かぎ 熱に抗う(適当)


これの続き。




「ほかほかのイルカせんせ」
嬉しそうに俺を背後から抱きこんだ男が、せっせと怪我の手当てをしてくれている。
背に負った傷はともかくとして、腕や足のものまでやたらと丁寧に薬を塗り、包帯を巻いてくれる。
そんなことは自分で出来るといいたい所だが、情けないことに腰が立たないのだ。
風呂場でも傷を確かめると称して結局ちょっかいをかけられたおかげで、すっかり力が抜けている。
簡単に男の手管に落ちる体は、もしかしなくても自分よりも男の方に従順だ。
抱き馴らされた身体を厭う程潔癖じゃない。
ただ…いっそ溺れてしまえたらと思うほどに依存し始めている自分が恐ろしいだけだ。
気持ちはもう知られてしまっている。今更隠しても無駄なことは良く分かっている。
だが、駄目だ。
重いものばかり背負っているこの男の弱みにも重荷にもなりたくはない。
隠し事の上手い人だから、尚のこと。
俺の怪我の原因をどう処理したのか、この人から聞きだすのは下手な任務よりずっと難しいだろう。
「ん。あと残らないかもしれませんねぇ?順調順調!」
手当てをしながらこうして愛撫ともいたわりともつかぬ手つきで撫でられることにもなれた。
男で忍で、この人のように傷跡の殆どない体をしていることの方が珍しい。
顔に派手な傷がある自分を選んだということは、この人だって気にはしない方なんだと思う。
…つまり、コレはあの繋がれた男の存在を抹消したがっているということ。
この人のことだ。俺がアレの存在を知ったことくらい気付いているだろう。
その上で何も教えずにいるつもりなのだ。
今までなら諦めていただろう。子どもがらみならまだしも、自分の身は自分で守るものだ。
罠に気付かずしくじったとして、それは自業自得。他人に手助けされることじゃない。
ただそれを狩るものがいて、それが里にとって闇に葬られるべきものであるなら、自分の欲求など取るに足らないと切って捨てることもできた。
命を狙うものがいたとしても、自分にはどうでもいいことだからだ。
死にたくはない。だがたかがこの身一つのために里をかき乱してまで生きるつもりはなかった。
…だが、違う。今は違う。
俺はこの男のもので、この男も俺のものだ。…今のところはそう望むことが許されている。
この人に自分の苦痛を肩代わりさせるつもりなどひとかけらもない。
「ん…」
「あったまったでしょ?今度は別のもためしてみましょうねー?」
入浴剤入りの湯は芯から体を温めてくれるし、傷の治りも早まるそうだ。
自分の趣味で買い漁ったものと違って、男がどこからか集めてきたものだから、その効能は信用できる。
その湯の効果だけでなく、四肢の力が抜けているのが厄介だとしても。
触れる指に簡単に屈服する身体。…それを情けないとも愛おしいとも思う。
この体たらくで目的が果たして達成できるかどうか、一層気が重くなった。
気付いたのは今更だが行為に持ち込まれると意識を快感に飲まれがちだ。
さりげなく強請るなんて器用な真似はできそうにない。
…つまり、やるとしたら真っ向勝負しかない。
「…っ!」
傷口を撫でる指にさえ過敏に反応する。
肩口を撫でる吐息に震える身体を、男が笑いながら抱きしめた。
「ね、先にお布団行きましょ?」
あなたが食べたい。
こんな恥ずかしい睦言めいた言葉にもぐずぐずに溶けた身体は従順だ。
「…ッカカシさ…っんぅ!」
抱き上げられたまま連れ込まれた上等の布団の上で、いつもより上機嫌に見える男を見上げた。
怖気づくな。コレからが…勝負だ。


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適当。
抗う中忍。それすらも楽しむ上忍。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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