今夜も眠れない8(適当)



これの続き。

 自分で言うのもなんだが経験なんてものはほとんどない。女性の扱いなんかさっぱりで、精々訓練と称して玄人の女性に筆卸してもらったくらいで、後は何回か新兵食いのくノ一に天幕に連れ込まれてってのがあるくらいで、自慢できる経験なんか一つもない。
 女性相手でその状態なんだから、男相手なんてもっとだ。講義で手引書を一通り読んだ程度で終わっている。後は敵に捕まったらその手の変態でっていう怪談染みた噂話と、実際にこっちは同胞からの被害にあった仲間のどす黒い愚痴くらいのもんだ。
 痛い思いはさせたくない。だがしかしそれ以前にどうしたらいいんだかわからん。
 少なくともやる気満々のこの人はどうしたらいいかは知っているだろう。それなら任せちまえばいいかとやや投げやりな気分になりつつ、どうしても抑えきれない憤りを口づけと共にぶつけてやった。
 眠れない理由。それは隣に眠っているのがこの人だったからだ。
 そりゃそうだよな。好きな人が隣に寝てる状態でスヤスヤ熟睡できるほど、流石に俺だって枯れてない。自覚してなかっただけでモヤモヤして落ち着かなくて、でも心配すぎてその辺の理由が頭に入ってこなかったんだろう。
 言われなきゃ一生気づかないままでいられたのに、自分のことを蔑むようなことばかり口にするから、最初から全部諦めたみたいに笑うから、我慢なんてできなくなっちまったんだよ。
 自覚してみれば感情の行先は分かりやすいほどはっきりと目の前の男に向かっていて、悲しい男の性で体の方も反応しちまったというか。
 とにかく、興奮はしている。上忍師の先生に放り込まれた花街で、初めて女性と手合わせしたときだって、こんな風に訳がわからなくはならなかった。
 あの時は戸惑って逃げを打ちかけた挙句に、慌てすぎてすっころんであっさり捕まって、かわいいだのなんだの言われてまあなるようになったが、あの時のことは苦い思い出としてしっかり頭に残っている。
 初めて触れた女の体は確かに気持ち良かった。多分夢見心地ってやつだ。それよりもなによりも自分への情けなさと恥ずかしさで、思い出しては叫びだしそうになったっけな。
 今もそうだ。いや、あのときよりもずっと緊張して訳がわからなくなっている。素肌が触れ合う感触が生々しいのに離れがたくて、興奮した声で名前を呼ばれるとこっちまで頭が沸騰しそうだ。
 それなりに暴れて汗臭いだろう体に、きれいな顔した人が舌を這わせてるってだけでも逃げ出したい気持ちに駆られて体が逃げを打とうとする。だがそんなことしたらまたこの人が誤解するに決まってる。
 今だって欲しいとかいうくせに俺の顔色ばっかり見てるし、さっきだってあっさり諦めようとした。
 そんなことされたら…男ならどーんと受け入れるしかないだろ。
「ッ!そ、んなとこ舐めてもなにもでませんよ?」
「おいしい」
「ええ…?ホントに?」
「うん」
 いや男だし女性の胸だって授乳中ならまだしも普段から色々なにか出てくるって訳でもないよな?美味いとかそんなのあるのか?どうなってんだ?むずむずするし恥ずかしいんだが。いっそやり返すか?でも俺にそんなことできるか?この人の、胸に、俺が。
 想像だけで鼻の奥が熱くなって、とっさに押さえてしまった。この状況で鼻血なんて吹いたら笑いごとじゃない。
「顔真っ赤。かわいい」
「ぅるせぇ!そっちのがよっぽど綺麗な面してんでしょうが!黙れ!」
「うん。…して、いいの?」
「何度も聞くな。男に二言はありません!」
 ここまで来て引けない。第一触れたいのは俺も一緒で、ただどうしたらいいんだかわからないのと、色々と想像するだけでも叫びだしそうになるだけで、欲しいっていうならなんだってくれてやるつもりでいるんだ。
 だがしかし。勝手が違うしどうしたもんだろう。まあキスまでは分かる。それから闇雲に触れたくなるのもわかる。そこから先がどうも想像すらできない領域だ。
「あーもう好き。知らないよ?俺は警告したからね?今更嫌って言っても俺が死ぬまで離さないよ?」
「なんですかそんなの当たり前でしょうが。俺だって死ぬまでそばにいますよ。爺になってもあんたが俺に飽きなかったらですが」
 今までこんな風に他人を好きになったことがないからわからないけど、俺はどっちかっていうと執念深いというか執着が激しい方だ。一度好きになったら自分から離れる自信はない。
