記念日6(適当)

前のお話はこれ⇒記念日5の続き。


温かい。傍らにある温もりが心地良くてすり寄って、襲い来る眠気に逆らわず浮上しかけた意識をそのまま沈めようとした。
匂いが、する。嗅ぎ覚えがあるどこか背徳感と諦念を感じさせる青臭い匂い。それに痛い。
何かが巻きついてきた。なんだっけ?なんでこんなに痛いんだ?足腰だけじゃなくて、何故かとんでもないところが傷む。
「うぅ…?」
絡みつく何かから本能的に逃れようとして、極僅かに身じろぎするだけで軋んで悲鳴をあげる体のせいで、引き剥がされるようにして眠りから覚めた。
「おきたの?」
「え、あ?」
「寝ぼけてる顔もかわいいね。アンタほんっと警戒心強くて、俺の前じゃ寝ぼけてもくれなかったから新鮮」
笑っている。そのことが嬉しくて、ホッとして、だからもう一度寝てしまうつもりだった。
だってこんなもん夢だ。夢に決まってる。
手を伸ばしちゃいけない相手だからと欲を押さえ込んではきたが、夢の中だけならかまわないだろう?
それにしちゃ痛みが鮮明なのが鬱陶しいが、これだけいい夢ならお釣りが来る。
どうしても欲しくて欲しくて、己の欲を押さえつけるのにも限界がきていた。望むのを諦めるために決めた任務がもうすぐ正式な命令になるからと、確かこの人にも伝えて…どうしたんだっけ?
またうっかり飲みすぎたのかもしれないな。この人から離れることを望んだのは自分なのに、それがどうしても辛かった。そのくせやっとこれでケリをつけられると安堵してもいて、だからこんな夢を見たんだろう。
エロ本でも鼻血を吹くせいで、むっつりスケベと言われたこともあったがその通りかもしれんな。こんな状況を、心の底では望んでいたのかもしれない。
もっとみていたい。でもこのぬくもりに触れたまま覚めない眠りに沈めたらもっと幸せだろう。
「かかしさ、ん」
嬉しくて脂下がっていたと思う。どうせ痛くて動けないんだから、有給でも取ろうかとか、窓の外はまだ暗いからもう少しだけ眠れるとか、そんな言い訳を考えて。
ああでも、夢だったんだっけな。目覚まし時計はいつ鳴るだろう。もうちょっとだけ、あとほんの少しだけでいいから、こうしていたいんだけどなぁ。
「…ちょっと強すぎたか。イルカ先生。ほら起きて?お腹空いたでしょ?」
「え?」
腹、そういえば晩飯食ったっけ?たしか、うどんを、この人に怒られながら。
「起きて?ほら」
抱き抱えられた。重いのに。途端に走った痛みを押し殺して、体を支えようと努力した。
「う、くっ…!」
「ん。寄りかかってもっとくっついてよ」
一人で立てない。痛い。いやちょっとまて。この状況は。
「うわぁ!あ、あの!申し訳ありません!」
汚した。この人を。次々と甦る忘れたい記憶に悲鳴をあげた。頭を抱えたいところだが、ヘッドボードに寄りかかって座っているこの人の膝の上に座らされて、しかもこんなにぎゅうぎゅうに抱き締められているからそれも叶わない。
慌てて視線を下げたのは、もはや癖になっているからというのもあったが、そこで太腿に乾いてこびりついているモノに気付いて呻いた。
白く滴るモノだけじゃなくて、赤黒く乾いたその匂いはある意味嗅ぎなれたモノで。
最中に痛いかと問われた意味がわかった。出血したらしい。
いやそうじゃねぇ。どうすんだ。なんでこうなったんだ。
「ん。そーね。怒ってたけど、もういい。もうここから出す気ないしね」
慈しむような微笑みに、うっかり納得しかけて、その言葉の意味に気付いた。
そうだ。嫌疑をかけられて、ウソツキって、それから…。
突っ込まれた。この人を汚した。何度も。鋭さと甘さを混ぜたような視線から逃れられないまま、途中からは縋ることもできずに揺さぶられて、意識を手放したのがいつだったかも思い出せない。
ただひたすら感じたことのない熱を腹の中で受け止めて、処理しきれないだけの快感に泣いて喘いで、蕩けた頭はさっさと理性を手放して、触れちゃいけないはずの人を求めて続きを強請った、気がする。
「ん。思い出しちゃったの?真っ赤ー」
「うぅぅぅ…!その、申し訳ありません…」
「その言葉遣い、やめてよ。誰もいないし聞いてないし。俺とアンタだけでしょ?」
「いえ、でも」
そうだ。どうして。
護衛もなしじゃ…ってそういえば三代目もあの部屋にいるときは護衛なんか見なかった、か?結界の関係か。もしかして。
でもそうか。それなら、昨日何を口走ったか思い出せなくても大丈夫、か?いやでも一番聞かせたくない人が側にいたんだが、ただ少なくともこの人の評判を下げるなんてことはなかったってことなんだよな?
服を着ていない事が心許ない。素肌の感触が気持ちイイが、これだけ軋んでるってのにはだがざわつくのが情けない。
「ま、いーや。時間はたっぷりあるんだもん。まだ、ね?」
「あ、あの」
「ご飯にしましょ?お風呂はその後でね」
同じくらいの身長だが、俺の方が確実に重いはずだ。それなのにティッシュの箱くらいの軽さなんじゃないかってくらい簡単に持ち上げられてしまった。
「うお!自分で!自分で歩けますから!話してくれ!」
「ふふ。ヤダ」
「ヤダじゃねぇ!じゃなくてその!」
「うん。久しぶりのイルカ先生って感じ。ね、ご飯は作っちゃったけど、後で温泉の素、選んでね」
「え?え?」
「ほら、あーん」
「ああああの!ですから自分で!」
「食べて?」
凄まれているわけじゃない。ただ笑顔に圧力を感じてしまっただけだ。
…炊き立ての飯の香りが美味そうで、空腹に負けたとも言う。
それにこうなったらこの人は落ち着くまで説明なんてしてくれないだろうからな。
「うめぇ…」
「そ?良かった」
ひな鳥宜しく甲斐甲斐しく飯を食わせてもらえることに言いようのない恥ずかしさと、それからなんでこんなことになってるんだっていう当然の疑問も湧いてきたが、少なくともこの人は幸せそうだ。
それなら、後回しでいい。今、ほんの少しだけなら、きっと。
「沢山食べなさいね?」
「…はい」
噛み締めた飯の美味さと、久しぶりに見る花のような笑顔に、俺は多分逃避した。
何も考えたくなかった。この例えようもないほどの幸せから逃げる方法なんて、少しも。


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適当。
餌付け。あ、あついよう。
時間的な都合で、中途半端でもあげちゃうことにします。

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