記念日2(適当)

前のお話はこれ⇒記念日1の続き。


「う…?」
肌に当たるふかふかした感触は心地良いが、どうも落ち着かない。何が落ち着かないって、こんな風に全身を包み込むようにやわらかく軽い布団なんて俺の身近に存在しない。
…俺はさっきまで何をしていた?ここは…どこだ?
まだ眠りたがっている体を気合で叩き起し、恐る恐る開けた瞳に飛び込んできた時計を見た。
時刻はとっくに出勤すべき時間を過ぎている。…今が朝なら、だが。
「うお!寝過ごした!?か…?…っつーかここはどこだ。窓が…ドアも、ない?」
部屋の何もかもに見覚えがなく、居心地の良すぎる寝床も初めて見る。
ついでに言うと、自分が何故ここにいるかすらわからない。
ポーチの中に式や位置を探るのに便利な物が入っていることを思い出して、はたと気づいた。
「服。どこいった」
一糸纏わぬ…まあつまり全裸だ。今の格好でこのまま外をうろつけば、一瞬で通報されてしまうだろう。
誰もいないとはいえ流石に恥ずかしくて、布団を体に巻きつけた。
こうなった経緯は思い出せない。腹が減って、それからうどんを掻き込んで…そうだ。確か執務室で謝って、今後の相談をしてる途中で。
ええと、俺はもしかしてぶっ倒れたのか。
隔離病棟にしては部屋が広すぎるし、派手さはないが上等な内装も、病院のものじゃなさそうだ。
一人で寝るには広すぎるベッドには、意図せずとはいえ素っ裸で寝てしまった事を申し訳なく感じるほどに上等な布団と、これまたふかふかした羽まくらが二つ並んでいる。さっきまで寝てたんだよな…。よだれでもつけちゃいないかと不安になってきた。
それにしても目覚まし時計以外は生活感のない部屋だ。
ベッドはある。そのすぐ横、手の届くところにベッドサイドチェストにライトと目覚まし時計がのっていて、めぼしい家具はそれだけだ。
家主の許可を得るまで開ける気にはならなかったが、着替えもなにもかも、この小さな引き出しに収まるとは到底考えにくい。
状況から考えて、おそらくぶっ倒れた俺をここへ運んでくれたのは、あの人だ。
…ってことはもしかしなくてもここはあの人の私室か。
五代目はどうだったのか知らないが、三代目は隠し部屋を持っていた。
あそこはもっと書物があって、いつも煙管から立ち上る煙の匂いがうっすらと残っていて、ついでにたんすとか、ちょっとした着替えと、一人じゃ開けちゃ駄目だって言われた長持ちには武器なんかも一式揃っていた。部屋だってもっと多かったはずだ。
他にも隠し扉の奥には火影邸よりも小さいけど檜の風呂もあって、ちょっとした食事が作れそうなコンロもあった。で、ベッドの下にはエロ本が並んでた。俺が見つけちまって鼻血吹いてからは別のどこかに移動したみたいだったけど。
良く忍び込んで遊んでもらったあそこも、札がないと入り口が見えない仕組みだったな。そういえば。
持ち主である三代目が亡くなってからも、俺があの部屋に入り込むこと自体は黙認されていた。貴重な書物は代替わりと共に保管場所を移す必要もあったしな。
俺があの部屋に行っていた理由はそれだけじゃないが。
繰り返される戦いで傷つき、壊れても、その度にこっそり入り込んでは修理していた。喪いたくなかったから。
結局は里ごと完膚なきまでに吹っ飛ばされてしまったあの部屋を、俺はとても気に入っていた。
ここは煙の匂いも、ほんの少し黴臭さの混じる書物の匂いもしない。部屋だって一つしかないし家具も少なくて、あの部屋とは丸で雰囲気が違う。
まあ六代目はまだ就任したばかりだからまだこんな感じなのかもしれない。
木製の数少ない家具たちはどれも良く磨かれていて艶がある。かといって古いというわけじゃなさそうで、仕上げがそれだけ丁寧なんだろう。黒で統一されたそれらは、白い壁に良く馴染んでいる。
不要なものは何一つないこの部屋の雰囲気は、どこか持ち主と似ている。何もない部屋なのに、妙に落ち着くのはそのせいか。
…だからといって暢気に寝なおすわけにもいかないが。
体調不良に関しては情けなく思う。この所例の依頼に関することで悩んではいた。それにもちろん日々の業務に終われてたってのもあるが、多少疲れを感じる程度だと思っていたのに…この体たらくだ。さぞや呆れられたことだろう。
まあ、この所の態度を考えると、元々好かれてはいないだろうから今更だ。
病院に蹴りこんでくれたら良かったものをとは思わなくもない。
とはいえ、たっぷり落ち込んだせいか、こんな状況でも意外と冷静だ。何か人に話せないような任務を命じられるのかもしれない。
俺が、あの部屋で、ナルトを引き受けてくれと命じられたときのように。
いつどうやって倒れたかがどうしても思い出せないのは不安だったが、俺にできることは限られている。あの部屋と少しも似ていないのに、奇妙に馴染むこの部屋で、待つことだけだ。
それにしても吐いたりしてないだろうな。俺。服を着ていないことがここまで人を不安にさせるものだとは思わなかった。開放感に酔うような性癖はないし、自室ならまだしもここはおそらくとはいえ里長の機密だ。
さて、どうすべきか。
本音を言えば逃げ出してしまいたい。隠し扉を探すのは得意で、しかも構造が似たこの部屋ならもしかすると壊し方もわかるかもしれない。あの部屋の結界の修繕も俺の役割だったから。あとはこの格好だが、最悪変化か布団があれば誤魔化せる気がする。どっちにしろ素肌がついちまった布団なんて洗わなきゃいけないしな。
…問題は、それがどう軽く見積もっても罪に問われるってことだ。下手すりゃ反逆罪だもんな。
「…あー…どうすりゃいいんだ?」
頭を抱えても解決策など見いだせそうもない。
正確に時を刻む時計の音だけがヤケに響いて、泣きたいほどの静けさにため息をついた。
 

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適当。
どろどろした短期集中連載つづき。

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