痛み(適当)


みんなうそつきだ。
いらないならいわなきゃいいのに。
笑ってお前がいてくれて助かるとかいうくせに、腹の底じゃナニ考えてるか…。
あの子は、なんにもしてないんだ。なんにもしてないんだよ。
…生まれてきただけなのに、それがいけなかったっていうのか。


襲撃された中忍は文字通りずたぼろで、抵抗すらせずに殴られていたのを見ていたとは言え、思わず顔をしかめるほどだ。
痛みを堪える顔に感じたのは確かな欲情で、そのくせ静かに泣くこの男を見ていると、無性に苦しくなる。
「ねぇ。アンタどうして抵抗しなかったのよ」
俺が止めなければどうなっていたことか。
ためらいなく同胞に武器を向けた愚かな連中はもうすぐ回収されるからどうでもいいとして、この男は。
「ぅ…?誰?」
瞳の焦点が合わないところを見ると、どうやら殴られすぎたか。
このまま放っておいたら…最悪、中身までイカレてしまうかもしれない。
「痛いんでしょ?抵抗しなさいよ」
動かさない方がいいかもしれない。
ゴミの回収以外にも医療班を呼ぶべく式を放ったが…握った手の冷たさに間に合わない可能性を感じてぞっとした。
この男のことを、俺はまだ殆ど知らないというのに。
「どうして?」
子供のように男が話す。
「どうしてって…それはこっちの台詞…」
「なんでだよ。だって、あいつら全員知ってる。隠しても分かる。…でも、殴ったんだ」
そうか、では犯人探しは容易になるだろう。
まさか知人だからと抵抗しなかったなんて思いつきもしなかった。
武器を向けるものはどんな状況であっても敵だ。
最初から一芝居打つとか、操られているなら別だが、そうでもない限りその相手には死を与える。
それが当たり前のはずだ。
「ねぇ。なんでそんな難しく考えるの?殴ったってことは敵でしょ?」
「知ってる。知ってるんだよ…ずっと泣いてたのも憎んでたのも。それでも、あいつらは俺に笑ったし、戦おうとしてると思ってたのに」
笑って見せたからなんだというのか。忍なら笑顔で人を殺すくらい朝飯まえだろうに。
それくらいのことも分からないのか分かりたくないのか。
「甘いこといってると死ぬよ」
「死んでたまるか。…まだ、あの子が一人で立てるまでは…」
瞳が少しずつ濁り、その光を失っていく。
駄目だ、そんなの許さない。
「それじゃアンタは誰が支えてくれるのよ」
抱き上げた体には力の欠片さえ残っておらず、ぐにゃりと撓った。
「いらない。みんなうそつきだ。…うそつきなんて、いらない」
忍の隠れ里で随分な言い草だ。嘘など常套手段じゃないか。
だが、一瞬だけぎらりと刃物のように光った瞳に心を奪われた。
ゆっくりと閉ざされたその瞳と、同時に細くなる呼吸。
その輝きが失われることは恐怖でしかなかった。
いらないなんて、言わせない。
「押し付けてあげる。嫌って言っても死ぬほどね」
「はたけ上忍!…っ!これは酷い…!」
「早く、して。おねがい」
「はい!」
てきぱきと処置を施す医療忍の側で誓った。
目覚めたら嫌ってほど側にいてやると。
*****
顔も知らなかった暗部が家にいついた。
いや、暗部なんて普通は顔を見せないもんだから当たり前なんだけど。
…しかも誕生日プレゼントなのだという。
人間がプレゼントってだけでもありえないのに、俺の誕生日はとっくの昔に過ぎている。
「どうして…」
「いいじゃない。頂戴よ」
「は?」
玄関先に暗部が座ってただけでも恐ろしいのに、勝手にずかずかと憩いの我が家に上がりこむし、家に入ったら入ったで、そこそこ散らかっていた部屋が綺麗になってるし、飯は並んでるし…外で待ってたくせに家の中に入ったのは丸分かりだ。
その上頂戴と来たもんだ。一体何を要求されるか恐ろしくてたまらない。
それでなくても薄給だ。しかも…この所の度重なる襲撃で、持ち物の交換頻度が激しい。
…暗部だから金もちのはずだ。それなのに俺からなにを奪うつもりなのか。
友も仲間も失ってばかりの俺から。
「だって、誕生日だって言ったじゃない?」
「へ?あ、はあ。ですから俺の誕生日は…」
「もうちょっと先なんだけど、お祝いしてね?」
「え?え?」
噛み合わない。絶望的に噛み合わない。何だこの会話。
…っていうかさ、つまりはそれって…。
「ねぇ。だめ?」
「あなたの誕生日、ってことですか…?」
初対面の暗部にプレゼントをおねだりされた。
ありえねぇ!
「そ。…ここにおいて?」
気まぐれ。そうこういった連中はそれが通ると思っていて、実際その通りなのだから中忍の自分には辛い話だ。
そしてなにより、そんな連中からはどうあっても逃げられない。
実力差というものは、それはどんなに努力しても埋めようがないものだ。
己が一朝一夕でこの気配を感じ取ることすら難しい男より強くなることができるのでなければ。
…ならば、仕方がないだろう?
「…はい…」
変な男だ。俺なんかに祝ってもらいたがるなんて。
「ん。ありがと。…当日、楽しみにしてるね!」
心底嬉しそうに笑う男に、この茶番がその日まで続くことを覚悟した。
…いつなんですかって聞けそうなら早いうちに聞いてしまおう。その方が諦められる。突然なにかされるより、逃げられないなら心構えができた方がいい。
突然の喪失は痛みを酷くするから。
…ああ、俺の生活。平穏な暮らしが…。
本当ならうずくまりたいくらい絶望の中にいる俺の手を引いて、男が笑った。
「まず、コレ食べてちょうだいよ。それからお風呂と…昼寝かな!」
分かってるよ。逆らえるわけがないってことは。
訳の分からない遊びに巻き込まれた己を少しだけ哀れんでおいた。


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カカシてんてーおたおめ適当小話1。
続かなくてもいいだろうか。つづいちゃってもいいだろうか。
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