とある上忍のけいかく30(適当)


これの続き。



やっと。やっとだ。
飢えていた。狂いそうなほどに。
その人を今、俺は抱き締めている。
友も師も失って、同胞も櫛の歯が欠けるように消えていく。
それでも生きることをやめなかったのはこのぬくもりを手に入れるためだ。
腕の中に閉じ込めた人は混乱か、それとも怒りのためか小刻みに震えている。
そのくせその瞳に宿る光は相変わらず真っ直ぐすぎて、俺なんかあっという間に切り裂かれてしまう。
隠しておきたいドロドロした欲望や、離れていた間にこの人に触れた奴らへの嫉妬や、それから、あの男への怒り。なにもかもを暴き出されてしまう気がしてたまらなく恐いのに…興奮した。
隣に寝ていても包み込まれてしまうほどだった体格差が悔しくて、でもその大きさにいつも安心を貰っていた。
今のこの人は、簡単に俺の腕の中に収まる。むしろ俺より僅かとはいえ小さいのかもしれない。
泣いていたのか少しだけ目の縁が赤くて、一瞬だけ唇を重ねた瞬間にそこから涙が零れて、それに気付かないのか泣きそうな顔で睨んできた。
腰が落ち着かなくなって、そういえば次のやつがどうこうって言ってたのはこれかと気がついた。
なら、いいんじゃないの?今でも。
だってもう駄目だ。止められない。あいつみたいになりたくはなかったけど、擦り切れた理性と飢餓感はそれを軽く凌駕した。
今なら、やれる。だってこの人は何もかも分かっていないから。
そう思って、即実行に移そうとした。
「カカシ返せ!うちの子だ!俺の!なにしたんだ!なにがあったんだ!痛いところとかないのか!どうして!」
忍にあるまじき混乱具合が、俺にとっては気が狂うほど愛おしい。
そんなに大切に思っててくれたの?消えた俺を探してくれた?愛してくれる?でもねぇ。ソイツはもう二度と戻らないよ。
だって、ソイツも俺なんだから。
…アイツが嫉妬に狂った理由がよくわかる。過去の俺も俺なのに、今確かにこの人にこんなにも心配されている子どもに嫉妬してる。
「ある。痛いところ」
「ええ!?どこだ!どこなんだ!見せてみろ!」
さっきまで俺の正体を疑っていたくせに、本質的に人を疑う事ができないんだと思う。それとも直感とか、後は俺のチャクラを探ってたみたいだからそのせいもあるかな。
忍には向かない人だ。能力や知識は十分でも、こんなんじゃ外には出せない。出したくない。
早く火影になりたいと、初めて思った。
この人をここに、俺のそばに閉じ込めておく権力が欲しい。
…それよりなにより、この人を俺のモノにしてしまいたい。
だから、迷わなかった。
「ここが、いたいの」
胸を指差すとすぐさまアンダーを脱がされた。
枕元にある医療用キットもいつの間にか握ってるし、そういうところも変わってない。あんなに時間が経ったのに。
ああでも、この人にはもしかして一瞬だったのか。
どっちでもいいや。だって、ねぇ。
アナタは、俺のものでしょう?
「怪我、ないな?毒か!寝てろ!」
おあつらえ向きに突き飛ばされるように押し倒されたのは、まだシーツも直していないベッドで、残り香でさっきまで寝ていたのが分かって余計に興奮した。
混乱の真っ只中にいるらしいイルカは、そんなことに気づいちゃいないみたいだったけど。
「薬…!医療班!暗部でも呼んでいいのか!?しゃべれるか!?」
「うん。いらない。イルカ先生にしか治せないよ」
「へ?俺?なんだもしかして腹減ってんのか?」
いつの間にか俺がカカシ…いなくなった子どもだってことを言外に認めている。
順応性が高いって言うかなんていうか、そういう所も好き。
俺にまたがるように乗っかっているこの状況も、おいしすぎた。
「減ってる。食べさせて?」
「あ、まってろ!朝飯用に!シャケ!とあとレンコン炊いたヤツとか!」
そうか。あの日の。だから焦っていたのか。あの男は。
知ってるよ。だってレンコン作ったのは俺だし、なすの味噌汁にしてくれたのはイルカだし、どっちも食べられないって分かっていて悔しくて、でもイルカに心配かけたくなくて必死だったから良く覚えてる。
一緒に食べたかったのは本当だけど、今はもっと欲しい物があるから。
「…ちょうだい」
「今すぐあっためてもって…んぐ!?んー!んー!?」
引き離されたあの時よりずっと深く、あの時あの男がしてたのより激しく、息を奪いかけるまで口付けた。
暴れていた体が大人しくなって、腰の辺りに張った感触を感じてからやっと解放してあげた。
「かわいい」
上がりきった吐息と、それから蕩けた表情に、この人も欲情していることを知った。
俺もこの人も男で良かった。ここまで持ち込めばもう後戻りできない。
「あ、な、え?ウソだ」
「好き。ずっと好きで好きで、もう我慢できない」
勝手な言い草に答える余裕はなさそうだった。
怯えた視線すら欲望を煽るばかりで、里をまたいで走っても少しも乱れないはずの吐息が、この人に触れてからは乱れっぱなしだ。
この人が、俺の何もかもを支配する。
やっと、手に入れる事が出来る。
「や、えぇ?なんでだよ!」
目が眩むような歓喜と欲望とに支配された頭は、捕らえた獲物の混乱も拒絶も理解することを放棄した。
…ただ食らい尽くして自分のモノにすることだけで一杯で。


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適当。
育った狼。後最初から狼だったことに気づかない中忍は、おっきしちゃった自分をどう誤魔化すかを考えすぎてすきだらけでしたとさ。
ご意見ご感想お気軽にどうぞ。

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