これの続き。 それは朗報のはずだった。しつこく付きまとって来ていた阿呆を始末できる。間抜けにも自分の力を過信してか、他里の繋ぎを取ろうとして派手に動いてくれたおかげで、そっちはあっさり始末できたらしい。 残った阿呆を消せば終わる。…この穏やかで胸苦しい時間も。 「先輩、珍しいですね」 「なにがよ」 珍しい、ね。そうだな。普段ならさっさと打てる手を打って、指示を飛ばして、任務を片付けることだけを考えていたはずだ。 体調が十分じゃないこともある。…それ自体があの人への甘えからきていることも分かっている。 優秀な部下が余所者の始末をつけてくれているのは、俺の状態を慮ってのことだってこともね。 「で、あの中忍とは上手く行ってるんですか?」 「行く訳ないでしょうが。まだ傷だってふさがってないよ」 「普段ならそんなもの気にしないじゃないですか。とっとと手を出しちゃえばいいんですよ。あのタイプならほだされるんじゃないですか?大体先輩と同じベッドで寝てる時点でその気があるってことでしょう?」 意外と即物的よね。あったばっかりの頃はこんなじゃなかったのに、すっかり暗部に感化されたっていうか、ね。 ま、いいんだけど。弱って淀んで、むやみに必死だったあの頃より、ずっと明るくなったし? 俺はどうかな。変われたかな。…失ってばかりの人生に慣れていたはずなのに、欲をかいて、結局迷惑をかけただけだったけど。 これで、終わる。終れる。欲しいものを指を咥えてみているだけで終わったけど、あの人を傷つけないで済んだことだけは喜んでおこうか。 「無理。…大体、もう時間切れでしょ」 「ちゃんとあの中忍にご挨拶するくらいの時間なら作れますよ?次につなげたらいいんですよ。先輩ならそういうの得意じゃないですか」 「そういうのいらないでしょ。手紙でも書くよ。多分ちゃんと読んでくれるし、任務なら…」 「暗部が礼儀を守らないって噂が立ったら僕も困るんですよね。転がり込んで迷惑かけたんだし、ちゃんとお礼くらい言っておいたらどうですか?」 妙にしつこい。心配されてるんだろうけど、変に律儀なこの後輩にかかると、他の連中まで一斉に援護にきたりするから今はおとなしくしたがっておいた方が安全か。 「あーはいはい。一応言っておくよ。…でも、アレの始末は俺がする」 「はい。今のところ繋ぎと連絡が取れなくなったことに慌ててるみたいなんで、今日の戌の頃に誘い出す予定です」 「りょーかい」 段取りは済んでいる。後はアレを始末して、それから。 それからあの人とは関わらずに生きていけばいいだけだ。 「それと先輩」 「ん?なーによ?」 「さっさと告白して、玉砕するなりくっつくなりしてくださいね?鬱陶しい先輩と任務をするのはもうこりごりですから」 「うるさいよ。…ま、なんとかするから、そっちよりアレのこと、頼んだよ」 「もちろんです。では」 余計なことばかり口数が多い後輩は、言いたい放題言ってさっさと姿を消した。 あんなでも有能な部下でもある。だからこそ、これだけ短時間で敵の尻尾をつかんでお膳立てまでしてみせた。もう十分休んだってことなんだろう。きっと。 「言わなきゃね」 好きだなんて絶対に言えないけど、ここで過ごした時間が幸せだったってことを少しだけでいいから伝えたい。 我ながら女々しいねぇ。今更芽もないって分かってるのに。 それでも、どうしてもお礼だけは言いたくて、できるだけ俺の痕跡を消しながらあの人が帰ってきてくれるのを待って、すぐにこの家を出られるように準備した。 …お礼を伝えるつもりが閉じ込められるなんて思っても見なかった。 ******************************************************************************** 適当。 どうせかなわぬ恋と諦念に浸ってたらしてやられちゃったという話。 ご意見ご感想などお気軽にどうぞ(`ФωФ') カッ! |