痛み3(適当)


これの続き。


久々だったから油断していたかもしれない。
結構な深手を負ったあの日からぴたりと止んでいた襲撃。
振り下ろされた棒切れをあっさりと食らってしまった。
「…ッ!」
飛び退って致命的なダメージは避けたとはいえ、襲撃者たちに囲まれるまでのんきにしていた自分を呪った。
言い訳なら山ほどある。
…あの暗部のおかげで眠れないのだ。
他人の体温に触れることなど忘れて久しい。
子供たちに触れはしてもあんな風に…腕の中に囲われて抱きしめられたまま眠ったことなど随分昔のことだ。
もちろん女を知らないわけじゃない。
それでも人肌は恋しいのにどこか恐ろしくて、抑えきれない衝動を処理するような年じゃなくなったときに、自然と足が遠のいた。
触れるのが怖いのは…思い出すからだ。
それを無遠慮に人の家に上がりこんできた暗部が強制的に俺に教えた。
気付きたくなんてなかったのに。
…寂しいなんて。
守ってくれた手が大事じゃないはずがない。でも…でもだからって今更思い出してもどうにもならない。
それはもう二度と戻らない。あの日、悲鳴と血と炎で満ちた中で、永遠に失われてしまったのだから。
八つ当たりじみた怒りをぶつけるように、襲撃者たちに殺気を向けた。
反撃はコイツらを刺激するだけだ。多勢に無勢なのも分かってる。
普段なら適当な所で逃げ出すのに、あの日と同じかそれ以上に増えた襲撃者のおかげでそれも適うかどうか怪しい所だ。
今までウサ晴らしに使ってきた人形に意思があるのだとやっと気付いたのか、こけおどしの殺気にあっさり動揺した連中を心の中で嗤いながら隙を探った。
絶対にあるはずだ。憎悪と罪悪感だけでつながった薄っぺらな連中に、遅れをとるわけには行かない。
まだ俺の復讐は終っていない。
それに、俺に何かあれば人の痛みに敏いあの子が気付いてしまう。
「化け物…!お前も化け物なんだろう!化け狐だけじゃなくてあんな…あんな化け物まで誑かしやがって…!」
支離滅裂な物言いだが、予想はついた。
「暗躍するのは勝手だけどなぁ…!最後までしっかりケリつけろよ…!」
不在の男を思った。
なんの気まぐれか仲裁の真似事でもしたらしいが、男たちから見れば精々私刑がいいところだ。
憎悪の視線の鋭さに今更ながら分の悪さを思い知らされて溜息が出る。
刺激するだけ刺激して放置なんて、後の始末が最悪だ。おまけにつついた本人は“ちょっと任務”とやらで不在。
これはもう生き残れたら殴り倒しても許されるだろう。
「死ね!」
「お前さえいなけりゃ…!」
統率の取れていないコイツら相手ならいくらでもやりようはある。
負けるな。諦めたらそれだけで生存率は下がる。
伊達にあの日から生き残ってきたわけじゃない。
「知らねぇよ…!おまえらの都合なんて!」
武器は絶対に使わない。ただ鬱陶しい連中を眠らせるためだけのつもりで、仕込みの煙玉をたたきつけた。
「ひっ!?」
「うっうわぁあああ!?」
「あ、あ、あああああああ!」
どうにも様子がおかしい。コレの中身は即効性のある眠り草の粉のはずだ。自分で作ったんだから間違いない。
“仲間”の襲撃に備えるためにこんなものを作る自分に、もう涙どころか笑いさえもでなかった。ただひたすら効果と使うタイミングだけを考えて準備した道具。
それがどうしてこんなことに。
「どうなってんだ…!?」
呻き声は夜更けとはいえ大きすぎる。耳を塞ぎ誤魔化してくれるモノたちばかりであるはずもない。
気付いたのがコイツらの仲間でも厄介だが、それ以外でも…きっと同じだ。
もしコイツらが捕縛されても次から次へと沸いて出て、俺に言うのだ。
「よくも仲間を」と。
笑える話だ。仲間…コイツらにとっての仲間は、自分の欲を、恨みを正当化するために道具でしかない。
一度で懲りた。厄介ごとを増やすより適当に遊んでやって、内勤で鈍りがちな体を動かす方がよっぽどマシだ。
誰も信用できない。…もしかすると里長でさえ。
里長の高潔な人柄を持ってしても、悪意と様々な思惑でゆがめられることは確かに存在するから。
逃げるべきか逡巡した。お仲間が回収に来ればいいが、今回の人数からして相当数の連中がここに集まっている。
厄介ごとを増やす前に、なんとかしなければ。
「あはは!馬鹿な奴ら!あーれだけいったのにねぇ?」
戸惑いごと俺を浚った男の笑い声が呻き声を切り裂いた。
「あんたが、やったのか…!?」
「んー?そ。だってねぇ?一応教えてあげたのよ?あの人に近づいたら痛い目にあうからねーって。で、この様」
「なにをした!」
恐怖に彩られた呻き声はあの日にも似て、地をかきむしりのた打ち回る姿はいっそ止めをさしてやりたくなるほどの苦しみようだ。
毒じゃない。それは確実だ。…俺にだけ効かない毒なんてあるわけがない。あらかじめ解毒剤を飲んだ眠り草を除いては。
「ああ、ちょっと暗示を、ね?アンタに敵意を向けたら即発動!…こわーいこわーい夢を見てもらってるだけだけ。簡単でしょ?」
動揺のひとつも見せればいいものを。
酷く楽しげに歌うように話す男に得体の知れないものを感じて、その腕の中に閉じ込められていることが恐ろしくて…とっさに振り払ったはずの腕は簡単にからめ取られてしまった。
「化け物…化け物が…!」
あの子を罵る言葉とは絶対的に違うその声音。
掠れた悲鳴は絶望で満たされている。これは、あの日の。
「まさか…」
「あたり。そんなに忘れたくないなら思い出させてあげようと思って」
くすくす笑う声が耳に響く。
転がっている男たちは…今まさにあの災厄の日にいるのか。
「なんてことを…!」
きっと耐えられない。
…目の前で失われていくものをもう一度見せ付けられるなんて。
半ば狂っていたとはいえ、もはや人としての精神さえ失うかもしれないじゃないか。
「でも俺はね。アンタにも怒ってるの」
「はぁ!?」
口調は歌うように甘い。その瞳の鋭ささえなければ。
「まだもうちょっと早いから…ちょっとだけで我慢してあげる」
息が止まる。ぬるりと滑り込んできたコレは…男の舌か。
「んっ!んん!んー!」
俺ごときがいくらもがいても簡単に押さえつけられる男に、恐怖よりも怒りを感じた。


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カカシてんてーおたおめ適当小話3。
あの、カカ誕にエロスまでしかまにあわんかったら許してください。゜。゜(ノД`)゜。゜。。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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