これの続き。 先輩はどちらかというと穏やかな人だ。内心はともかくとして、攻撃的な言動をとることはほとんどない。 もしかすると他人からの害意に慣れすぎてるだけかもしれないけど。 それにどっちかっていうと念には念を入れて石橋を叩くどころか石橋自体を疑って自分で橋作っちゃうような慎重な人だ。 その人が、いや正確に言えばその人の姿をした人がすさまじい拳圧でもって、最近ずっとストーカーみたいに追いかけてきていたターゲットをボコボコにしている。 策を弄し、敵を正面から攻撃するなんてことは滅多にない。仲間を守るために気軽に身を挺しちゃうとこはあるけど、そんなときでも生存率を考えて自分が生き残ったほうが良いと判断したらちゃんとその辺も考えてくれるようになったんだ。 何が起こっているか信じられなくて、でも途中で気づいた。 コレは先輩じゃない。確実に。 「仲間にクナイを向けたってことは覚悟くらいできてんだろうな…?」 「ぐぅ!んだ、てめぇ!写輪眼は弱ってるって情報…!」 「あの人のことをそんな風に呼ぶ資格なんて、お前みたいなやつにはないんだよ!」 振り下ろした拳は正確に脳天をつき、おそらくは加減もしなかったんだろうけど頭がはぜそうなほどの威力だったそれをチャクラでガードしたターゲットは地にめり込んだ。 始末すべき厄介者でしかないそいつのことを、ほんの少しだけ同情したのは、攻撃があまりにも情け容赦なかったからかもしれない。 うん。これは確実に先輩じゃない。ってことは、むしろ事態は進展したってことなんだろうか。もしかして。 「怪我人追い回しやがって!あの人が、どんな気持ちで!大丈夫だなんて言わせたのはお前か!こんちくしょう!」 「誰だてめぇ!なんだ!どうなってんだ!俺はあいつを!」 「うるせー!馬鹿野郎!死んで反省してこい!」 一応相手は上忍だ。それを肉弾戦で圧倒するこの人は、たぶんだけど間違いなく。 「イルカ先生!」 「あ?さすがですね。でももうちょっとなんで大人しくしててください」 片恋の相手の家から飛び出してきたのは確かに先輩で、今も戦闘…というより一方的な蹂躙を続けている人とそっくりな外見だが表情が違いすぎる。焦りに顔をゆがめた方が本物で、たぶんこのとてつもなく狂暴そうな表情を浮かべた方が。信じたくないけど。 「ちょっ!なにやってんの!ホントに!止めなさいよテンゾウも!」 「えーっとですね。先輩とその、先輩の格好をした方はそのー?」 「あ、すみません!ちょっとこれ片づけたら事情を説明させてください」 「待ちなさいって言ってるでしょ!そいつからは一応情報を引き出さなきゃいけないんだし!」 「ああ、イノイチさんなら息だけしてればなんとかしてくれます!」 「笑顔で怖いこと言わないの!」 ああ、なんていうんだっけ。こういうの。夫婦漫才?かな。 …そうこうしているうちに、抵抗するチャクラさえ尽きたのか、それともなにがしかの術でも使ったのか、それなりに面倒だと思っていたはずのターゲットは半ば物言わぬ屍になりかけている。 「あのー。その人僕が預かっていきますんで、ええと、先輩はこちらの先輩じゃない方にきちんと説明して差し上げてください」 「え?いえそんな申し訳ないです!これくらいなら持ち運べますから!」 「そうじゃなくて!なに危ないことしてんの!」 うん。気軽に荷物感覚で上げ下げされてもうめき声さえ上げないソレは、一応は元同胞というか、下っ端でギリギリ採用コースだったけど、一応上忍で、ええと。 まあこういう時は考えるだけ無駄だ。きっと。 だってよく言うじゃないか。夫婦喧嘩は犬も食わないってね。 「そろそろ本気で死んじゃいそうですから。はい。確かにお預かりしました。あとはお願いします。先輩は割とむっつりスケベですけど、あなたにだけは本気ですんで」 ぺりっと先輩風の人から荷物みたいになっていたそれを奪い取り、さっさと担ぎ上げて距離をとった。このままだと半殺しじゃすまないしね。 「お?やばい!すみませんやりすぎましたね。ではその、お願いします。ほんっとこの人は無茶ばっかりするんで」 「いやそれこっちのセリフなんだけど。ねぇ怪我とかしてない?無茶しないでよ頼むから…」 喧嘩、というよりこれはもういちゃついてるんじゃないのかな。はぁ。 予想外の片付き方をしたけど、まあこれでよかったのかもしれない。 っていうか、これ以上ここにいたら巻き込まれそうだし、ある意味コレがいて助かったか。 結果は聞かなくてもあの人の態度を見ていればわかるから、精々今度会ったときにでも盛大にからかってやろう。それがさんざんこっちに迷惑をかけてきた先輩に対するはなむけってもんだよね。きっと。 月明りは穏やかに降り注いで、手元の荷物から漂う鉄さび臭い匂いすらもそれに彩を添えてくれるように思えた。 ******************************************************************************** 適当。 暴走する中忍に圧倒された暗部は、のちに、あの人を怒らせちゃだめだよと真剣な瞳で語ったとか語らないとか。 扁桃腺炎でぶっ倒れております。久々に。それでも明日も出勤だけどな!ご意見ご感想などお気軽にどうぞ(`ФωФ') カッ! |