 気づかないままだったらわからないが、こんなに持て余すほど大きくなってしまった思いを、今更なかったことにできるほど器用じゃないんだ。
「飽きる、ねぇ?ありえない」
「へ、そ、そうですか?」
 この人は噂と違って一途というか、まっすぐな人だ。とはいえこうもあっさり言い切られると信じられないというかだな。…いや、わかってるんだ。この人は敵相手じゃなきゃ嘘もまともにつけないし、意外と引っ込み思案でここまでの行動を起こすってこと自体がすごいことだってことは。
ただこんなにも都合よくことが運ぶことに、いまいち感情がついて行っていない。
「疑うの?」
「そう、じゃねぇ!アッ!こらまて!そ、そこ!」
「いれたい」
「うあ!ちょっと、まて!頼むから!」
「どう?イイ?」
 尻に指突っ込まれてどうもこうもないだろうが。生理的な涙で視界が滲んでいるのに、男が笑っているのだけはわかる。振動があらぬところから伝わってくるせいもあるんだが、そんなことまで考えたくはなかった。
「うぅ…!んだ、これ…ッ!」
「んー?ま、慣れてよ。これからも何度もするんだし」
 手慣れた様子からして向こうには経験がありそうだ。…ちょっと待てよ?入れる。入れるってことはその、今とんでもないことになっているところにだな。その、この、なんていうかデカブツを。
「無理!だって!わぁ!」
 足が白く抜けるような肌をした肩に乗せられている。すね毛が当たって嫌じゃないんだろうか。俺なら無理だ。脱いだら意外と肩幅があるんだなぁ。っていやいや今はそんなとこに感心してる場合じゃねぇ!
「無理でもするよ。ああ、大分開いてきた」
 ぷちゅりと濡れた音がして、それが突っ込まれたものとそれに塗られていたなにがしかの液体からするものだと気づいてしまった。女のように濡れた穴に、自分でも知らない奥に、この綺麗な人の指が。
「汚いから、ダメだって、俺が、自分で」
「汚い?どこが?自分でなんて無理でしょ?」
 正論だ。無理だってのは自分でもわかる。いやでもそんなもん気合でなんとかなるかもしれないじゃないか。
「うるさい!お、れだって!」
「ん。じゃ、また今度ね?」
 笑顔は酷く爽やかで、思わず息を飲んでしまうほどだったのに、そこから先の行動は容赦など欠片もなかった。
 重いはずの足を軽々と抱えあげられたまま割り開かれる。焦りを感じさせる手に尻の肉をつかまれて、貫かれた。
「いっ!ってぇ…!む、り!」
「ッん、無理でもするって言った。大丈夫。痛いとかそんなの気にならなくなるくらいするから」
 それはむしろ犯行予告と呼ばないだろうか。
 腹を裂くように押し込まれた熱い異物を、全身が拒んだ。本能が、痛みと、それから雄としてはあり得ないこの状況に悲鳴を上げる。逃れようともがく体を抱き込む腕は優しいのに一方的で容赦がない。
 ずるずると突き進むそれがいつか永遠に続くんじゃないかと錯覚するほど長く感じて、痛みを逃すために乱れた息さえも、蹂躙者が奪い取っていく。激しく奪うようなそれは口づけというよりは食われているようで、頭の中が白くかすんでいった。
「あ、あ…!」
「はぁ、全部、入った」
 全部って、なんだ。尻に当たる皮膚とそれからやわらかい感触はあれか。この人の。
「いたい。あつい」
 入ってるのは分かる。他人の鼓動を内側から感じるなんて初めてだ。怖いだなんて言いたくないから、ただ感じたことだけを口にして、そのせいでなぜ男が眉を下げて笑ったのかがわからなかった。
「あは、かわいい。うん。背中爪立てていいから、ほら」
 縋らされた背は広い。木の葉の忍としては至って標準的、いやむしろ大柄な方である俺よりも、普段は細っこく見えるこの人の方が体格は良かったらしい。男としてのプライドが少しばかり傷つき、だが触れる肌は滑らかで、爪なんか立てたらもったいないとか、散漫な思考でそんなことを考えていた気がする。あとは、笑った顔が欲にまみれているのに綺麗だとかな。
「いっ!や、な、で!や!」
「痛い?ねぇ、ここも?」
 押し込まれて抜かれて、それからまた戻ってくる。そりゃそうだ。突っ込んで終わりって訳にはいかない。だがその対象が自分となると、頭も体もついていかなかった。
 宥めるように触れてくるそこが、とっくに限界に近いほど勃った性器であることも、そんなところを触られていること自体も、尻に突っ込まれてるってのに達しそうになっていることも、何もかもが受け入れがたい。
