これの続き。 「おかえりなさい」 「あ、はい。その。ただいま」 未だになれない。 家に自分以外の誰かがいて、迎えてくれることに。 確かに怪我のおかげで多少弱ってはいるが、飯の支度くらいできる。 それを上げ膳据え膳で用意から片づけまでしてくれるこの男に、どうしてもなれることができない。 飯なんかどうでもいい。いやよくないけど、そんなことじゃなくて。 おかえりなさいなんてこの人が言うから、気がつけば早く帰りたいなんて思うようになったし、玄関のドアを開けるだけでどきどきする。 やることやってたのになんて体たらくだと我ながらのた打ち回りたくなるほどだ。 出迎えてもらえることを当然のように側にいてくれることを、じわじわとしみこむように教え込まれている気がしてならない。 居心地が良すぎて落ち着かない。 …なんて贅沢な悩みだ。 そのぬくもりから離れられなくなりそうで怖いなんて言ったら、大喜びしそうだからいえないけどな。 「お風呂入るなら手伝うから言ってくださいねー?それともご飯にします?」 まるで新妻だ。 …どこからもってきたかしらないが、エプロンまでつけてるってのがなんともいえない。 それに男は饒舌になった。 それまでは家にやってきて上がり込んだらすぐにやることやって翌日いなくなるだけだったってのに、軽口も甘えるような囁きも増えて、今までどうやって過ごしてきたか思い出せないほど関係は変わったと思う。 「風呂にはいりますが、もう介助はいりません」 ついそっけなくしてしまう自分に自己嫌悪が湧く。 退院したてのときは傷口の洗浄なんかを手伝ってもらわざるを得なくて、居心地の悪い思いをした。 …恥ずかしいことばっかりいうからだ。 ちくびがどうの溜まってるなら口でだの…破廉恥にもほどがある。 妙に早く退院させられたのも謎だ。 元々仕事柄すぐに復帰を希望してたのもあったにしろ、こんなに早く帰されたのはこの男が関わっているんじゃないだろうか。 悪意の塊をぶつけてきたあの男を警戒した可能性も高いのだが。 「ま、そういわずに。ね?」 こうして嬉々として世話を焼く男に、結局の所何も言えずにいる。 惚れた弱みなのか、それとも。 「す、少しは自分でやらないと!大丈夫です!」 依存するのが怖いんだよ。 …あんな言葉を貰っておいて、それでも信じられない自分に反吐が出る。 自分で立てなくなる。きっと。…この人に寄りかかっていきていきたくなんてないのに。 「あら逆効果?」 「へ?」 「ま、いーや。俺が洗いたいの。背中の傷もみなきゃいけないし、手当しやすいでしょ?へんなことはお風呂場じゃ我慢しますから」 「…風呂場以外でも我慢してください…!」 負担になるからと突っ込まれてはいないものの、擦り合って出したり口でしたりは退院した当日にはもう仕掛けられている。 「い、や。…じゃ、行きましょうねー?」 それにしてもこのテンションの高さはなんだろう。 同棲と男が言い張るものが始まってからこっち、その態度は確かに激変したが、ここまでじゃなかったはずだ。 「何か、あったんですか?」 つい聞いてしまったのは、心配したからだ。 痛みや苦痛を我慢強く押さえ込み、気取らせまいとするこの人に、なにかあったんじゃないかと疑った。 …返されたのは酷く暗い笑み。 「ゴミ掃除がねぇ。終わったんですよ」 くすくす笑う声は子どものように無邪気で、その表情を裏切っている。 「…何を」 したんだ。この人は。…あれを為したのもまさか。 「んーん。何も?ほら、お風呂が先でしょ?」 手を引かれるままに風呂場に引きずられてしまう。 …この分じゃ今は無理だな。 真剣な顔で入浴剤を物色している男の口が緩むとしたら…やはり閨だろうか。 「はぁ…」 気が重い。…そっち方面の適正なんてないんだよ。俺には。 それでも聞き出さなくてはならない。 その答えを。 ********************************************************************************* 適当。 ちょいながくなるかもです。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |