これの続き。 穏やかな夜を待ち望んでいた。でも、だからってこれはないだろうよ。 「…迎えがきたみたいなんです」 青白い顔のまま、装備を整えた上忍が儚げに笑った。それはまるでこれから死にに行くと宣言しているようなもので、それなのに本人はその状況を当然と受け止めている。 この人を付けねらっていた変態の場所がわかったことと、だからそれを始末しに行くのだということだけをぽつぽつと語り、妙に綺麗に片付いた部屋で、世話になったと頭を下げている。 許せなかった。だってこの人は里のために平気で死のうとする人だ。自分の命に執着がなさすぎて、俺のちょっとばかり派手な古傷はやたらと心配してくるくせに、自分のまだ血を流し続けている傷口は気にも留めない。 馬鹿だろう。こんな状況で出て行ったら、この人に目をつけてたって変態の毒牙にかかるようなもんじゃないか。それどころか命さえ危ういのに。 「そうですか。じゃ、ちょっと待ちなさい」 気づけばそう口にしちまってたのはまあ多少勢いもあった。 ほっとけないだろ。こんな人。…どうせ眠れないなら、目に見えるところにいる人を心配している方がずっとマシだ。どこかではかなくなってんじゃないかとか、眠れないどころじゃすまないからな。 どうせ眠れないなら、このいつだって自分を最後にする人を守ることを優先したい。 「え?」 珍しく驚いた顔をするのが少しだけ笑えた。素だと意外と表情豊かなんだよな。顔を半分隠しているのはそのせいなんじゃないかと思うくらいには、この人の感情を読み取れるようにはなった。 子供みたいに震えて平気だっていうくせに青い顔して、そうしてずっと不安そうにしていた。 眠れない原因は未だにはっきり分かったわけじゃないが、この人をこのまま行かせたら、俺は多分一生後悔するだろうってことくらいはいくら何でもわかる。 「俺も行きます。…できれば俺があなたに変化してうろついてみせたいくらいなんですが、それじゃ納得しないでしょう」 「は?なにいってんの!危ないでしょうが!」 「アンタこそ何言ってんですか!怪我人は黙って寝るのが仕事だってんだ!俺はご存知の通り逃げ足も速いし変化も得意です。トラップも結構自信があるんですよ。上忍相手に逃げ回って倒したこともあるんで安心しなさい」 これは嘘じゃない。任務内容自体が間違ってたんだよなー。中忍一人で逃げ回りまくって、一気に吹っ飛ばしたときは救援に来た上忍が後から笑って褒めてくれた。ちなみにその任務はAランクになった。普段よりずっと多い報酬が嬉しくて、早速一楽でラーメンにトッピング奮発したら、テウチさんが余りにボロボロな俺を見かねて餃子までつけてくれたっけな。懐かしい。 「でも駄目。暗部の任務です」 「だからなんだ。アンタがどうしてもっていうから俺が行くって言ってんですよ!」 「お願いだから無茶言わないで。なにされるかわかんないのよ?大体機密…」 「へっ!受けて立ちますよ!あーいっそアンタここに縛ってから行きましょうか?」 「…イルカ先生。目が据わってますよ…?」 怯えるというより本当に驚いているらしい。目がまん丸だ。外見の割に幼い表情をするから、放っといたら何するかわからないって思っちまうんだよな。きっと。 この人上忍だったよなー。一応うみの家直伝、絶対解けない結び方は完璧に身につけてるんだけど、この人けが人だしな。術は弱ってても、ほぼ確実に俺のじゃかからないし、布団で簀巻きにでもしてついでにいざってときのために三代目からもらった札で結界でも張るか。いやむしろ今発動させちまった方が早いな。 算段をつけたら後は実行するだけだ。不愉快なヤツにはたっぷり痛い目を見てもらおう。 「で、どうすんですか。俺と行くか、それともここで縛り上げられつつ俺を待つか。どっちがいいですか?」 「どっちも無理。聞き分けてよ」 「そうですか。しょうがねぇなぁ」 やっぱり布団蒸しかと律儀な性格が現れている丁寧にたたまれた布団を手に取った。 その途端、逃げようとしたんだろうな。多分。窓を開けようとして弾き返される上忍って、多分はじめてみた。 「え?うそ!なにこれ!」 「ナルトになにかあったとき用の便利なモノがあるんですよ。じゃ、俺はちょっと出てきますから、ちゃんと寝てなさいね」 びしっと言いつけると印を組んだ。悪戯のために変化を極めようと、人間観察にいそしんだ経験は無駄にならなかった。この人の顔も表情も全部覚えている。それに多分言葉遣いも。この人の部下にはばれちまうかもしれないけど、ぱっと見でも目を引ければ時間稼ぎくらいはできるだろう。後のことはなるようになる。 少なくとも、この人をこれ以上傷つけないで済むはずだ。 チャクラが全身を覆う。煙が上がって、次の瞬間には、どっからどうみても目の前で乙女すわりでへたり込んでる上忍そっくりになっていた。 「じゃ。また」 「ちょっと!待って!待ちなさいって!イルカ先生!」 バンバンと結界を叩く人は、しばらくでれこられないはずだ。なにせ三代目謹製、俺以外出入りできない結界だからな。 それにしても思ったよりちゃんと声がでるようになってるなぁと、少しばかり感慨深く思いつつ、玄関の扉を閉めた。 歩き方も怪我を意識して少しだけ軸をずらす。こういう細かいところからボロがでるんだ。気は抜けない。 「先輩。お別れは済みましたか?」 早速迎えに来たらしい。あーまずったな。もうちょっと事情を聞きだしてからにすれば良かったか。 できればもう少し状況を聞きだしたい。敵の場所が分かった方がずっと動きやすいんだが、上手くだまされてくれるだろうか。 「まーね。で?」 「案外平気そうですね?まあそうじゃなきゃ僕たちも困るんですが。アイツはやっぱりまだ諦めてないみたいですよ」 猫面の身につけた言葉からすると、どうやらカカシさんの後輩らしい。良くしゃべってくれるのはありがたいといえばありがたいが、言葉遣いからすると随分と親しいらしい。ボロがでやしないかと冷や冷やした。 暗部騙しちゃってるんだよなー。今。こうなったら最後まで騙しとおすしかない。 「しつこい男は嫌われるのにねぇ?」 以前受付の女性職員に絡んでいたしつこい上忍連中をおっぱらってくれたときの台詞だ。ぶん殴る気満々でいた俺をよそに、華麗に女性職員の皆様の心をわしづかみにしていった。俺もスカッとしたけどな。さりげなく俺のことまで気遣ってくれて、喧嘩の売り時は見極めなさいとか言われたんだっけ。 かっこいいからいつかは言ってみたかった台詞だ。こんな状況だと心臓がバクバクしそうで誤魔化すのに必死だけどな。 「先輩。どうしたんですか?」 「なにが?」 「…振られても諦めちゃ駄目ですよ!僕が思うに脈はあります!」 振られた?諦めちゃ駄目ってことは…あれか。あの人はもしかして今誰か好きな人がいるのか。 …なんだ?それ。良く分からないがすごくショックだ。 「はいはい。それより」 「あ、そうですね。今は分身を追いかけさせてますが、そろそろ気づく頃でしょう。ここで僕が護衛をしている体で餌をみせつけるんで、始末をお願いします」 必死のポーカーフェイスは恐ろしいほどに上手く行って、後輩さんはこれから打つべき手をしっかり教えてくれた。 このイライラをぶつける相手が、ここ数日の怒りをたっぷりぶつけるべき相手が、これからやってくる。 「…先輩。怖い笑い方するの止めてくださいよ…」 心の中だけで後輩さんに詫びておいた。 なにせ敵さんは元気いっぱいに俺めがけてクナイを投げつけてきたからな。 「見つけたぞ!写輪眼!」 その台詞が逆鱗に触れたなんてこと、敵さんは最後まで気づかなかっただろう。 「それはこっちの台詞だってんだよ!」 ちょっと地が出て、ついでに猫面の人が吃驚したのか飛び出してきて、それを尻目に勢いのままにボコボコにしちまったからな。思いっきり。 ******************************************************************************** 適当。 中忍の八つ当たりはすさまじかったと、末永く暗部に語り継がれたとか告がれなかったとか。 ほぼ引っ越したのでしばらくぬるっと更新になると思います。 |