これの続き。 とっさに距離を取り、後ろを取られるのを承知で駆け出した。 逃げられるとは思っていなかった。…逃げ出さずにはいられなかっただけだ。 男が本気を出せば、俺程度の忍、赤子の手をひねるより簡単にねじ伏せられるだろう。 つかまればきっと酷いことになる。 きっと…地を這っていた連中と、握りつぶされたタイマーと同じように簡単に、男の意のままにされるだろう。 逃げたところでそれが変わる公算は低い。 …それもとっさに逃げ出しただけで、何の手立ても用意していないのだ。 とはいえ、今俺が逃げる余裕があるということは、男がすぐに捕まえる気がないということだってことくらい分かる。 恐らく、俺が逃げ回ることすら楽しんでいるのだろう。 それなら…その気まぐれな遊びが長く続くことを期待して、トラップでも仕掛けて時間稼ぎをして、可能なら三代目に式を飛ばせば…あるいは逃げ切れるかもしれない。 所詮遊びだ。面倒ごとを起してまで俺をおもちゃにするほどの執着はないだろう。…ないと思いたい。 抱きしめられてその温もりを心地よく感じることすら己に禁じたのは何のためだ。こんな風になったときのためじゃないか。 耳に良い言葉よりも、かつての温もりを思い出させる体温よりも、俺が選んだのは復讐だ。 「くそ…!」 四六時中張り付いてくれただけに、男と俺にどれほどの実力差があるのかは思い知らされている。今さっきのことを除いても、だ。 俺の手の内など読まれているのは確実だ。 …なら、それを逆手に取ればいい。 仕掛ける端から壊されていくトラップに、式を飛ばすことは諦めざるを得なかった。 もう後がない。 「ねぇ?もう逃げないの?」 心底楽しげな笑みを浮かべた男が、俺の前に立ちはだかった。 今術でも札でも仕掛ければゼロ距離でいけるが、そうあっさりと食らってはくれないだろう。 「逃げますよ」 クナイを抜いた。 …突きつけた先は己の首だ。 「なに、どうすんの?」 多少は脅しになったのか、男の顔から笑みが消えた。 後へは、退けない。 「中忍一人死んだってなんてことないでしょうが…俺が死ねば何があったか探られます。何せ今俺はこの里で一番闇討ちに遭ってますから」 そういう意味では普通の中忍とは違う。 …俺が死ねば見せしめとして、首謀者は血を持って購わされるだろう。 秘すべき機密を広め、尚且つ私怨でもって仲間の血を流したことを、上層部は許さない。 それはこの男とて例外ではないはず。 他の連中よりずっと罰は軽くなるにしろ、厄介ごとであることは確かだ。 自分を人質にするなど馬鹿げたことを実行する羽目になるとは思わなかったが、それなりの効果は見込めるだろう。 …単なる時間稼ぎにしかならないにしても。 「へぇ?でも、そんなの意味ないでしょ?」 「来ないで下さい。…もう、俺に関わるな!」 じりじりと距離をつめる男は止まらない。その言葉にも追い詰められていく。 いっその事手当てされる可能性にかけて、今すぐ首をかき切ろうか? ぐっと握り締めたクナイを引く寸前、俺の手はあっさり男に捕らえられていた。 「あっぶないなぁ!もう!思い切りだけはいいんだから!」 「触るな!離せよ!あんた一体なんなんだ…!」 男は取り上げられたクナイをホルスターに戻す余裕すら見せた。 このままじゃ、何をされるかわからない。 …なんでそっとしておいてくれないんだ。俺は俺の目的の邪魔しないでくれればそれだけでいいのに。 「俺?んー?ま、暗部で一応里では結構使える方よ?それに…」 「そんなのどうでもいい!離してください。俺はアンタの遊びに付き合ってる暇なんて…」 俺の言葉を遮るように、男は深い溜息をついた。 「もー!アンタ、俺の誕生日プレゼントなのよ?…たとえあんた自身でも、俺になんの断りもなく傷つけるなんて駄目に決まってるでしょ?」 ふざけた口調に不釣合いな殺気。 あいつらを片付けたときには殺気どころか気配の欠片すら感じさせずに一瞬で終らせたというのに。 勝手に震えだす体を男は大事そうに抱きしめた。 「ま、いいや。言葉でいってもわかんない子は体で理解ってもらうから」 …もうアンタ俺のなんだから勝手なことは許さない。 いつもは閉ざされている瞳が赤いのだと初めて知った。ゆっくりと回るそれに飲み込まれるように体から力が抜けていく。 かくんと倒れた体を支えるものが小刻みに揺れるせいで、男が笑っているのが分かる。 「ぁ…?」 重みを感じさせない動きで宙を舞う男に抗うすべなど、俺にはもう残されていなかった。 ********************************************************************************* カカシてんてーおたおめ適当小話5。 おわらない( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \ ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |