今夜も眠れない2(適当)



これの続き。

 大義名分ってのは便利な代物だ。たとえば善良な中忍の家に止む無く怪我人として転がり込むとか、ね?
 追っ手がいたのは嘘じゃないが、普段ならこの程度の怪我、いくら毒を食らってたって叩きのめして二度と…なんなら物理的にその気になれないくらいに再起不能にすることだってできた。
 ただタイミングが悪かった。写輪眼のコピー忍者を屈服させるために組み敷きたいと望む阿呆は、同時に里抜けなんて大それたことまで企んでいて、愚かにも手土産として俺を望んだ。ついでにいうと、自分の手管でめろめろにした、なんて言葉もくっつけたかったみたいだけどね。食らった毒の質からして、動けなくしてから毒牙にかけてくれちゃうつもりだったのかも?
 端的に言えば馬鹿だと思う。俺に言わせれば暗部に入れたからってそれだけで特別って訳じゃない。当たり前だが大抵の忍は首を落とされれば死ぬ。燃やされても溺れても命を失う。暗部には何がしか秀でた技術や隠し玉がなきゃ入れないし、策略知略をある程度めぐらせられなければ所属できないって程度で、上忍で多少頭が回れば、それから殺すことを躊躇わない効率を重視した戦い方ができれば招かれることはある。
 何せいくら人を入れても入れただけどんどん死ぬからねぇ。特に新入りは。忠誠心は通り一遍の適正検査…一般の忍よりねちっこいヤツは一応するけど、そこから先は入れてみてから調べればいいって考え方で運営されている。  生き残ったヤツだけが本当に使える里の駒として重用される。そこまで残れなきゃさらに詳しい検査も調査も行われない。普通の忍より待遇は多分いいだろう。任務外でなら、ってことばがつくけどね。任務中なんか人間だと自覚してたら保たないようなヤツばっかりだもん。
 そんなところにただ入れたってだけでまだ生き残れるかも分からない経験の浅さで、ふんぞり返って特権を振りかざし、あまつさえ里の外で追っ手を振り切って生き抜けると錯覚できるなんて頭の中身がおめでたすぎて涙が出る。
 選民思想に支配された哀れで愚かな男を泳がせるためには時間と罠が必要だった。そいつは放っておいても大した脅威じゃないが、引き込んだ他里の連中は厄介だ。えさに釣られた馬鹿のせいで被害がでるのは御免こうむる。
 だから弱っているフリをしてわざと手当てもせずに血を流したまま里中を逃げ回ってみせたんだけどねぇ。期待を持たせて俺を餌にできると錯覚させるために。里抜けの期限が延びれば延びるほど、引き込もうとしている他里への接触を図る可能性は上がる。そこを引っ掛けてもろともに処理するのが当初からの計画だった。
 誓って言う。普段なら本当に平気だ。崖のぼりだってできる程度の軽傷なんだ。今までならこの解毒後の気だるさも気にしなければいいだけのことだと割り切って、Sランク任務だってこなしてきた。この程度の失血で動けなくなるくらいなら、上忍になる前に死んでいただろう。
 ただこの人がひたすら優しく看病してくれると、不思議なほどに身体から力が抜けすぎてしまうだけだ。
 あそこにいて勘違いしてしまう理由は分からなくもない。寝床も食事も武器も、それから女も羨望のまなざしも、望めば大抵のものは手に入るから。
 多分、この人も。
 でも、それはしたくなかった。好きだといえば考えてくれちゃいそうだったし、弱みを見せれば落ちてくれるだろうと踏んでもいた。
 この人はなんていうか、同情を愛情と履き違えてしまうタイプの人だ。傷ついた誰かを自分の懐に大事に大事にしまいこんで、自分がどんなに傷つけられても、たとえ死んでしまったとしても盾になって立ちはだかって、一歩も縄張りに敵を入れようとしないような。
 この人にその気がなくても俺が好きだと告げてめそめそ泣いて見せでもすれば、少なくともどう応えるか悩むくらいはしてくれる。あっさりばっさり切って捨てることができない時点で、俺みたいなタチの悪いイキモノ相手じゃ勝負なんてみえてるのにね。
 この酷く居心地のいい夢のような空間に転がり込んだのは、打算と偶然の産物だ。ほどほどに里の中心部に近く、共に内偵を進めている仲間に追わせるにはちょうどいい立地だったが、無意識にここに足が向いたのは多分ここにこの人の家があると知っていたからだろうと今更後悔している。
 逃げ込むには都合のいい地点だったからだと本人には説明したが、そんな説明よりも俺の怪我の状態ばかりを心配してくれて、巣から落ちた鳥の雛でも育てるように大事に大事にされている。図らずも懐にもぐりこむことには成功してしまった。
 たとえ逃げ込むには最適でも、この人のテリトリーに軽々しく足を踏み入れるべきじゃなかった。
 この葛藤を運が良かったと割り切れたなら、もっと早く結論が出させただろうか。
 面倒見がいい人だ。おっかなびっくり野菜を切ってボロボロにしていたところをみると料理の方はからっきしみたいだが、こっちは戦場で食うような大雑把な飯には慣れっこだ。自宅でならそれなりに腕を振るう俺はそれなりに料理が得意だと告げると、これだけ迷惑をかけているのに飯を作ればチャラにするとまで言い出した。なんてお人よしなんだろう。
 布団だってシーツ交換で済まないくらい汚した。即、換えの手配はしたけど、それだけじゃ償いきれない。怒鳴られてたたき出されたっておかしくはないのに、甘やかされてだるさに負けた身体を拭いてくれて、食事も食べやすいものを用意してくれた。
 同じ布団で包まってあたためてくれるけど、その度にこの人を食ってやりたいと思っていることなんて想像もして見ないんだろう。きっと。
 これが怖かった。身体は少しずつ動けるようになっていく。内偵も順調らしい。ま、狙っていた獲物が行方不明ってことにされてるから、混乱を十分に誘えたんだろう。諦め切れなきゃ俺を探るだろうし、焦れて逃げることを優先すればそれはそれで始末もしやすい。
 もう動ける。いつもならとっくに策敵班に指示を出し、囲い込む下準備を済ませていただろう。…だが今は、どうしても動きたくない。
「カカシさん?」
「あ、すみません。起こしちゃいましたか?」
「俺のことばっかり気遣ってねぇでちゃんと寝なさい!」
 叱られちゃった。それすらも心地良いのだからどうかしてる。
 もうちょっとだけ、ずっとなんていわないからここにいさせて欲しい。
 心からのささやかな願いはいつだって踏みにじられると知っていたのに。
 俺のちっぽけで真摯な願いごとは…傍にいるだけで欲を感じる相手を傷つけずにもう少しだけ傍にいてくれることだ。大それた願いなんかじゃない。もうちょっとだけでいいからこの人を独り占めしたかったんだ。
 優秀な部下たちがそれを許してはくれなかったけど。

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適当。
中忍の心配や思いとは裏腹に、上忍意外と必死。

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