かぎ 答えを求めるひと(適当)


これの続き。




「生きてたのか」
歪な笑みを浮かべた男に加えられた制裁の後は生々しく、今更流される血に思うこともないはずの自分にも顔を顰めさせるほどに陰惨だった。
「おまえさえ!おまえさえいなければ!」
声だけはつぶさなかったという言い方に、多少の想像はついてしかるべきだった。
無傷である所など一つもなく、丁寧に薄皮一枚剥がれた身体からはすでに腐臭がしている。
濁った目でも俺の正体はわかるらしいから、ある意味相当深く思われていたものだ。
「…知りません」
「そうか」
あまりに一方的なその思いは、この男が、そんな思考の元に為された策略が、存在することすら知らなかった俺の手に余った。
尋問拷問部のやり方に是非を問うつもりなどない。
必要であったから加えられたものだろうと思うしかなかった。
こみ上げる吐き気は、凄惨なこの光景のせいじゃない。
「この男は、誰なんですか」
見知らぬ男。
俺の行動を調べつくし、他国の情勢を知ることにも長け、任務依頼さえ偽造できる立場にあるはずだというのに。
この男が何者かを、俺は知らない。
「しらん」
短く切ったその声には、苛立ちに満ちていた。
…中忍ごときに明かせない情報ということか、それとも。
「…といいたい所だがな、こっちもプライドがある。上層部の手前おおっぴらにできんがな。すでに一族ごと処罰が下っている」
「プライド、とは」
里の恥でもある醜聞を隠したいと言うなら分かる。
その口ぶりからしてそれなりに名の知れた家の出なのだろう。
だがそれを中忍に明かすことが、どうプライドにつながるのか分からなかった。
「コレをやったのはうちの人間じゃない」
誰かに先を越されたのか。
それならば納得がいく。
コレを見れば。…むしろこの男が俺に向ける憎悪よりずっと激しいかもしれない。
徹底的に痛みを引き出すことだけを目的とした拷問。
怒りというより底冷えがするような冷徹さ感じた。
「…これ、を?」
自ら手を下したということは、忍だろう。一般人にこんなことができるはずがない。
抑制されているようだがこの男からは少なくとも中忍以上のチャクラを感じるし、受付さえ騙した男だ。
そう易々と狩られるほど頭は悪くないだろう。
未だ血の抜けた頭でも、それくらいは理解できる。
「ある意味正当な復讐者といえるかもしれんな。実行したのはソイツじゃないらしいが、幻術で情報は引き出したというのに、ろくでもない悪戯好きの部下に好きにしろと下げ渡したそうだ」
それをここに持ち込んだのはその男だ。
そう締めくくって、自ら率先して拷問を執り行うことで知られている男は、閉ざされていた扉を開けた。
出て行けと、そういうことらしい。
聞きたいことは山ほどあるが、答えるつもりはないのだろう。
「誰が」
せめてそれだけでも知りたかったのに。
「…安心しろ。そいつの上司いわく、裏切り者が大嫌いで、見つけると今までの怒りを抑えられない不器用なヤツ、らしいから、今後お前に関わることはないだろうさ。…病み上がりに呼び出してすまなかった」
アイツのせいで後始末に追われていてな。
苦笑なのだろう。僅かに引き連れるように持ち上がった唇に、多少の苦悩が見えた。
裏切らないと信じてもらえているらしい。この人かけらのウソさえ見抜くという男に。
それだけでも収穫か。
「いえ、ありがとうございます」
見知らぬ男。…恐らくは生かされているだけのあの男に、二度と会うことはないだろう。
その目的を知ることも俺には許されないらしい。
開かれた扉の外は冬らしく高く済んだ青が広がっていた。


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適当。
ちょいながくなるかもです。
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