「うー…!」
「泣かないで。まだ痛い?」
「違う。なんで、痛くねぇんだ?も、でちまう」
 必死で訴えたのに返ってきたのは口づけで、それからすぐにまた揺さぶられて変な声が止められない。
「もっと気持ちよくなって?」
「うあ、あッや、ダメ、だってッ!」
 背中を叩いても懇願しても鼻水だって垂れそうになってるってのに、脂下がるばかりでこっちの話なんて少しも聞いちゃくれない。
「こんなにかわいくなっちゃうなんて知らなかった。明日歩けないかもしれないけど全部俺が面倒みるから」
「飯、作るって、やくそく」
 面倒とかそういうのはいいんだ。こんなことできるくらい元気になったのは正直ほっとしていいのか悪いのかわからないが、少なくとも俺の心労は一つ減った。
 比べ物にならないくらい大きな問題に直面してる訳だが、それはそれとして、とにかく早く終わってほしい。
「うん。その前にごちそう全部食べちゃってからね?」
 うなじに吸い付かれて驚いて、笑ってるのが癪に障ったからやり返したのに嬉しそうにするばっかりで、ゆるゆると揺さぶられてはそこそこに触れる手に煽られて、理性がすり減っていく。
「きもち、いい」
「そ?良かった」
 出そうで、でも慣れない感覚のせいか出せなくて苦しいのに気持ちがいい。頭が馬鹿になったんだろうか。
 もがいて喘いで、高ぶった性器を強く扱かれて、多分耐え切れずに放っていた。そのせいで、中にあるものを締め付けてしまって…小さい声で出すよと言われたのは覚えている。
「ッ!あ、うそ、だろ」
 中に、何かが。注ぎ込まれる熱い何かが突っ込まれた穴から溢れて伝い落ちてくる。
 男に、中に出された。
 それを望んで受け入れたはずだったのに、酷いことをされた気分になるのが不思議だった。男なのに、男にやられたんだって事実を突きつけられて、プライドってやつが軋んだ。
 勝手に零れた涙を、荒い呼吸のまま男が舐め取っていく。信じられないことばかりが連続して起こったせいで、抵抗する気力さえ残っちゃいない。
「初めてってホントに手つかずなのね。…あーだめかも。手加減とかできるわけないでしょ」
 随分な言われようだ。男となんてやったことある訳ないだろ。あんたくらい綺麗なら別だろうがとか、文句を言ってやるつもりだった。
「ぅあ!え、あ、もう?なんで!」
 中にしっかり吐き出したはずのそれが硬度を増して、収まったまま膨らんでいく感触は、正しく恐怖だったと思う。
「ごめんね?」
 少しも悪いと思っていないのが丸わかりの笑顔は詐欺師にも似て、そこからはもうドロッドロにされた。何度出して、何度出されたか思い出せないくらいに。
結局、どっちが先か知らないが、意識なんて保てるはずもなく、やっと布団の中で目覚めたときには布団は互いの吐き出した体液で湿っていて泣きそうになった。おまけにその犯人の腕に力強く抱え込まれて身動きが取れない。
泣きすぎて頬が痒い。尻と股関節があり得ない感覚を訴えてきていて、それが何のせいなのか思い出すと今にも羞恥で死ねそうだ。自分がどんな格好をしたせいでこうなったのか考えるのが恐ろしい。
「やりすぎだろ…」
 文句の一つも言ってやりたい。独り言さえ掠れて荒れた声で迫力などまるでないが、こんな状態になるまでやるのは流石にやりすぎだ。
 とはいえ、すやすやと健やかに眠る男はこのところまるで見られなかった穏やかさをたたえ、至極幸せそうで起こすのが憚られる。それにどのみちこの状態じゃ動けないんだよなぁ。
 モヤモヤしたものを感じつつ、体をもそつかせると、眠っていたはずの男がゆっくりと目を開いた。
「もう、俺のだ」
 にこーっと笑われて毒づくことすら忘れた。勝手にキスまでしていって、そのまま息が苦しくなるほどぎゅうっと抱きしめられる。
 …しょうがねぇなぁ。ホントに。
 とにかくなるようになった。色々と受け入れきれたとは言い難いが、この人が幸せそうならそれでいい。

 妙にすっきりした気持ちで瞳を閉じた。眠れない夜がやっと終わってくれた予感を噛みしめて。

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適当。
さ、さいろくでいいかなぁとか。
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