真夏の夜の夢-眠る男編(適当)

これの続き。

暢気に寝てちゃ危ないはずの男の奇妙な勘違いの話。

開け放った窓から、昼間より大分涼しい風が入り込んでくる。
それでもまだ生温いそれに溜息が出たが、この程度で眠れないほど柔じゃない。
まあ、夏休みに入って、勉強よりも悪巧みに精を出す悪戯小僧たちの相手で疲れ切っているからってのもあるんだが。
今は元気一杯にはしゃいではいるが…どうせ夏休みの終わりごろになったら宿題が終わらないと泣き付いて来るだろう。
その時になったらしっかりこってり絞ってやろうと決めて、今はそのある意味感心してしまうほどの悪戯っぷりに振り回されてやっている。
だが悪戯小僧の相手ばかりもしてやれない。
アカデミーで水練の授業の傍ら、夏休み明けの準備や、この時期になると舞いこむ任務や、勿論修行もこなしつつ、一日を過している。
そんなこんなで、意外と忙しくバタバタしている間に時間は過ぎて。
気付けば日が長いはずのこの時期だというのに、辺りはすっかり暗くなっていて、目蓋もしっかり重くなっていた。
「風呂、入ったし…今日は寝ちまおう」
本当は整理したい書類がまだあったが、今すぐ何とかしなければならないものじゃない。
それに最近…ちょっとした楽しみが出来たのだ。
「今日も、来るかな…?」
うっすらとした期待を胸にベッドに横になって目を閉じた。
途端に沈み込みそうになる意識の片隅に、窓辺の訪問者を思いながら。
*****
目を開ける気にはならないが、そのひそやかな気配に僅かに意識が浮上した。
薄い気配が、こちらをじーっとうかがっている。
この気配に気付いたのはもっとずっと疲れ果てて眠っていた時のことだ。
これでも中忍だ。すぐさまその気配には気付いたが、敵意も害意も感じなかったから、起きようと思えなかった。
じぃっと部屋の様子を伺う様子は、臆病なイキモノを連想させた。
きっと猫だ。ソレも野良猫。
部屋の中には猫が食べられそうなものはなかったが、なにがしか気を惹くものがあったのだろう。
そうでなければこうも熱心に俺を見ている意味が分からない。
こっちを気にしているくせに、部屋に中々入ってこない辺りも野良猫以外に考え付かなかった。
…この目を開ければ正体がわかるのかもしれない。
だがそんなことをして側にいるこの生き物が逃げてしまったらかわいそうだと思ってしまった。
もし…もしもこの窓を超えて入ってこようとしているのなら、ソレを待ってやりたかった。
姿をみたことさえなかったのに、そのおずおずとした気配に…俺はきっと心配になってしまったんだ。
律儀にも毎夜俺の部屋の窓辺に立ち、静かに、だが飽かずに部屋を覗き込むのが健気にさえ思えていた。
この気配に気付いてから、もう大分立つ。
…今日こそ入ってこないだろうか?
このアパートは大きくないなら動物も飼っていいことになっているから、懐いてくれるなら俺んちの子になってもらってもいい。
それにそれはそう望み薄って訳じゃない気がしていた。なんでかっていうと、少し前から気付いていたが、最近特に窓辺でじりじりと迷っている様な、焦っているような気配がするのだ。
もしかすると…もうすぐ引っ込み思案なこのイキモノが勇気を振り絞ってくれるかもしれない。
そうしたら、幸いアカデミー教師の俺はそう長期任務に出ることもないし、今の季節は暑いが、冬になったら温めあえるし、家で誰かが…たとえそれが猫だとしても…待っていてくれるのなら、一石二鳥だ。
それなりに楽しい生活を想像しながら、俺は期待に胸を高鳴らせた。
だが。
ピィーっと高い声で鳥が鳴いて、ソレに驚いたのかその気配はあっという間に消えてしまったのだ。
「…あーあ」
今日こそはと思ったのに。
まるで夢のように一瞬でいなくなってしまった。
寂しい。そう思っているコトに気がついて、思ったよりずっと楽しみにしているコトに気が付いた。
落胆は誤魔化しようもなかったけれど、だが…いつか、だがいつかきっと懐いてくれる日が来るはずだ。
臆病な性格らしい猫が俺の生活に加わる日を夢見て、俺は再び目を閉じた。
夢の中で遊んだ猫は随分と綺麗な白銀だったのを今でも覚えている。
…野良猫だと思っていたのが、とんでもないケダモノ…だがいつの間にか俺の方こそ目が離せないくらい大切な恋人になってしまった男だと知る前の話。

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適当ー!
きのうのつづきー!
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