前のお話はこれ⇒記念日9の続き。 「ね、どうして布団なんて着てるの?」 やはり見咎められたか。脱げって言われてたもんな。でもこの人がいないのに、あの格好は流石に抵抗がある。いやいてもあるんだが、ちょっと申し訳なくも感じるというかだな。 ああそれにしても不満げに唇を尖らせていても、かわいいっつーかなんつーか。きれいな顔してるよなぁ。 どうせなら笑っていて欲しい。だがしかし、さすがに譲れない部分もある。 「い、いやだって素っ裸って訳には!」 「いいじゃない。ね?」 そんな風にやわらかい微笑みを向けられたら、思わず頷いてしまいたくなるじゃないか。 まあいいかと、そう思い始めている。逆らえない。逆らいたくない。そんなことをしてこの人が傷ついてしまったらどうしたらいいんだ? 「た、ただその、食べ物零したりしたら危ないかもしれないって、その」 言い訳は支離滅裂で、自分でもそんな理由かといいたくなるような内容だったのに、ものすごく納得したって顔をされたあと、マントの中にしまいこまれてしまった。 傍目から見れば二人羽織みたいに見えてるんだろうな。なるほど。これなら…って。 まて。どうなってんだこの状況は。 「これならだいじょぶでしょ?ご飯食べよう?」 「おおおおいそがしいんですよね!あの!その!」 急いで食べてしまわないと。意識が途切れるまでずっと触れていた、あのしなやかで透き通るように白い体は、今は忍服に覆われていて触れることはできない。 だが、さっきより隔てるものが薄いせいで、ずっと近くにこの人を感じる。 はやくはやく、もっとちかくで。 湧き上がる欲を、必死で押し殺した。この人はこれから執務に戻らなければならない。早く食事を済ませて手を煩わせないようにしないと差し支える。執務の遅れがでれば、民にもこの人にもいいことなんてなにもない。 「はいあーん」 「あ、あーん」 「大丈夫。食事くらいゆっくりしてきてくださいってさ」 「そうですか」 なら、いいか。 溶けるように不安が消えていく。大丈夫ってこの人が言ってくれたから大丈夫…いや、違う。この人はいつもとんでもないことをしでかすときも大丈夫だという人だ。 たとえば死地に赴くときだって。 どんなにこの人が笑ってくれていたって、そんなのは何の証明にもならない。 「そんな顔しないの。ご飯食べてからね?」 「執務に、戻られますよね?俺になにかできることはありませんか?」 ここにいるだけじゃなにもできない。外に出たらいらないって言われちまうかもしれなくても、少なくともこの人のためになにかできるかもしれない。 ああ、そうだ。だから、里の外に。でも、どうしてだっけ? 「んー?そうね。すごーく疲れてるの。ごはん食べたら癒して欲しいかな?」 「はい!がんばります!マッサージなら得意です!」 がんばらねぇと。俺ばっかり大事にしてもらってるじゃないか。 食事も一緒だ。誰かと一緒に食事なんて、最近じゃほとんどしなくなっていた。機械的に食う飯より、誰かと一緒の方がいい。何より相手がこの人だなんて最高だ。 「…うーん。天然なとこはしょうがないか」 「はい?」 「ん。なんでもない。ほら食べちゃお?」 「はい!」 食事を早く済ませて、癒し…癒しか。五代目さまの方針で極力適正のあるものは学ぶってことになって、簡単とはいえ医療忍術を習っておいてよかった。俺のチャクラなんてからっぽになったっていいんだ。この人のためなら。 やっと少しは役に立てるかもしれない。嬉しくて、ずっと笑ってくれているのも幸せで、急いで食うのがもったいないけど、この人が望んだことを早く叶えたい。 腕の中でひな鳥のように食事を与えられながら、そんなことばかり考えていた。 ******************************************************************************** 適当。 根っこはいじれない。 時間的な都合で、中途半端でもあげちゃうことにします。 |