これの続き。 出会った日からすぐに俺は動き出していた。 まずは隠れ家の確保。それから任務も手を打ってできるだけ時間が自由に取れるようにしておいた。 修行のためだと言えば誰も俺を止めない。 唯一、師である人だけは「ほどほどにね?」と笑っていたけれど、気付いても止めない辺り俺のことを分かりすぎているのか、それとも…とにかく底の読めない人だ。 正直に言えば、三代目よりもずっとあの人の方が敵に回すと厄介だ。 天賦の才と炎のように激しい意思と知性の全てを兼ね備えた人が介入すること。 それが、計画の遂行のためには一番の障害となることはわかっていた。 自分で決めたことは本当にあっさり実行してしまえる人だから。 たとえば敵陣に一人で突っ込んで行って、殲滅することだったり、気に食わない依頼人を改心するまできっちり脅しつけることだったり…恋人の笑顔のために、任務期間を半分どころか4分の1位まで縮めたり。 あの人が本気になれば、できないことなんてないんじゃないかって思う。 もし味方についてくれれば、頼もしいなんてもんじゃないけど、俺の意思なんて簡単に捻じ曲げてしまえる人でもある。 自分の力がどれくらい強大か分かっていて、それを行使することをいとわない人間が側にいるのは恐ろしいことだ。 …父さんは、自分がどれだけ他人から注目されてるかなんてことに頓着しない人だったから、向けられる悪意にも好意にも戸惑ってばかりにみえたけど、先生は違う。 知った上でそれを武器に買えるくらいのことは当たり前で、場合によっては周りを煽動して利用することすら簡単だ。 生まれもった才能ってヤツなんだろうけどね? ある意味もっとも大きな障害になりかねない人を、巻き込まないで済むならそれに越した事はない。 どうなるか分からない手伝いなんて必要ない。俺の邪魔をしないでくれればそれでいい。 ありがたいことに、それを先生も察してくれたらしかった。 そうして時間を作ってはイルカの元へ遊びに行った。 うみのさんたちの任務予定を知ることくらい朝飯前だったし、なによりイルカが俺を呼んでくれるようになるまで時間はかからなかったから。 寂しくなると反応する俺の仕掛けに気づかぬままに、イルカは俺を求め、俺に慣らされていく。 「カカシ!」 そうやって名前を呼んで抱きついてくるようになって、両親を心配するように俺を心配してくれるようになって…俺を大事なモノみたいにしてくれるようになって。 それが俺自身も変えて行った。 筋肉は付けてるつもりだったけど、ほそっこいって言われてショックだったからちゃんと食事も摂るようになったし、自分がどんな外見なのかを気にするようになった。 好きな人にはやっぱりかっこいいって思われたいじゃない? ま、イルカは全然そういうの気にしないみたいだけど…それでも俺の顔をしげしげみて、「お前、綺麗な顔してるよなぁ!」って言われたときは、嬉しかった。 自分からイルカが俺に触れてきたってのもある。 でもそれより、イルカが嬉しそうに誉めてくれたから。 …自分のモノみたいに喜んでくれたから、だからきっと嬉しかったんだ。 早くイルカより大きくなりたくて、薬にまで手を出そうとしたら、実行する前にそれまで黙っていた先生が笑顔で脅しつけてきたのはびっくりしたけど。 「カカシ君、それはだめ。体に悪いんだよ?取り返しのつかないところまで壊してイルカ君より背が延びなくってもいいの?」 …確かに負荷が大きいのは確かだったから、その一言で諦めた。 なにより、この人がやっぱり“ただ単に黙っていただけ”で、俺の手の内も殆ど読まれていて、その気になれば簡単にすべてを止められるから放って置かれているだけなんだと分かったら、介入する隙を作る気になんてなれなかった。 「結局逃げるまで止められなかったってことは、先生も賛成してるのかおもしろがってるのか」 それか、たいしたことないと思っているか。 あの人だけは読めない。 …俺はただ、イルカと一緒にいたいだけだ。 「ん…カカシ…?」 「ここにいるよ」 俺の手を握ってほにゃりと笑み崩れたイルカを抱きしめた。 この手が欲しい。誰にも渡したくないだけだ。 他にはなにもいらないから、だからどうか。 …この子を俺のモノにするのを、誰も邪魔しないで。 「ん、だいじょぶだよ」 「…うん。そうだね」 寝ぼけたまま慰めてくれるその手に縋った。 愛しい人の最高の伴侶になることを心に誓って。 ********************************************************************************* 怖いのが来るのかこないのか…。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |