで考えてしまう。
この子どもの親が誰かなんて知らないし、子どもも詳しく言おうとはしなかった。ひょっとすると難しい立場の忍なのかもしれない。俺が、外野が勝手にどうこういったってどうしようもないことだってある。
だからそれ以上聞かなかった。代わりにというか…嫌って程構い倒した。
昔父ちゃんにしてもらったみたいに一緒に風呂入って水遁で遊んだり、母ちゃんにしてもらったみたいに飯一緒に作ったりな。
…まあ俺より料理の腕が良さそうってあたりにちょっとばかり落ち込んだりもしたんだが。
そのうちに、なんていうか、あー…懐いた。
当たり前といえば当たり前か。他にいないんだ。こんなもっさりしたおっさんでも、いないよりはましかもしれないって程度でも、この子には他に手を伸ばす先がなかったんだろう。
…まあうん。ちょっとまずいかなーとは思っちゃいるんだ。だって状況からしておかしな事が多すぎる。
でもだからって、お前の父ちゃんもしかして暗部か?とか、聞けないよな…。
入院してるって事と、面会もできないって情報を元に調べてみたのに、集中治療室に入ってるこの子どもの母親になりそうな年齢の人間は、一般病棟には見当たらなかった。
それはつまり一般病棟じゃないところに入院してるってことで…この子自体が機密である可能性を示している。
暗部の身内は往々にして秘匿されることが多い。血継限界なんかの能力を受け継いている可能性があるってのと、それ以外にも手配帖に載ってるような忍の場合、身内が弱点となりうるような弱い存在だった場合、徹底的に隠されるという。
つまり、この子も狙われる可能性をできるだけ下げるために、一緒にいないってこともありうる。
この子どもは恐ろしく賢く、一人で生きていけるように仕込まれているのは明らかだったから、余計にその推論を後押しした。
「カカシー…」
「ん?どうしたの?イルカせんせ?」
「あのな。お前が誰でもいいし、嫌だったら何も言わなくてもいいんだ。でもな?なにかあったらいつだって俺を頼ってくれよ?」
カカシは小さくてでも頑張り屋で、ほそっこくて。
この子を守るためならなんだってしてやりたくなるんだ。俺は。
「うん」

…嬉しそうに…泣きそうな顔で笑った子どもが、その次の日には姿を消すだなんて、俺には想像もつかなかったんだ。


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適当。
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