とある上忍のけいかく4(適当)


これの続き。


運命。
未来の俺だというあの胡散臭い男は一欠片だって信用できないけど、そこだけは信じてやってもいい。
一目見て分かった。この人だ。
飛ばされた先は確かに木の葉の里だというのが分かるのに、 顔岩には先生らしき顔が増えていて、それに町並も少しずつ変わっていて、本当に時を越えてしまったんだと信じざるを得なかった。
…ちょっとだけだけど、先生本当に火影になったんだなぁって感慨深かった。忍としては完璧なんだけど、人としては結構なんていうか…ちゃらんぽらんな所もあるから、どうなんだろうって不安だったんだよね。火影になれたってことは、きっと無事クシナさんとも結婚できたんだろうし、もしかしたらこの世界のどこかに二人の子どもなんかもいるのかも?
自力で帰れないのは確実で、あの男の意図が分からない以上、いつ何が起こるかも当然予想できない。この追い詰められた状況の中で、少しだけそれは救いになった。
時間を越えるのが禁術になっているのは、本来の時の流れを変えてしまう可能性があるからだと口をすっぱくして言われている。
…多分、あれだけ言うってことは、俺ならできると三代目も思ってたみたいだ。実際未来の俺っていうのが本当なら、将来的には使いこなせるようになるんだろう。
少なくともどこかに身を潜めていようと決意した。
飲まず食わずでも3日くらいはなんとかなる。でもそれ以上になると厳しい。兵糧丸の手持ちはちょっとしかないから、せめて水分だけは確保したい所だ。
幻術じゃないかどうか一縷の望みをかけて、父さんから教わった解術法も試したけど、もちろん何も変わる訳もなく、ただ闇雲にチャクラを消費するよりはと、諦めて周囲を観察しつつ、駄目元で自分の隠し家の一つに向かおうとした時のことだった。
男が歩いてくる。父さんよりちょっと若くて、先生よりちょっと年上くらいか。背丈も同じくらいで、それから黒髪で。
帰らなきゃとか、隠れようとか、もうとにかくそういうことが全部どうでもよくなった。
男じゃないかとか、どれくらい未来かしらないけど、すっごく年上じゃんとかそういうのも気にならない。
これだ。俺の運命。
そう確信した。
会えばわかるっていうのが比喩じゃないんだなって事が分かった。
まさに電撃を食らったように足がすくんで震える。鼓動はうるさくて目の前が真っ赤になりそうなほどだ。
戦闘時よりも、もしかしたら素早かったかもしれない。
捕まえなきゃって、それだけを思ってどうにか届きそうな袖を引いた。
「あ、あの!イルカせんせい?」
「おあ!へ?ああうん。そうだけど、どうした?」
やっぱりだ!この人だ!嬉しくて嬉しくてぎゅうっと握り締める力を強くした。
それにしても顔見知りなんだろうか?随分平然としてるけど。
だとしたら下手な真似はできない。ただの子ども好きってこともありうるけど、それにしては妙に自然に受け入れてくれすぎている。
…それに、顔を観察されている。やっぱり知り合いなのか?
「イルカ先生?」
ちょっと不安だったからつい名前を呼んだら、恥ずかしそうに鼻傷を掻いて笑ってくれた。
「あ、ああ。すまんすまん。で、どうした?」
どうしたって…わかんないよ。ただ側にいられるのがこんなにも嬉しいだけ。
「イルカ先生」
「うん」
自分でも変な行動をとってるって自覚はあったけど、抱きついても怒られなかったし、逆に気を使われているのが分かる。
「なぁ。お前どこのうちの子だ?父ちゃんと母ちゃんとか、兄弟はいないのか?」
そう聞かれて心臓が止まるかと思った。
「…いない」
父さんも母さんも家にはいないし、兄弟…兄弟ができる前に、多分母さんは…もうすぐ、逝ってしまう。
信じたくないけど、手遅れだと、そう話しているのを聞いてしまった。
母さんはすごくすごく苦しいのに、臥せっていても笑ってくれている。だから俺は泣いたりなんかできないんだ。
歯を食いしばって悲しみの波に耐える。平気なフリなんて得意だったのに、どうしてだろう?この人の前だとそんなことさえできないでいる。
素性の分からない相手なのに、全部許してくれるんじゃないかって思えてしまう。
「じゃ、今日はいっしょに飯食うか?」
「え!いいの?」
「一楽のらーめんは最高だぞ!元気出るし!」
一楽は俺も知ってる。最近出来たおいしいラーメンやさんだって、先生が言ってた。
…今度お母さんと行こうね?っていう台詞には上手く頷けなかったけど。
もう食べることもできないくらいに弱ってしまっている。出前とかならって考えもしたけど、きっとそうしたら食べてくれようとするだろうから無理して欲しくなかった。
でも寂しかったんだ。俺は、きっと。
「ありがと。…たまにでいいから、いっしょにごはん食べてくれる?」
それは衝動だった。
一人で作って一人で食べるごはんが当たり前だったけど、たまにでいいから、この人に側にいてもらえたらって。
こんな何もかもが不確定な状況で、叶うかどうかなんて分からないのに願ってしまった。
「おう!ただ給料日前は無理なこともあるけどな?」
にかっと笑って手を握ってくれた。その手が暖かくて大きくて、頭をなでてくれるのがすごく気持ちよかった。
「うん!」
嬉しくて嬉しくてぎゅっと手を握り返した。
この人をどうにかして手に入れたい。
未来から来たらしいあの男も他のこともなにもかもを振り捨ててでも。
衝動の激しさに少しだけ戸惑う。でもすぐにそれを凌駕する欲求にどうでもよくなった。
「イルカせんせい」
小声で呼ぶその名前の甘さに酔いながら、どうにかしてこの人の懐に潜り込めないかってことを、考え始めるくらいには。

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適当。
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