これの続き。 そろそろかもしれない。 それは自覚していた。 あの男が望んでいるのは、欲しがっているのはあの男の幸せであって、 “俺の”幸福じゃないから。 いつかは手に入るんだから、俺はいくらでも犠牲に出来るとか、そんなことを考えていそうだ。そしてそれは俺も同じだ。 あの人を手に入れるためになら、なんだってできる。たとえそれが未来の俺だろうがなんだろうが、どうでもいい。大事なのは一人だけ。 自分勝手で、相手のことなんか考えられなくて、一番欲しい物のことだけをいつだって考えている。…そういうところは、まさにアレは“俺”だ。 「おーい?カカシ?」 「はーい!今行くー」 だから俺を捕まえに来たらしい男の姿が見えた瞬間、イルカ先生に返事をした。 この所邪魔モノの処分も粗方片付いた所だった。もしかすると、それを見越しての来襲だったのかもしれない。 一番問題になりそうな金髪小僧にも寝入っている所に忍び込んで頭の中を覗いて、親として尊敬はしても、そういう意味では欲しがらないようにしっかりと潜在意識に刻み込んでやった。 幸いとんでもなく面倒臭そうな性格のくノ一の卵に惚れているらしかったから、そっちの方に集中できるように誘導もできた。潜在的なチャクラ量は凄いけど、恐ろしく直情的で頭の中身が空っぽなのはこっちにしてみれば幸いだった。…先生は、草葉の陰から嘆いているかもしれないけど。 もう一匹のうちはのガキは金髪小僧よりは隙がなかった上に護衛らしきものまで控えていたから怪しまれるのが面倒でやめておいた。緘口令が敷かれているのを承知の上で探った所によると、どうやら近しい人間を全て失ったせいで、その仇を追うことだけで頭がいっぱいらしいから、イルカに興味はあるようだがそういう意味でちょっかいを掛けるほど余裕はなさそうに見えた。 だから、もうちょっとだけ二人っきりで過ごせるならと、温泉に行こうとか、山でキャンプしようとか色々考えていた所だったのに。 「ふぅん?随分楽しそうだねぇ?ま、イルカ先生を喜ばせてくれてご苦労さん」 相変わらずの横柄な口調。いっそ大声で叫んでやりたいが、あまりにもこの男と俺は似すぎているから、下手をすると身内が迎えに来たとでも誤解されかねない。 でも、俺が返事をしてしまった以上、今すぐ引っさらうってことはできないはずだ。 俺がいなくなることを、きっと誰よりも悲しんでくれるから。 だからこれですぐには引っさらえない。だってイルカ先生が心配するから。それはこの男の本意じゃないはずだ。 それなら、賭けに出てみるべきだろう? 「あらら、ちょーっとは知恵回るようになったって感じ?ふぅん?かーわいくないのー?」 「…イルカせんせー!」 「どうした?」 「凄い雲だよ!雨が降るかもしれないから、洗濯物早く取り込んじゃおう?」 「おお!ホントだ!行くぞー!」 「うん!」 …案の定、男は一瞬で姿を消した。まだ気配は感じる…というか、俺にだけ分かるように僅かに滲ませているのは、警告か? 「…ざまぁみろ」 次に来るとしたら真夜中か、それともそんなに猶予はないだろうか。 「ん?どうした?」 無意識なんだと思うけど、頭をなでながら心配そうにしている。 あとちょっと。ホンの少しだけでいいからこの人の側にいたい。 「雨、まだ降らないといいね」 「そうだなぁ」 一緒に見上げた空は馬鹿みたいに青くて、まぶしそうにそれを見上げる姿を見ているだけで胸が苦しくて、その綺麗に反った喉笛に口付けたい衝動に駆られながらそっと手を握った。 たったそれだけのことでじんわりと殺気を滲ませた気配の主には、少しばかり意趣返しできただろうか。 「夏、だなぁ。取り込んだら麦茶飲んで、スイカ食うか?カキ氷もいいよなぁ?」 「んー?どっちもいいけど、食べ過ぎておなか壊さないようにしてね?」 「うっ!それは、その。気をつける…」 恥ずかしそうに鼻傷を掻いて、照れ隠しなのかにこっと笑ってくれた。 背後の殺気は焦りか、それとも嫉妬か。 なんでもいいんだけどね。今は、この人のことだけを考えていたいから。 「俺、ハンガーに掛けたの取り込むから、イルカ先生はそっちね?」 「おう!まかせとけ!うお!すごいな。もうパリッパリに乾いてる」 「夏だからね」 「そうだなぁ。ちゃんと水分取るんだぞ?カカシ」 「うん!」 見せ付けられる立場にせいぜい苦しむといい。たとえお前が俺でも、俺はお前なんかしらない。 にやりと笑ってやると、ほんの一瞬だけ、凄まじく鋭い視線を感じた気がして、最高に気分がよかった。 ******************************************************************************** 適当。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |