これの続き。 持ってきていた握り飯もついでに焼いたら、ちゃんとそれなりの食事に見えた。 二人そろって結構な勢いで食べて、すぐになくなってしまったけど、腹はしっかり満たされた。 簡単に後片付けして寝床に転がる。水浴びくらいしたいところだけど、イルカも俺も限界だ。 体力のなさは課題だな…。 まだガキだって自覚はあるけど、調子にのって術を使いすぎたかもしれない。 痕跡をたどられないようにするためには最適だからしょうがないんだけど、先生に感づかれたらすぐにこの場所も割れる。 とりあえず早く寝て、体力を回復させないと。 イルカも多分俺より疲れているはずだ。 知らない所にいきなり連れ出されて、しかもあれだけ興奮して動き回ったら、下忍にもなっていないイルカじゃきっとキツイ。 「寝よう」 案の定袖を引くイルカの瞳はとろんとしていて、すぐにも眠りに落ちそうだ。 幸い布団にもぐりこんだらあとは寝るだけだけど、ふいに心配になった。 俺はもうそれが当たり前になってしまったから何も感じないし、イルカがそばにいてくれるから一人でいるときよりずっと…ずっと心も体もあったかい。 でもここの寝心地は良くても、いつもならイルカのそばにあったはずのあの温もりはここにはない。 …その暖かい腕から、俺がイルカを盗みだしてしまったから。 「寂しく、ない?」 ぽつりと聞いたら、イルカは目を丸くして驚いた。 「全然!だって、カカシがいるじゃん!」 にこっと笑って照れくさそうに鼻傷を掻く姿に、唐突に…俺の中の何かがざわりと蠢いた。 「イルカ」 俺が普段接触するような連中とは大違いの細い手首を捕らえるのは、簡単すぎるほど簡単だ。 ふいに引き寄せられて、きょとんとしたままのイルカの唇を、素早く掠め取った。 触れるだけでも甘いそれは、震えが来るほど気持ちイイ。 その奥深くまでむさぼったらどんなにか心地いいだろう? でも、ダメだ。ここで最後までしたら…イルカに嫌われるかもしれない。 …って言っても、イルカは優しいから、ここまで懐に入れてくれた俺を、本当の所最後まで拒むってことはない気がするけど。 打算ばかりの俺でも受け入れてくれるから、好きになったんじゃないけど、あの優しくて柔らかな微笑みを俺だけに向けて欲しいとは思っている。 でも敵は親っていう最強の厄介者だ。 実力差で適わなくても向かってくる連中は、大抵そういう絆で繋がれていて、死ぬと分かっていても事切れる寸前までその戦意を失わない。 ましてや相手は…情に強いことを良く知っている、しかも当然だけど俺よりずっと経験豊富な上忍だ。 もしイルカに強引なマネでもして傷つけたら…俺に待っているのは場合によってはSランク任務よりずっと難しい難関だ。 なにせ拒まれたら里抜けも辞さないつもりだから。 暴走しそうな自分を押さえ込むのにこんなにも苦労するなんて思わなかった。 「んん?ぷはっ!な、なに?なにしたいま?」 「んー?ちゅーかな?」 「ちゅー?」 不思議そうに首を傾げるイルカの頬を撫でると、擽ったそうに目を細めた。 やっぱりまだ知らないよね? なら…それなら、いくらでも唆せる。 「俺の父さんと母さんはよくしてたよ?」 コレは本当。 俺がいても気にしないで父さんは良く母さんとくっついてた。引き離されたら死ぬんじゃないかってくらいずーっと。 …ある意味、その通りになっちゃったけど。 「へー!なんかわかんないけど、なんかさ、えっと…!」 頬を見る見る赤く染めるイルカは、目の毒だ。 それだけで酔ったみたいにくらくらする。 「イルカ、好き」 ぎゅうっと抱きしめるとイルカの体温が染み込んで、それから優しい匂いがした。 愛された子供の太陽の匂い。 胸が苦しくて、少し切ない。大事なのに誰よりも欲しいのに、うらやましいと思う自分がどこかにいる。 「わっ!何だよ急に!…俺も、カカシのこと好きだぞ?」 でも、イルカは。 その苦しさも、こうやって簡単にどこかに吹き飛ばしてしまう。 イルカは、意味なんてきっと全然分かってないだろう。 …今はまだ、その言葉だけでいい。 言質はとった。あとは、そろそろ本気で俺を探しにくるはずのあの人たちを迎え打つだけだ。 願わくばあの人が俺の方に着いてくれればいいんだけど。せめて邪魔をしないでくれれば、十分に勝機はある。 「明日はあの奥まで行って、それからあの青い石を…ぅー…」 「眠いんでしょ?寝ちゃお?」 「うん…」 「お風呂は、明日ね?」 「うん…おやすみ、カカシ」 「うん。おやすみ、イルカ」 眠るイルカを抱き締めて瞳を閉じた。 戦いの予感を胸に抱きながら。 ********************************************************************************* いちゃいちゃ中。 そろそろ父ちゃんのターンのような過去変もはさむような…。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |