これの続き。 暗部の気まぐれなど中忍には理解できないということなのだろう。 あれから離れると死んでしまうとばかりに俺に付きまとう男のおかげで、俺の平穏な生活は乱されっぱなしだ。 暗部の姿に警戒してか、襲撃が減るのはありがたいといえばありがたいのだが、アカデミーの中での些細なちょっかいすらなくなったのが恐ろしい。 プレゼントとか言うのは方便で、上層部が介入しただけなんじゃないだろうか。とてもとても今更だけれども。 それでなくともあの子の誕生日…すなわち災厄の日が近づいている。 痛みを忘れられないものたちが、体だけは守られているあの子供の代わりに、俺に武器を向けるのはいつものことだ。 裏切り者とそしられ、傷つけられることにはもう慣れた。 そのくせ正体を晒すことを恐れるのか思い思いの格好で素顔をかくすのだから笑うしかない。 罰せられる行為だと知っていて、それでも彼らは諦めることをしない。 そのくせ正面からあの子を傷つけることはしないのは…そうすれば自分たちが滅びると理解しているからだ。それは処分を恐れるくせに、考えることを放棄したということに他ならない。 ばかげた話だ。奴らがしていることは要するに単なるウサ晴らしでしかない。 あの化け物を倒す所か、逃げることしかできなかったくせに。 …どうして強くなろうとしない? あの日からずっと、俺の中の憎しみはまっすぐにあの化け物に向かっている。 腹の中の化け物を滅ぼすなら…あの子を強く育てるしかないというのに。 最初からあの子を滅ぼせばいいという叫びには懐疑的だった。 あの化け物を収めた器に何かあれば…化け物が出てくるだけだ。 四代目すら倒すことができなかった化け物。 それを滅ぼすための方法を血眼になって探した。 書庫の本という本をあさり、その全てを頭にいれた。 それでも足らずに任務に託けては書物や口伝を漁り、情報を集め続けた。 尾獣は機密だ。どこの里も戦力としてのそれを誇張することはあっても、その詳細を知ることは酷く難しかった。 潜入任務や情報屋に金をくれてやりながら、化け物を消すための方法を探し続けたのは、あいつらより俺がずっとあの化け物を恨んでいるからだ。 何も変わらないことに労力を費やすより、確実にあれを滅ぼすための方法が欲しい。 養い親でもある老爺は、修行に明け暮れ、夜になれば書庫を漁る俺を止めなかった。 …時折痛ましげに顔をしかめて俺を抱きしめはしたけれど。 おかげで任務経験も中忍にしては多く、それなりに情報が入ってくるようにはなったのだが、俺一人でなんとかできるものじゃないってことが分かっただけだった。 膨大な情報。その全てを自分のものにしても、あの子の中の化け物を引きずり出すには…あの子自身の意思が必要だと知った。 それなら、育てればいい。 英雄の子だ。赤子でもあの化け物を押さえ込めるだけの強い器だ。 教え込むのだ。強くなることを。 …腹の中の化け物を滅ぼす術を。 だが、復讐のために近づいたというのに、ほだされてしまう所までは予想していなかった。 どうして憎めようか。 その手を握り締めるはずの二人分の腕を失い、何もかもを失って生まれてきた子供を。 化け物を倒す最後の切り札。それがあの子自身なのだ。 奪われた暖かい手を、与えられるはずだった庇護を奪われた子供が復讐を望むなら…それはあの化け物に対してであるはずなのに。 あの子を傷つけることを選んだ連中のせいで、その切っ先は里に向かうかもしれない。 そもそも化け物を制御できない子供に徒に触れることがどれだけ恐ろしいことかなぜ理解できないのか。 だからあの子の守りについた。 これは誰にも渡さない。あれを滅ぼす唯一の武器なのだから。 …誰よりも幸せになるべき子供なのだから。 「まーたなんか難しい顔しちゃって」 「…いえ、なんでもありません」 笑顔は得意だ。それがどんな相手であっても笑う自信はある。 「うそつき」 どうやらこの男には通用しないのだと理解しつつはあるが、今はむしろ従うつもりなどないのだという意思表示の代わりにもなっている。 「あの、離してくれませんか?」 「ヤダ」 背中にめっとりと暗部を張り付かれて、自室にいるというのにちっともくつろげない。 溜息をついても男は楽しそうに笑うばかりなのだから、腹も立つというものだ。 「俺に、なれてね?」 面を取り払った男の笑みが恐ろしい。 …誰が慣れるものか。こんな状況もこの男がこの遊びに飽きるまでだ。 返事をせずに曖昧に笑ってやった。 それすらも楽しそうにしている男にひそかに激しい苛立ちを感じながら。 ********************************************************************************* カカシてんてーおたおめ適当小話1。 やはりつづくという…。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |